今回の記事を始める前に、最初にいくつかお断りを。
有料増刊「プーチンのノヴォロシア」で述べた内容は重複を避けるため、今回の連載では触れません。そこはお金を払ってくれた方を優先させてもらいますのでご容赦を。また、新たに書き起こすこの記事では主な地名はウクライナ語のカタカナ表記とします。

■ウクライナ・ロシア戦争

ドゥーギンの「馬鹿にバカ受けの地政学」による影響で頭がプーちゃんになった大統領率いるロシア軍が(憲法により大統領が軍の最高司令官である)、2022年2月に隣国ウクライナに攻め込みました。開戦時の兵力差を考えればウクライナが一か月以上持ちこたえられる、と冷静に判断した人は少数派であり、私も含めて多くがロシアの思い通りに事態は進むだろう、と考えたように見えます。
ところが現実は違いました。底抜けを通り越してメビウスの輪状態でマヌケなロシアは奇襲に成功しながら緒戦でウクライナ軍を無力化できず、以後、まともに主導権を逃げれないまま、じり貧となります。

そもそも速攻で首都キーウを占領、政府要人を逮捕した上で親ロシア派の新政府を樹立、そのままウクライナをロシア化する、というあまりに自分に都合のいいシナリオ以外、ロシア側は想定していなかったフシがあります。このため開戦時のロシア軍は戦闘を前提としておらず、占領軍として地域を占拠、支配するための装備と態勢でウクライナに入ったらしき印象を受けます。

ロシアが三日でこの戦争に片を付ける、と考えていたのは事実のようですが、それは電撃戦で三日で全土を掌握する、といった話ではなかったと考えるべきでしょう。首都キーウを占拠、政府の主要人物を片っ端から逮捕して政権を簒奪、ロシアの飼い犬であるウクライナ人をその要職に付けてウクライナ政府を乗っ取る気だった、と考えるのがおそらく事実に近いと思われます。実際、開戦後、ウクライナ側の政府の要人が複数、ロシアとの内通の疑いから解任され逮捕者が出ています(大統領に関してはロシアに亡命中だったヤヌコーヴィチ元大統領を引っ張り出す気だったと思われるが現在、確証は無い)。

対してウクライナ側政府は奇襲を許したものの、徹底抗戦を最初から決意していました(いくつかの証言からロシア軍が国境地帯に集結中という事前情報を活かせず奇襲を受けたのは間違いない。少なくとも完全な戦闘配置にあった部隊は現在まで筆者は確認できていない)。このためロシア軍が政府要人の脱出を前提に、真っ先に襲撃したキーウの空港やポーランド方面に向かう鉄道路線には大統領を始めとする政府要人は姿を見せませんでした。ロシアの予想に反して彼らは首都キーウに留まり、軍の態勢を整えてロシアを迎え撃ったのです。ここからロシアと頭がプーちゃんの誤算が始まったと思われます。

この時、ウクライナ軍は全土に渡る防衛は当初から諦めており、首都キーウ周辺にその主力を集結させロシアを迎え撃っています(ただし後ほど述べるようにドンバス北部は別)。
これよって分散した軍勢が各個撃破されるのを避けるのに成功、そこから反攻に移るのです。この一連の防衛戦は見事な機動戦であり、さらに本格的な反撃に転じた9月のハルキウ攻勢は完全な電撃戦でした。その後に起きたリマン奪回戦は本来、ロシアが得意とする包囲殲滅戦で、この両者を使い分けるウクライナ軍は、ある意味、現在世界最強の戦術を駆使する軍隊と言っていいでしょう。誰かは知りませんが戦史に名を残すべき作戦指揮官がウクライナ軍には居ます。

これほど見事に「戦術によって圧倒的優位の敵を撃つ」という展開になった戦争は、近代戦においては第二次大戦の緒戦、グデーリアンによるフランス&低地諸国戦以来でしょう。ちなみにグデーリアンは攻勢側で主導権を握り易い状況だったのに対し、ウクライナ軍は圧倒的戦力を持つ相手から攻め込まれた不利な防衛戦での戦術展開です。9月のハルキウ戦はまさに戦争芸術の一つであり、自分が生きてる間に、このような戦いが見れるとは思っていなかった筆者はとても驚いています。ただし現状、細かい戦術、そして戦果を研究するには情報が全く不足しています。よって今回は深く触れません。

