では、最初に機体全体を見ておきましょう。まずは右側面から。

このCR.42、下の主翼はやや短く、複葉と言うよりは樋口半、
否、一葉半という構造なんですが、
これでもか、まいったか、とばかりに取りつけられた主翼間の豪快な支柱で、
そこら辺の空気抵抗の減少はチャラになっちゃってるんじゃないか、という気が…。
さらに主翼下の主脚は当然、折りたたみ不可の固定式、
それどころか、これも補強の支柱がバンバン付いてます(笑)。
ついでに、着陸状態だと機体の重量がかかって主脚の緩衝装置が沈み込んでますから、
この程度の長さで済んでますが、空に上がってしまうと、まさにビローンという感じに伸びますゆえ、
さらに長くなり、ステキなまでの空気抵抗源となります。

で、エンジンはイタリアの空冷式、フィアットA.74RC.38を搭載。
おそらくマッキのMC.200と同じタイプなんですが、もう少し覚え易い名前にしてもらえないもんでしょうか(笑)。
このエンジンも謎が多いというか、美しいまでに資料がないのですが、
とりあえず870馬力前後しか出てなかった、とされています。
ちなみに世の中に出回ってる数字によれば、CR.42の最高速度は高度5000m前後で約440km/h。
この機体、あまり戦争には向いてないんじゃないでしょうか…。

もっとも、この博物館の解説によると、素晴らしい運動性を持った操縦が楽しい機体であり、
1940年から参戦した複葉戦闘機としては最高の機体、とされてます。

が、これはイギリス式の解説のような気がしますね(笑)。
1940年に運用の始まった複葉戦闘機って、他に思い出せませんし。
(ただし1940年は実戦投入された年で、部隊配備は1939年。
よって I-153と同時期だが実戦投入は39年のノモハンに投入された I-153が先)




反対側から。
実に豪快な支柱が主翼間に付いてますね。
ついでに、コクピットが結構、後方にあるのもわかります。
これ、主翼の位置からして、上も下も前方視界はほとんど無いような気が…。

主翼は見てわかるかと思いますが金属骨組みに羽布を貼り込んだ構造。
くどいですけど、1938年初飛行で(笑)、その主翼は羽布張りです。
ただし、さすがにこの時期になると骨組みには鋼管、重い鉄製だけでなく、
軽いジュラルミンもその構造材に使われてます。
もっとも進化はそこまでで(笑)、機体の構造は金属管で骨組みを組んで、
その上から外板を貼り付けただけのものとなってます。
つまり、モノコック構造ではありません。

見て判るように、機体前部は金属板が取り付けられてるのの、これは布と同じ単なるカバーであり、
モノコック構造のような、機体強度保持の一部を担う構造材にはなってません。
なので、第一次大戦期の機体と基本的な構造は変わらず、
アタマからシッポまで、ジャングルジムのようにきっちり組まれた骨組みで構成され、
そこに外板を貼り付けただけ、という構造になっています。
ちなみにそんな中身ながら、主翼は極めて強靭でどんな機動にも耐えれた、との事。

ついでに上の主翼の下面、後縁にあるエルロン(補助翼)を動かすためのワイアが、
豪快に飛び出してるのにもご注目アレ(笑)。
これ、飛行中にカラスとかにつつかれたら、切れたりしないんか、と不安になるのは私だけでしょうか…。
ちなみに、主翼の上面にもおなじようなワイアがありますぜ。

さて、ここでもう一つ注目なのが、エルロンの前、二箇所に取りつけられた小さな板。
最初はフラップのような高揚力発生装置かな、と思ったのですが、
もしかしたら空戦時などに下げることで、エルロンの効きを強化し、
運動性をよくするためのものかも知れません。
まあ、詳細不明なのですが、主翼上面にも謎の装置があり、これは後ほど登場します。




正面方向から。
エンジン横にやたらと飛び出してる排気管も気になるところ…。

この機体、プロペラはハミルトンススタンダードのものをフィアット社がライセンス生産していたものを使用しています。
よって金属製でして、この点は大戦末期まで木製プロペラが空を飛んでた
ドイツ軍の戦闘機より進んでいた…のかなあ…。

ちなみに、一部の機体はドイツでも使われいたらしいんですが、これも詳細不明。



やや斜め後ろから。
イタリアの戦闘機も、ゼロ戦のように尾翼の後ろに胴体が飛び出してるのが多いですね。
これはマッキの機体などにも見られます。

さて、どう見ても生まれてくる時代を間違えたと思われるC.R.42ですが、
対イギリス本土爆撃の護衛機として投入されていました。

なんでそんな事になったか、というと
ムッソリーニがドイツに貸しを作ってやろうと余計なことを考えて、
ドイツ空軍の支援を目的にCAI(Corpo Aereo Italiano)という組織を編成、
これを1940年後半、バトル オブ ブリテン終了間際あたりにドイツに送りつけたから。

その時、その主力戦闘機として、このCR42が選ばれたのでした。
ちなみに、本気でイギリスを爆撃してやるぜと思ってたらしく、一緒に爆撃機も送り込まれてます。

が、送り込まれたドイツとしても対応に困ったようです(笑)。
そもそも、バトル オブ ブリテンは既に終わっていました。

とはいえ、同盟国の親切を無下にもできず、とりあえずイギリス爆撃を行わせてみる事に。
この結果、この複葉機が護衛機として対イギリス爆撃に参加するのですが、
ハリケーン相手にも一方的にやられる、という状態でした。
結局、1940年の11月から作戦を開始するものの、
どうも3回前後、昼間爆撃をやっただけで、後はウヤムヤになってしまったようです。

ご覧のようにCR42は、キャノピー(天蓋)のない開放型のコクピットですから、
11月のイギリス上空では相当寒かったんじゃないですかね…。

そんなわけで、この展示の機体、1940年製の新品だったシリアル番号MM 5701機は
派遣されていたベルギーから11月11日に出撃したのでした。
が、イギリス上空でエンジントラブルに見舞われ、
イギリス本土に不時着、パイロットは投降し、この機体はイギリス空軍のテストに回されます。

ちなみに、この時、捕虜になったイタリア人パイロットは、
“これでオレの戦争と、ドイツ人と一緒に食べるまずいメシは終わった!”
と大喜びだったそうな…。


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