■スミソニアン編

さて、ここからはワシントンD.C.にある
スミソニアン航空宇宙博物館の本館で展示されてる機体を見て行きます。
これもオリジナル状態の維持という点では疑問が残る機体ですが、
かなり丁寧にレストアされているので、資料的な価値はそれなりにあると思われます。

ただし、狭い本館の一角に押し込んでるため、見れる角度が限られ、
せっかくの機体なのになあ、というものになってるのが、残念なところ。



まずは横から。
狭い上に解説版がゴチャゴチャ置かれてるため、撮影はこれが精一杯。
おじさんはちょっと泣きたいぞ。

こちらは戦後、アメリカがドイツで展開した、ルスティー作戦で回収された、
シリアル番号W.Nr.500491機で、これも A-1aとされてます。
ドイツ国内で押収されたものでらしいですが、詳細な来歴は不明。

ちなみにドイツの先端技術回収を目的に、
終戦後に展開されたのが米軍のルスティー作戦でした
LUftwaffe Secret TechnologY、略してLUSTYなんですが、
直訳すると元気もりもり、やる気満々、といった意味で(例によって少々下品な意味もある)、
アメリカ軍が大好きな一種の駄洒落命名でしょう、これ。

その作戦の成果としてアメリカに持ち帰られた、このMe262ですが、
これも戦後各地でテストされまくり、その間、いろいろ改造されてしまいます。
特に機首部が偵察型Me262のパーツと差し替えられてしまう、という大改造があり、
結局1950年の実験終了後まで、そのままだったようです。

なので展示機体、銃口から後ろの機関砲周辺部は1978年から始まったレストアで
ゼロから作り直された新造パーツと見て良いでしょう。
さらに、レストア開始段階で、すでに腐食でボロボロだったともされるので、
どうもほとんど全部作り直してしまった、という機体ですね。
それでもかなりしっかりレストアされてはいるので、見る価値はあると思います。
少なくともロンドンの機体よりよほどマシ。

ちなみにこれもノヴォトニー戦闘団、JG7の塗装ですが、
当然、この機体のオリジナル状態の再現ではありませぬ。



やや斜め前から。
Me262はこの角度から見るのが一番カッコいいと思いまする。

で、ご覧のように、Me262の場合、コクピットがやたら後ろに位置してるんですが、
ここで参考までにMe262とほぼ同世代の皆さん、
イギリスのミーティア、アメリカのF-80のコクピット位置を比較しておきましょう。







ね、Me262はコクピットがヤケに後ろにあるでしょ。
特に主翼とエンジンナセルの位置を考えると斜め下前方はほとんど見えないでしょうから、
着陸時の下方視界はかなり悪かったように思います。

もう一工夫があってもバチは当たらないと思うんですが、この辺り…。



少し斜め前から。
主翼の内側前縁で手前にせり出してるのは、高揚力発生装置の前縁スラット。
机の引き出しのように、レールと滑車で前後に動く構造で主翼内に収まってます。
逆に言うと、単にハメてあるだけなので、簡単にずり落ちて来ます。
まあ押せば、キチンと元の位置に戻りますけどね。

ここら辺りは、パイロットが操作するのではなく、
Me109と同じく、迎え角と速度によって自動的に稼動するものになってます。
自動と言っても、何か複雑な電子装置が入ってるわけではなく、
単に主翼に当たる気流の向きが変わると、自動的に動く仕掛けがしてあるだけです。
これ、とてもよく考えられた装置なので、ついでに簡単に原理を解説しておきます。
(ただしMe109の装置は勝手に動く、という事で一部で不評だったのも事実だが)




まず、通常の直線飛行状態の時は、主翼の前の前縁スラット部は
正面からの空気の流れに押さえつけられ、主翼表面に収納された状態を維持します。


が、機体が高い迎え角を取ったとき、つまり離着陸時、急旋回時には、
主翼周りの気流の流れる方向が変わり、前縁スラットを押さえつける力が減ります。

同時に翼断面型スラットの正面が上を向いて、そこに気流が流れる形になると、
当然、その気流は加速されて揚力が生じ、その力でスラットは上に持ち上がります。
この結果、スラットの下に隙間ができて、ここに空気が流れ込むのですが、
スラットは翼断面型をしてますから、その上下を流れる気流は、
主翼と同じように、その後部で渦を起こします。

渦は当然、気圧の低下を意味しますから、この渦が主翼の上面に導かれることで
大きな揚力(主翼の上面と下面の圧力差)が生じることになるのです。
主翼下面より上面の方が大気圧が低いなら、主翼は上に吸い上げられる、という事ですね。
これだと動力も要りませんし、極めて単純な全自動高揚力装置となってるのです。

よく考えたなあ、といつも思いますね、これ。
余談ながら、この機構を主翼上面に空気を導く、と説明するだけでは、
やや片手落ち、スラット部の翼断面の意味を理解しないと
その奥の深い工夫は理解できませぬ。



もう少し正面から。
この角度からだとオムスビ型、ゆるやかな三角形の断面を持つ
Me262の胴体の断面型がなんとなくわかります。

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