その代わりに以後数回、ほぼ確実と思われる情報と状況を選び、解説を行いたいと思います。これは開戦直後からウクライナとロシアの情報を追わせてもらった結果ですが、この点では近年のAI翻訳の進化に大きく助られました。
余談ながらウクライナ語、ロシア語で情報を見れるようになると英語圏の皆さんの適当さが改めてよく判ったのも収穫でした。軍だろうが情報機関だろうが報道機関だろうが専門家だろうが、適当な事を平気で言っており途中から全く参照しなくなりました。この点でも勉強になったと思います。

よって今回の記事作成に当たり参考とした主要な情報源を以下に上げて置きます。2022年10月現在の物なので、時間が経つとリンク切れ等も出て来ると思いますが、参照資料の一覧表代わりだと思ってください。

ちなみにロシアと東欧ではTelegramと呼ばれる告知アプリが広く使われており、これから多くの情報が得られます。いわゆるSNSと違い、コメントを付けたりすることはほとんど出来ない、情報が漫画の吹き出しのような表示で順次流れてくるだけのアプリです。これはブラウザから見る事も可能なため、そのリンク先も載せて置きます(ただし動画のほとんどはアプリからでないと再生できない)。



Telegramの一例。これはロシアの官製報道機関RIAノーボスチのチャンネル。Windowsのブラウザ、EDGEで表示した上で日本語翻訳を有効にした状態です。EDGEのロシア語から日本語への翻訳はやや怪しい部分もあるものの、英語への翻訳はかなり正確です。ただし筆者はそこまで英語に堪能ではないので、日本語で表示し、何か怪しいと思った時のみ英訳で追加確認してます。

■ロシア側の情報源

ロシアの政府機関による発表はほぼそのまま、官製報道機関である「RIAノーボスチ(РИА Новости)」 で記事にされます。よってこれを中心に追っています(厳密には2013年以降、ロシアの政系報道機関「ロシアの今日(Россия Сегодня)」の一部門になっている)。

●公式サイト

https://ria.ru/

Telegram

https://t.me/s/rian_ru

公式サイトとTelegramでは内容が異なる、どちらかにしか情報が出てこない、という状況がしょっちゅうあるので要注意。ちなみに公式サイト内にあるロシア軍公式の戦況地図は驚くほど正直に戦況を反映しており、ロシア側の情報としては最良のものとなっています。ここもリンクを掲載して置きましょう。

●ロシア軍公式戦況図

https://ria.ru/20220622/spetsoperatsiya-1795199102.html


■ウクライナ側の情報源

ウクライナの場合、報道機関を通さず、政府と軍が直接発表する情報が非常に多く、さらに通常、ロシア側の情報より信頼度が高いのが特徴。ただし情報源が多すぎて追いかけるのが大変なので、以下には主なモノだけ上げて置きます。

●АрміяINFORM 

ウクライナ国防省の公式情報サイト。ラテンアルファベットでARMY INFROMと表記されることもあり。余談だが掲載される写真の多くはクリエイティブ・コモンズ表示4.0国際ライセンスの条項に基づき公開されている。

https://armyinform.com.ua/

●ウクライナ大統領府

ここで発表されたものはほぼ間違いない情報と見ていい。ただしその発表は結構遅い。ゼレンスキー大統領本人がTwitterをやっているが、ほとんど情報的な価値がある事は投稿しないので、こちらを見た方がいい。

https://www.president.gov.ua/

Український мілітарний центр

NGOウクライナ軍事センターによる情報サイト。民間サイトではあるが、無数にある政府と軍関係からの発表から重要なものを選んでニュースとするためとても助かる。情報源が必ずリンクされているのも信用度が高い。

https://mil.in.ua/uk/

以上が主なものとなります。

では、前置きはここまでとし、次のページから今回のお題である「新しい戦争の観察」のお話を取り上げてゆきましょう。

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