■後期の3機
最初にちょっと前回のフォローを。
シャトルの飛行任務番号が途中からわけがわからなくなる、
と書きましたが、調べてみたらその一部が判明したのでちょっとだけ説明を。
第10回目の打ち上げから、打ち上げ回数を無視した数字になる、
というのは前回説明した通りですが、その後、1986年のディスカヴァリー事故までは
以下のルールで飛行任務番号は決定されてたようです。
ここではチャレンジャー事故の時の飛行任務番号(STSナンバー)を例にとりましょう。
STS-51L
まず最初の「5」は会計年度の末尾の数字で、これは1985年度予算の計画を意味します。
アメリカの会計年度は前年の10月1日から始まっており、
そもそもチャレンジャー事故は1986年の1月なので、これは前年度予算の
計画達成が遅れていたのだ、というのが読み取れるわけです。
実際、チャレンジャーの前に打ち上げられた飛行計画はSTS-61Cで、
すでに86年度予算の計画になってました。
次の「1」は打ち上げ基地の番号で、「1」は普通にケネディ宇宙センター、
「2」がヴァンデンバーグ空軍基地からの打ち上げ計画でした。
……ヴァンデンバーグ空軍基地?という話はまた後で。
最後の「L」はその年度内の打ち上げ回数で、アルファベット12番目のLは
12番目の計画である事を示してます。
年間12回の打ち上げってそんな無茶な、と思ってしまいますが、
実際は欠番があって85年度だとE、H、Kが欠番でした。
よってこれは9番目の飛行計画となります。
それでもスゴイ数ですが、結局打ち上げが追い付かず
翌年度に繰り越されてたわけです。
とはいえシャトル計画当初のNASAがどれだけのペースで
打ち上げをやろうと考えていたかがうかがえて、興味深い部分ではあります。
といった辺りが1986年1月のチャレンジャー事故までの飛行計画番号の読み方、となります。
1988年9月の飛行再開からはこのルールが無効となり、
おそらく単純に計画順の番号になるんですが、それでも打ち上げ回数とは一致してなかったり、
計画の最後にRの文字が入ったりして、微妙によくわからない部分が残ります。
この辺りがすっきりするのは、前回も説明したように、
1996年の75回目の打ち上げをSTS-75としてからです。
といった辺りで前回のフォローは終了。
さて、とりあえず今回はスペースシャトル後期の軌道船、
最後まで生き残った3隻を紹介して行きましょう。
●OV-103 ディスカヴァリー
■Photo : NASA
軌道船の4号機、宇宙船としては3番目の機体。
シャトル運用3年目の1984年8月30日、飛行任務STS-41Dで初飛行。
この機体はチャレンジャーから採用された白い耐熱タイルの代用品、
耐熱繊維(AFRSI
blankets)が
さらに大幅に採用されたため、それまでのシャトルでは
最も軽量な機体として完成したようです。
といっても、この次のアトランティスが最軽量記録は
あっさり更新しちゃうんですけどね。
ディスカヴァリーの名は欧米人として初めてハワイに到達した
イギリスの冒険野郎船長クックの艦隊の船、
HMS
ディスカヴァリーから(ただしクック本人は別の船に乗っていた)。
ただし他にも「発見」という名を持つ探検船はいくつかあり、
それら全ても含む、といった説明もされてますので、
まあ、歴代ディスカヴァリー全てがその由来、という所でしょうか。
おそらく「発見」という名前が欲しかったので、由来はなんでもよかった気がします(笑)。
39回の飛行任務、総飛行時間約364日22時間(ほぼ1年)、
搭乗した宇宙飛行士延べ252人の記録は、
シャトル軌道船5機の中では全て最大の数字であり、
ある意味、シャトル飛行隊の主力機だったのがこの機体です。
そして当然、人類のあらゆる宇宙船の中でも最大記録でもあります。
おそらく今世紀中には破られる事は無い気がしますね、これ。
ちなみに偶然なのか、NASAが最も信頼してたのかどちらか不明ですが、
2度のスペースシャトル喪失事故、すなわち1986年のチャレンジャー、
2003年のコロンビア、それぞれの後の打ち上げ再開で、
最初に打ち上げられたのは、どちらもこのディスカヴァリーでした。
やはりスペースシャトル飛行団の主力なのだな、という気はします。
その主な飛行任務の内、最も有名なのは宇宙望遠鏡、
ハッブル望遠鏡を打ち上げた事でしょうか。
さらにトラブル続きだったハッブルで2度目と3度目の
修理飛行を行ったのもこのディスカヴァリーでした。
ついでに1998年、あの“マーキュリー7”の生き残りで、当時は上院議員だった
ジョン・グレンが77歳の最高齢宇宙飛行を行ったのもこのディスカヴァリーです。
で、この機体は宇宙に出た軌道船としては初めて最後まで事故無く運用を終了、
2011年2月24日の飛行計画STS-133を最後に引退しました。
ちなみにこれは当時生き残っていた3機の内では、最初の引退です。
その後、現在はスミソニアンのウドヴァハジーセンターに展示中なのは既に書いた通り。
でもって、ディスカヴァリーについて書くなら、
せっかくなのでちょっと脱線して(まただよ!)、
先にちらっと触れたヴァンデンバーグ空軍宇宙基地について少し解説しておきましょう。
■Photo :
NASA
あまり知られてませんが、アメリカ空軍はカリフォルニア州のロサンゼルス北西部に
独自の宇宙基地、ロケット発射場を持っています。
この写真にあるヴァンデンバーグ空軍基地ですね。
その名は戦略爆撃マニアにはおなじみ、チョー2枚目空軍将軍、
ヴァンデンバーグにちなみます。
第二次大戦中の対ドイツ欧州戦線の戦略爆撃で主要な役割を果たし、
戦後に独立した空軍において2代目参謀総長となったあの人です。
ケネディスぺ―スセンターに比べるとだいぶショボイ施設のようですが、
冷戦中、まだまだ予算があった時代の空軍は、ここをシャトル発射可能な基地にしてしまい、
実際、1986年には空軍の任務のため、ここからシャトルを打ち上げる予定になってました。
これが飛行任務STS-62Aで、最初のヴァンデンバーグ空軍基地からの
シャトル打ち上げになる予定でした。
飛行任務番号62Aの「2」は先に説明したように
ヴァンデンバーグ空軍基地からの打ち上げを意味するわけです。
この時はスパイ衛星の打ち上げだったと見られてますが、
おそらく機密性の高い計画はより秘密を守れる空軍基地から運用したかったのでしょう。
が、この計画はその年の1月に起きたチャレンジャー事故によって延期となります。
さらに2年半もシャトルの運用が延期された事、事故の結果、シャトルの運用条件が
厳しくなったことなどによって最終的に
ヴァンデンバーグ空軍基地からの打ち上げはキャンセルとなります。
このため飛行再開後、ケネディ宇宙センターからの2番目の飛行任務となった
STS-27Rがその代わりとなりました。
以後、ヴァンデンバーグ空軍基地からの打ち上げは計画されなくなってしまいます。
ちなみにこれはシャトルによる3度目の軍事任務(DoD
mission)でした。
……はい、ここまで読んであれ?っと思った人、居ますかね。
思ったあなたは、キチンと記事を読んで理解してくれてる私の心の友です(笑)。
カリフォルニア州のロサンゼルス北西部だって?
