■シャトルの衣装
さて、今回は真正面方向の写真から。
ここで軽く注目して欲しいポイントが4つほど。
まずは手前の人物が邪魔ですが、ここは通路なので、常に人が居て、
こればかりはどうしようも無かったのでした…。
お次は垂直尾翼正面の黒い耐熱タイル。
主翼前縁が機首部の衝撃波壁の外に出るなら、
当然、この垂直尾翼もその外に出るわけです。
が、この部分はより高温に耐えられる強化炭素炭素、
主翼前縁に使われていたRCCではなく、通常の黒い耐熱タイルが使われてます。
これは先にも書いたように、軌道船はジェット機の着陸の時のように、
機首部を少し上に向けて迎え角を取りながら大気圏に突入するためでしょう。
この結果、機体の上部は機体下面全体の衝撃波壁の背後に入ってしまい、
それほど強烈な超音速気流にさらされないわけです。
よって、そこまで高温になりません。
前にもチラっと書いたコクピット正面中央の耐熱部が
黒い耐熱タイルなのも、どうも同じ理由らしいですね。
お次は胴体横のLERX部で、正面から見ると、
可能なかぎりシャープなエッジを出そうとしてるのが見て取れると思います。
で、このLERX部が胴体下から上方向に絞り込まれてるため、
この部分は単純な低翼、すなわち胴体下と主翼下が
ツライチでつながってる構造ではなく、
丸みを帯びて機首部に絞り込まれるような形で繋がってます。
この辺りの機体下面は、意外に複雑な形状なのに注意してください。
ついでに、展示のディスカヴァリーは少し前輪が沈み込んでおり、
軽くお辞儀してるような姿勢なんですが、
これがメンテナンス不足で前脚油圧装置の油圧が抜けてるだけなのか、
着陸後、キチンと接地して摩擦を高め
短い距離で止めるための工夫なのかはわからず。
(この姿勢だと主翼上面に風圧を受けるので後輪が地面に押し付けられる形になる)
今度はほぼ真後ろから。
個人的にこういった構図はワクワクしますな。
主翼下面は、ほぼツライチで、単純に平面に繋がってるのが判ると思います。
こうして見ると、シャトルのメインロケットエンジンも、意外に大きく見えます。
その上の左右に見えてるやや小さなロケットノズルは、前回説明した
OMSエンジン、軌道上操縦装置エンジンのもの。
(Orbital
Maneuvering System (OMS) engines)
ついでに前回書き忘れましたが、このOMC/RCSポッドは、
マクダネル ダグラス社の製造でした。
すなわちグラマン社製の主翼と同様に、機体製造を担当する
ロクッウェル インターナショナル社の製造部分ではありませぬ。
ついでにその上に見えてる黄色いカツラみたいなのは、
上に展示されてる人工衛星のパラボラアンテナなので、
無視してください(笑)。
主翼後端部が分割稼働する板状の別パーツになってますが、
これはエレボンで、昇降舵(エレベータ)と補助翼(エルロン)を兼ねてるもの。
Elevator + Aileron=Elevon という命名ですね。
前にも書いたように、無尾翼デルタの場合、本来なら水平尾翼がある尾部まで
その主翼が伸びてしまってるので、本来水平尾翼あるはずの昇降舵(エレベータ)を
主翼の後端部に付けます。
当然、通常の主翼のように機体を傾ける補助翼(エルロン)の
働きもするので、エレボンと呼ばれます。
ちなみに以前に説明したように無尾翼デルタでは、フラップとしては使えません。
もう一点、エンジン下の巨大な板は、以前説明したように
大気圏突入時にロケットノズルを保護するものですが、
実はここも可動部になっていて、付け根を軸にして下げる事が可能です。
胴体フラップ(Body Flap)と呼ばれてますが、
離着陸時の高揚力を得るための装置ではなく、
大気圏突入後、これを下げる事によって機体後部を上に持ち上げ、
機体の迎え角を調整するのに使われてます。
おそらく超音速飛行時の姿勢制御が主目的で、
ここに超音速気流をぶつけて衝撃波を発生させ、
その高圧部の力で上に持ち上げると思われます。
……あ、となると、以前見た温度分布の写真で、
この部分が高温化してたのは、そのためか。
よく強化炭素(RCC)にしないで大丈夫ですね、これ。
ちなみに、この胴体フラップ、
上に上げる事ともできる、という話もあるんですが未確認。
ちなみに上に曲げると、衝撃波の裏で発生する
低圧の膨張波が生じるはずなので、機体尾部は下に沈むはずです。
少し別角度から。
ロケットノズル下、先に説明した胴体フラップが
よく見ると別パーツなの、わかりますかね。
手前の主翼を見ると、エレボンが2分割にされてるのが判りますが、
無尾翼デルタでは普通の設計です。
機体を左右に傾ける補助翼(エルロン)としては、外側が使われ、
(テコの原理によって機体中心軸から遠い方が小さい力で回転させられるから)
機首の上げ下げを行う昇降舵(エレベータ)としては、
必要に応じて両側が使われる、というのが基本的な働きです。
が、実際は必要な力の大きさによって、これらを組み合わせて使います。
よって人力による精密な操作は結構困難であり、
シャトル軌道船ではコンピュータを間に挟んで細かな操作を制御する
フライ バイ ワイアを利用してます。
(1977年に滑空試験に入ったエンタープライズの段階で既にすでにアナログでは無い、
デジタルコンピュータ制御だったとされるが、確認はできず)
逆に言えば、フライ バイ ワイア技術なんて無かった時代の無尾翼デルタ、
ミラージュIIIとか、F-102&F-106なんて、
よく完全手動で飛ばしてたな、という感じがします。
ついでに垂直尾翼部の舵のフチが黒いのも見て置いてください。
恐らく段差があると衝撃波が発生しやすいのだと思います。
ちなみにこれ、色は黒ですが通常の耐熱タイルとは別の、
もう少し耐久温度が低い耐熱素材が使われてます。
この点はまた後で。
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