■アメリカ空軍博物館展示機

C.202は世界中で2機の現存機がありにけり。
生産数を考えると、よく残っていたな、という感じですね。

その内1機は本国イタリアの博物館に、もう1機はアメリカの
スミソニアン航空宇宙博物館の本館にあります。

今回紹介するのはアメリカのC.202ですが、これは鹵獲された状況もはっきりせず、
当時の書類も無ければ機体の表示板の類も一切無かった、という妙な機体です。
このため、どこで作られ、どういった経歴を持つのかも不明なら、
そもそもサブタイプすらわからん、という不思議な機体になってます。

が、こういう場合は普通、本国のマニアが代わりに調べ上げるもので、
この結果、日本のゼロ戦やイギリスのスピットファイア、ドイツのMe-109など、
各国の主力機で現存するものの多くは、ほぼ素性がわかってます。

ところがイタリアの皆さん、どうもそういった事に興味が無いのか、
イタリア語以外でデータを公開してないのかよくわかりませんが、
この機体に関しては、21世紀になっても全く情報が出てこない、
という状態になっております。
これはちょっと驚きました(笑)。

ついでに、これはスミソニアン航空宇宙館のオープン時、
1976年にあわせて準備された初期のレストア機のため、
当時、どこまでキチンと調べてレストアしたのか、微妙な部分もあります。

まあ、それでも貴重な機体ではありますし、
ざっと見た限りでは変な部分もないので、可能な限り細かく紹介しておきましょう。



まずは横から。
当然、塗装はオリジナルではありません。
そして鹵獲時どころかレストア前の写真すら見つからないので、
この塗装もどこまで信用していいものやら、何とも言えません。

とりあえず中々流麗なスタイルで、こうして見ると強そうな印象があります。
実際、当時のイタリア機の中ではトップクラスの実力だったとされるのですが、
英語で手に入る資料を見る限り、P-40、P-39相手なら互角以上、
スピットファイアもMk.V(5)までならオッケーと言った感じの話らしく、
それって1941年も後半に入ってから配備が始まった機体としては微妙な気も…。

それでもその性能が買われて、
イタリアの戦っていた戦線のほとんどに投入されたようです。
一説にはスターリングラードにも行ってたそうな。
ただし、総生産数で1200機以下では、1万機以上生産の機種がいくらでも居る
連合軍相手にどれだけ戦力になったのか、何とも言えませんが…。

しかし、こうして見ると原型とされる下のC.200とは全く違うシルエットにしか見えませんよねえ…。
飛燕と五式戦どころじゃない変身ぶりです。



実際、このMc.202、よく調べて見ると、かなりの大幅改造になってます。

まずC.200で大きく上に出っ張って、間違いなく空気抵抗の大きな源になっていた
コクピット周辺の高さが下げられており、胴体全長も伸ばされて、全体にスマートになってます。
そこにコクピット下位置の胴体下面にラジエターまで追加されてますから、
やはりほとんど別物、といっていいような気がしますね。
この200は、あくまで叩き台、といった感じでしょう。



ぶら下げ展示で奥が壁のため、正面からの撮影が難しいのが、ここの機体。
向こうに見えてるのはB-17の壁画ですが、
実はこの部屋の入口には映画トラトラトラの、
準備段階で掛かれたイメージボードなんかも掲げられてます…。

とりあえず、ほぼ真後ろから。

で、C.202はイタリア機という事もあってさまざまな伝説があり(笑)、
実は主翼の左右の長さが違う、というのもその一つです。

レシプロエンジンにはトルク(回転力)の反作用という現象があります。
これはエンジン軸がプロペラを回した力(作用)の反作用として、
逆向きに同じ大きさの反トルク(回転力)が機体に加わる、というものです。

それでも通常はプロペラより機体の方が
はるかに重いのでそう簡単には回転しませんし、
さらに左右の主翼がこれを抑えてしまうので、あまり問題になりません。
が、あまりに強力なエンジンだと、これが無視できなくなる可能性があります。

で、イタリア系エンジンより強力だったDB601系を搭載するにあたり、
このトルクの反作用を恐れたカストルディは
C.202の主翼左右の長さを変えてしまいます(笑)。
こうすると、主翼が長い方が揚力が大きいので、そちらが持ち上がるため、
この力で反トルクの回転を押さえ込もうとしたわけです。

その結果が以下の写真ですね。
ちなみにこれ、夕撃旅団史上初めて、引用だから許してね、
という事での、赤の他人の写真掲載でもあります(笑)。



これは試作機を後ろから撮影したもの。
左右の赤い線の長さは全く同じで、
ご覧のように右の主翼の方が短くなってるのがわかります。
これがカストルディ流のエンジン トルク対策なんですね。
スゴイ発想ではあります…。

で、1200馬力も出ないエンジンでそこまでやるか、変な設計じゃの、と
ずっと思ってたのですが、今回、上で掲載した
ほぼ真後ろからの写真で同じ事をやって見てビックリ。



あれ、右翼の幅、足りてるじゃないの(笑)。

先に書いたように、この機体の来歴も不明なら、
レストアの精度も不明なので断言はできませんが、
どうもC.202の左右の主翼で長さが違う伝説は、
試作機だけの可能性があるようです。

イタリアの方に残ってる機体の正面、
あるいは真後ろからの写真があれば、
量産機では左右の主翼の長さは一緒だった、と断言できちゃうのですが、
当然、そんな写真、私は持ってないので、何とも言えませぬ。
実は前期型と後期型では主翼の形状が違う、という話もあるようですし…。

とりあえずC.202の主翼の長さって左右で違うんだぜ、
さすがイタリア機だよね、という話は
試作機だけだった可能性もあるよ、
少なくとも全機がそうではないみたい、という事になります。


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