えらい北の位置だし、そもそも西海岸では、
内陸となる東向きに宇宙ロケットなんて打ち上げられないじゃん。
はい、その通り。
地図で見るとこんな感じになります。
■photo :
NASA
東海岸、大西洋岸沿いのケネディ宇宙センターに比べ、
西海岸、太平洋岸のヴァンデンバーグ空軍基地(Vandenberg
Air Force
Base)
はずっと北側にあるのが見てとれるでしょう。
北緯で言うと34度43分あたりですから、日本で言ったら島根県の松江市、
あるいは鳥取県の鳥取市あたりと同緯度であり、どう見ても赤道付近ではありませぬ。
さらに、ここから地球自転方向の東向きにロケットを打ち上げたら、
それらは皆、大陸横断ロケットになってしまい、
途中で落下してくるものは全てアメリカ本土を直撃する事になります。
そんな危険な打ち上げ、できるわけがありませぬ。
じゃあ、どうなってるの?というと実はここは極軌道、
つまり地球を南北方向に回る軌道に打ち上げる衛星専用の基地なのです。
東方向への打ち上げを前提としてないので、
地球カタパルト効果は不要で、よってこの位置にある、という事ですね。
(それでも遠心力による打ち上げ重量の面で不利になるのだが、
この程度の差ならガマンできると考えたのだろう)
実際、上の地図で示されたように打ち上げ方向は全て太平洋側の
南西から南東方向に限られててます。
上の地図では軍と同じ基準で北を0度として140度、158度、201度の方向が示されてます。
56度、70度、104度は軌道傾斜角のはずで、これは赤道面から見て
どれだけ傾斜した面で軌道を描くかを示したもの。
56度は思った以上に浅い角度で、これは極軌道とはいえ、
ほとんど赤道面と両極点の中間を回るような軌道になります。
ちなみにその打ち上げ線の上に描かれた半円は
固体ロケットブースターの最大予想落下範囲。
…これ、回収も結構大変そうですね。
なるほど近年の民間ロケットがパラシュートの着水回収ではなく、
ロケット本体による飛行帰還を目指すわけだ。
で、軍の宇宙基地が極軌道専用だ、という事、
それは地表を隈なく観察するには極軌道が有利だからだ、という事を
理解しといた方がいいと思うので、ちょっとだけ追加で解説して置きます。
基本的に地球上を隈なく観察するなら
北極点、南極点を通過する軌道が効率が良くなります。
なのでスパイ衛星などはこの付近の軌道を利用するのが普通です。
なんで極軌道がいいの?というと以下のような感じになるからです。
ただし上の地図がホントなら、アメリカ空軍は極点(軌道傾斜角90度)よりちょっとずれた
56度、74度、104度辺りで運用してるようですが。
一番単純な、両極点上を通過する軌道を考えましょう。
例えば地球上のA点とB点を観測したい、と思った場合、
南北の両極点を通過する軌道で回っていれば、
地球の自転によって、向こうから勝手にこちらの飛行軌道下にやって来てくれるのです。
すなわりここをグルグル回ってるだけで、地表の全てが観察できます。
東方向、地球自転方向の軌道ではこうは行きません。
ちなみに基本的に地球の引力に捕まって落下しない、
地球を周回するのに十分な遠心力を得るには、
地球中心点を中心とする円軌道を描く必要があるので、
(楕円軌道だとちょっと話が変わってくるが)
赤道上を東向きに飛んでる軌道の人工衛星が、その通過緯度(南北方向の軌道)
を変えるのは結構面倒な話になります。
ただし、この軌道でも、特定の日時にドンピシャで目標上空を通過するには速度調整、
つまり飛行高度の調整が必要になるため、話はそう単純ではないのですが、
とりあえず数日の周期で地球表面全体を観測する、というだけなら、
その運用は比較的単純になります。
ついでに、これなら裏表二回地球の表面を飛行する事になりますが、
通常、片側は夜なので、可視光による観測はできませぬ。
(夏至、冬至前後の極点付近とかの特殊な場合は別ですが)
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