■小型無人機、ドローンの戦争 ドローンは戦場に必須の兵器である、とウクライナ軍関係者が広報映像で述べているのが無数に確認できますが、これらは前ページで見たような高価な軍用ドローンの事では無いのに注意が要ります。彼らが述べているのは四軸プロペラを持つ垂直離着陸型の小型無人機の事なのです。 photo ARMY Inform このような感じでヒョイと手で持ち上げて飛ばせる機体、誰でも通販で数万円で買えそうな無人機が、戦場の様相を大幅に変えてしまったのがこの戦争の特徴の一つです。既に見たように戦場における高い視点からの観測は極めて有効であり、この安価な小型ドローンによって、人類史上初めて戦場においてその安定した確保が可能になりました。さらにその映像データを友軍内で共有、そこにGPSデータを活用する事で、21世紀の戦争は大きく変わりつつあります。ここからは主にこの点を確認して行きましょう。 ■ドローン戦争の戦い方 ここからウクライナ側の証言を基に、現在(2022年10月)までのドローン戦争を説明してゆきましょう。 まずは通常のカメラに加え赤外線暗視装置(夜間&熱源探知対策)を搭載して飛ばし、高い、すなわち広い視点から敵を探します。その映像はデータリンクにより友軍間で共有され、誰かが敵を発見したら(現状は目視確認のようだがいずれ画像認識で自動化される可能性が高い)GPSから得た敵の位置座標を友軍の砲兵部隊に通報します。後は砲兵部隊が榴弾砲やロケット砲による長距離砲撃で一気に敵を叩くのです。さらに今回の戦争の途中から、アメリカがGPS誘導式の長距離兵器をウクライナに供与開始したため、命中率が格段に上昇しました。 このため先にドローンに発見されてしまった部隊はなす術も無く、一方的に殲滅されてしまう可能性が高いのです。この辺りは太平洋戦争時の空母機動部隊決戦に似た部分があり、とにかく「空からの偵察」によって先に敵を発見した側が一方的に有利になります。 従来の地上からの偵察では、敵の位置を探すだけでも一苦労でした。さらに砲撃を開始しても地上からの目視による不正確な座標に無誘導の砲弾を撃ち込むしかないため、一定の効果を上げるまで時間がかかりました。敵がマヌケでない限り、その間に逃げ出すか反撃するかして来たでしょう。当然、戦果は限られたものになり、さらに友軍にも被害が出る可能性があったわけです。ところがそのようなリスクを一切負わず、先手必勝で優位に戦いを進められる前述のような戦術が既に広く実行されている、と複数のウクライナ兵が証言しています。 それを可能にしたのが高い視点確保のためのドローンであり、中でも滑走路もカタパルトも要らない、前線で容易に運用できる小型ドローンが重要な役割を果たしつつある、という事です。これらは安価なために資金が豊富とは言えないウクライナ軍でも大量に配備でき、多少の損失は痛くも無いという運用が可能になったのです。そこにGPSによる敵位置の正確な把握が加わり、戦場の状況は一変してしまった、という事になります。 人が行動に移るまでの「段取り」を示したOODAループでは、先にループを回し行動に至った方が圧倒的に優位な事を示しています。先に動いてしまえば相手が何もできない内に一方的にボコボコにできるからです。それは必ず敵より先に「観測」することから始まります。その一方的に優位な「観測」を可能にしたのが、無人機、ドローンだったのです。ようやくこの点まで来ましたね(笑)。その中でも前述のような利点により安価で小型な機体が重要になりつつある、という事です。 photo ARMY Inform 小型のドローンは電動モーターでほとんど音がせず、小さいので数百メートル離れてしまうと存在に気が付くのはかなり困難です。実際、今回の戦争でウクライナ側から出て来た映像には機甲部隊の直ぐ上に張り付いて飛びながら、全く気付かれていないものが多数存在します。すなわち、戦場ではまず見つけられないまま一方的に敵の観測が可能となります。OODAループで考えれば、この段階でほぼ勝ちは動きません。さらに赤外線カメラを積めば、夜中にデバガメのごとく移動する敵も丸見えですし、エンジンや人体の体温から、茂みなどに隠れてる敵もまた丸見えになります。 この点、開戦当初のロシア軍部隊は赤外線暗視装置を持たないままウクライナに来たとされ(前回述べたように本格的な戦闘を前提にしてなかった可能性が高い)、極めて不利な戦いを強いられました。街灯も無い漆黒のウクライナの田舎の夜の中、赤外線暗視装置を持つウクライナ軍から一方的にボコボコにされた、と証言するロシア軍戦車兵の記事を読んだことがあります。 余談ながら、今回の戦争は、多数の動画がネットに出回る初めての国家間近代戦争になりました。その中でウクライナ側の映像によく白黒のモニタ画面が出て来るのに気が付いた人も居るかと思います。あれはウクライナ軍が貧乏でカラーモニタが買えなかったからではなく、色の無い赤外線映像の画面を見てるためです。ウクライナ側は赤外線暗視装置を開戦当初から普通に装備していたのでした。 ちなみに小型のドローンをレーダーで発見する事は不可能ではありません。民間用の船舶レーダーでも出力を上げれば小鳥サイズの目標を捕らえることができます。ただしそれには歩兵部隊までもがレーダーと電源車を持って行動する必要がある、というやや非現実的な条件が大前提になります。さらに木立や丘などの障害物周辺にドローンが位置すると、安価なレーダーでは背後の障害物からの反射波に飲まれて見えなくなってしまいます。さらに言えば完全に空中に静止してしまうと、レーダー上の光点がドローンなのか障害物なのか見分けるのは不可能でしょう(レーダーによっては動かない物体は画面から消してしまう)。よってレーダーによる探知でも完全とは言い難いのです。極めてやっかいなんですよ。 さらにもし見つかったとしても数百メートルの距離、さらに同程度の高さに位置する小さな機体を撃墜するのはほぼ不可能です。極めて正確に重力の影響を考慮した弾道計算が必要となりますから、人力補正で照準して撃っても、まずもって当たらないでしょう。ちなみに私は冗談抜きで、ドローンには鷹狩りが有効じゃないかと思ってますが。 ただし小型のドローンでは数km以上も離れた操作は不可能なため、操縦者は比較的前線に近い場所まで進出する必要があります。このため、ロシア側はドローンに気が付くと周辺に居るはずの操縦者を探し出して殺すのを優先する、という証言をウクライナ側のドローン部隊の隊員が証言していました。確かにそれが一番確実かもしれません。 さらに言えば、荒天時の運用は不可能なので、今後の戦争ではドローンの飛べない風の強い日などが戦術的に重要な意味を持って来る可能性があります。 |