■ウクライナの防空

さて、今回はウクライナ側の防空網、対空ミサイルとそのレーダー運用の話から見てゆきます。以前にも指摘したように、今回の戦争の特徴の一つとして、圧倒的な航空戦力を持つはずのロシア空軍が完全な航空優勢を取れて無い事、このためウクライナ側の支配地域に回転(ヘリコプター)、固定(戦闘機、攻撃機)どちらの有人航空機もほとんど飛ばして無い事が上げられます。

空を支配するものが戦場を支配する、は第二次大戦以来の定石ですが、ロシアは圧倒的な航空戦力を持ちながらその「空の支配」に失敗しています。同じような条件で地獄を見たベトナムのアメリカ軍と同じくレーダー誘導による地対空防空網がかなり強力で脅威となっているのではないか、というのが筆者の推測ですが、その辺りを考える上でも興味深いインタビューだと思われます。

■移動式レーダー部隊

まずは開戦から約9カ月、2022年11月10日に公開されたウクライナ軍移動式レーダー部隊の指揮官へのインタビュー記事から。

●取材中、レーダ―を展開する位置から60〜70mの位置にロシアのロケット弾が着弾した。直接の脅威にはならなかったが、既にこちらの位置が発見されたと判断され、危険を避けるため予備に設定された退避位置にまで下がるように指揮官は命じた。
(筆者注・発見された上でこの精度となると、ロシア側の攻撃精度はかなり低くお粗末だ。当然、誘導兵器では無いだろう)

●部隊の兵員は素早く機材をまとめて車両を発進させ、森林地帯に覆われた安全な場所に移動した。ほぼ1時間後、レーダーは再び航空状況の監視を開始し、敵の航空目標の座標を提供し始めた。
(筆者注・私は最新のレーダーシステムの知識が乏しいが移動展開に一時間は相当な速度だろう。少なくともベトナム戦争時代の感覚からすると倍以上速い)

●部隊はドネツク地区で約2カ月間、極限状態で作業を行っている。この間、数十機の航空機、ヘリコプター、攻撃・偵察用ドローンが、24歳の若い将校の指揮官と部下たちによって探知された。

●「私たちの装備は最新のものではありませんが、目的に応じてうまく機能しています」と指揮官は言う。「重要なのは機材を良い状態に保つ事、そのための補修、維持です。人間側の要素も非常に重要であるため、隊員の訓練にはかなりの注意を払っています」

●当初、敵は公然と大胆な飛行をしていたという。
「彼らは、私たちがまともに戦えないと思っていたのでしょう。しかし、我々はすぐに反撃した。1日に5、6機の飛行機やヘリコプターを失うようになると、彼らは戦術を大きく変えた。現在、彼らはもっぱら遠距離で活動しており、ウクライナ軍の支配地区に入らずに非常に低い高度で航空機を使用しています。さらに大規模なミサイル攻撃に頼ることが多く、イランの攻撃用ドローンを積極的に使用しています」

●最も困難だったのはドネツク地区に配備されてからだった。敵は最優先でレーダーサイトを叩きに来るからだ。航空機だけでなくドローンによる攻撃も受けた。

●数機のロシア製ドローン、オルラン10が夜襲を仕掛けて来た事があった。これが手榴弾をやみくもに投下し始めると、どこから攻撃されているのかがわからず部隊全員が逃げ惑う事態となった。それでも2人の兵士が軽傷を負うだけで済んだ。



■Photo:ARMY INFORM

開戦直後からロシアが投入している固定翼の中型ドローン、オルラン10。本来は偵察専用の軽量ドローンですが、開戦後の2022年5月から4発の手榴弾搭載型が投入され始めました。両翼のパイロンに卵パックのような手榴弾ケースを搭載、中に二発ずつ入れて飛ばします(容器は投下されず、そのフタが開いて落下して行く)。ただし、無誘導で静止飛行が不可能な機体から投下された手榴弾にどれだけ意味があるのかは、かなり疑問でしょう。ロシア側によると半径10m以内に命中させられる、との事ですが、そのロシア側よる動画でも完全に目標を外してます(何で公開したんだろう…)。

https://armyinform.com.ua/2022/11/30/vorog-rizko-zminyv-taktyku-koly-za-dobu-pochav-vtrachaty-po-pyat-shist-litakiv-ta-gvyntokryliv/


■対空ミサイル部隊

お次は2022年12月23日に公開されたブーク M1(BUK M1/Бук М1)地対空ミサイル部隊の隊長へのインタビュー記事です。



■Photo:ARMY INFORM

ソ連時代の1970年代に開発が始まり、80年代に本格配備が始まったやや旧式な短距離誘導地対空ミサイル(SAM)がブークで、その初期型になるのがM-1となります。写真はそのミサイル発射車両。。写真の左側、ミサイルの先に見える緑の覆いの中に誘導レーダーがあります。他に部隊ごとに指揮車と索敵用長距離レーダー車が付き、これら全てをまとめてブーク対空ミサイルユニットとなるのです(部隊ごとに一台ずつ配置されるレーダー車は基本的に長距離索敵用でそのデータを引き継いでから、この車両の誘導レーダーで目標を追尾する)。このM-1の最大射程は35q前後とされます。

旧式といっていい対空ミサイルですが、ウクライナ軍は未だ使い続けています。ちなみにさらに進化したM2、M3もあり、こちらは21世紀に入ってもまだロシアによって開発、配備が続いてました。

ブークのような短距離対空ミサイルは小型で運用が容易なのと引き換えに射程距離は30〜40q前後と短くなっています。30q先の敵が音速手前の時速1000q=分速16.7qで飛行していると、わずか2分で部隊の真上まで飛ん来れてしまうため、極めて迅速に探知、照準、発射まで行う必要がある兵器だ、という事になります。以下はそんなブーク対空ミサイル部隊指揮官の中尉へのインタビューです。


〇自分は“上着組(піджак)”だ。陸軍では民間から入って来た将校をそう呼ぶ。工科大学から軍に入り、将校となってヘルソン州で開戦を迎えた。

〇2月24日の侵攻開始の日は部隊はまだ訓練中だった。
(筆者注・やはりウクライナ側は完全に奇襲を受けたと見るべきだろう。奇襲に成功、敵よりはるかに大規模な軍勢、これだけの条件を持っても勝てなかったロシア軍は極めて珍しい例だと思われる)。

〇開戦直後、ロシア側の航空機は電子戦によってレーダーの目つぶしをやって来た。すぐに部隊は敵からの攻撃を受けた。

〇すぐさま対空ミサイル部隊を安全な土地まで移動させた。常に敵を迂回しながら無休で移動を続けたので、部隊の運転手は眠気に勝つため歌いながら運転していた。

〇偵察に出した部隊が敵を発見するとそれを避けて移動した。丸一日で400qほど移動してようやくサポリージャ州に入った。

〇そこで戦闘に入る部隊と故障した機材と共に後方に送られる部隊に別れた。自分は後方に送られる部隊だった。

〇3月中旬になってからオデッサなどの後方地区に配備され、後にドネツク州の最前線に送られた。

〇5月7日になるまで実戦経験は無かった。最初の戦果はロシアの大型固定翼ドローン、フォルポストだった。イスラエルのドローンをコピーした機体だが一機700万ドルと言われており、十分な戦果だった。

〇ドネツク市の南東の激戦地、マリインカ(Mar'inka)では常に砲撃にさらされた。敵は野砲を集中的に使って来た。

〇砲撃は数百メートル程度の距離で着弾する。最短だと30mの距離で炸裂した事がある。ただし敵からの砲撃をいちいち司令部に報告はしなかった。そのためには長時間無線を使う事になり、敵に探知される危険が出て来るからだ。このため部隊は常に移動し、敵に捕捉されないようにした。

〇対空ミサイル部隊は移動先の地上部隊から常に歓迎された。どこでも「やっと来たか、いままでどこに居たんだ」と聞かれた。夏にはヘルソン州に移動となった。

〇これまでに34機を撃墜した。内訳はヘリコプター、大型ドローン、自爆突入型ドローンである。8月には1時間で3機のドローンを撃墜した事がある。

〇一度、航空機にも命中したが前線の後ろに飛び去ってしまった。以後、どうなったか判らないから撃墜数には含んでない。

〇オペレターはレーダ反射の大きさと速度などによって、ヘリコプターか、ドローンか、戦闘機かを識別できる。

〇オペレーターによると、ドローンは特異な目標となる。レーダー反射面積が小さいので捉えにくい。レーダー画面に現れたり消えたりするのを見失わないよう追いかける必要がある。

〇ドローンを戦闘機やヘリコプターと比べて過小評価する人間が多いが間違いである。偵察通信のための情報中枢かつ中継点となっており、これを撃墜すれば敵は盲目状態になる。

〇逆にこれを逃してしまうと、友軍部隊が危機にさらされる。よって優先的にドローンを撃墜する事に努めた。

〇自爆突入型のドローンは大型なのでレーダーで探知し、BUKで撃墜できる。小銃で損害を与えたこともあるが撃墜は確認できなかった。

〇10月28日に自爆突入型ドローンの攻撃で部隊のBUK車両が損傷を受けた。人的損失は無かったが、機材は修理の必要があった。

〇このため部隊の本拠地があるヘルソン州の掃討戦に参加できなかった。

ウクライナ側の短距離対空ミサイル部隊の主要な目標の一つがドローンだ、というのは興味深い部分です。従来、そういった戦闘は前提になってないはずで、よくぞ対応したな、と思います。

https://armyinform.com.ua/2022/12/22/na-yihnomu-rahunku-34-znyshheni-povitryani-czili-po-yihnomu-buku-3-vorozhi-pryloty/


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