■原点回帰2024 さて、そんな微妙な絵の才能しか持たぬ筆者が出会った次の壁が中学の美術の授業でした。美大出の先生は言いました。対象を良く見て描きなさい。 筆者は思いました。何言ってるんだコイツ。無茶言うなよ。 立体を平面に写し取るってのは、三次元座標を頭の中で全て二次元座標に変換し(すなわち情報量を任意に2/3にする)、正確に全ての点を紙に描き込む必要があるわけじゃん。扱う情報量が桁違いでそもそも困難な上に、目盛も無い真っ白な紙の上でどうやって各座標の位置を正確に求められるのよ。そんなの人間には出来るわけないだろうが。先にそこの二次元平面への変換処理の「手法」をちゃんと説明しろよ。それが教育ってもんでしょ。いきなり後はガンバレってどんな授業だよ。 まあ当時はもうちょっと単純にそりゃ無理、程度の感覚で考えていたのですが、要するに最も重要な立体(その先には空間がある)を平面に変換する「手法」をキチンと説明してくれ、それが教育ってもんだろうが、と思ったのです。とにかく描きましょうって小学生に何の説明もなく微分方程式を与えて解いてみな、と言うに等しくそれは教育じゃねえよ、と。 今でもそう思いますが、この先生が正しい面もあったのです。それは天才を対象とした場合。 世の中には見たものを正確に平面に写し取れる才能を持った人間が確かに居ます。それは数式を見ただけで過程をすっ飛ばして解いてしまう天才と同じ種類の人間です。すなわち理屈で対処してるのでなく、とにかく出来てしまう人間です。確かに彼らにとってはいい訓練なのです。ただしそんな才能、十万に一人も居ないと思われ、やはり教育としては無意味です。まあ世の中の美術教育の9割は無意味だし、そもそも感性、センスは教育でなんとかなるものじゃありませぬ。あれは「技」術系教育であり、それに「美」を付けるのは自惚れが過ぎようと思っております。それでいてまともに技術的な面の解析、教育すらしてません。実際、世の中の絵の上手い人の大半は教育に関係なく、自らの才能だけで描いてるでしょ。 では私は立体物を描けないのか。いえ、描けます。ここからはその解説です。世の中には理屈で論理的に描く絵もあるのでございまする。そしてそれは以前も説明したようにパースと言う名の作図とも別なのです。 今回は誰もが街中でよく見かけるであろうホンダのモトコンポを例にしてみましょう。まあ、正直描きやすいし。 いわゆる美術系の教育では見た通りにそれを紙に写し取れ、とだけ言ってオシマイです。三次元情報をから不要な情報をゴッソリ削り取り、さらにそれを正確に紙に写し取る方法については何ら教えてくれませぬ。そこが一番重要で必要な事なのに。 ちなみに写真は既に二次元情報に変換されているため、その模写の難易度はかなり低くなります。というか立体物の模写とは完全に別物です。対象点を見て、紙上の同座標に点を置いていけばいい点対応画法なのです。実際、写真や絵を模写する能力を持った人間は結構いて、筆者も一人だけですが、そういった人物を知っています。ただし筆者には、そういった能力すらないので、やはり何らかの「手法」が必要になります。ではどうするのか。 こうするのです。全てを構成要素単位に分化し絵にして、その形状をキチンと理解します。まあ実際は産まれて初めて描く構造物とかで無い限り、頭の中で展開させるだけでここまではやりませんが。 人の顔の描き方で見たように、筆者は対象の立体構造が理解できれば絵に出来ます。ただし機械や街中の風景は人の顔に比べるとあまりに複雑で、ファミコン並みの頭脳しか持たぬ筆者の限界を余裕で超えてゆきます。よって形状を理解しやすい最低限の単位ごに分解し、その単位ごとに絵にしてゆきます。困難は分割せよ、ですね。 ただし現物が目の前にあるなら楽ですが、写真の場合、暗くて見えない、角度によって形がまるで違う、などの例がいくらでもあるのでかなり苦労します。幸いにして最近はネットの画像検索により、大抵のものは複数の角度から形状の確認ができるのですが。 さて、形状把握が済んだら作業開始です。車輪を持つ機械は車輪の位置を最初に決めて描いて行かないと後で前後の接地位置がオカシクなりがち。よってここから開始です。ついでに個人差もあるでしょうが、タイヤから描くと全体のバランスもとりやすく感じます。左右反転してるのは最初に構図の狂いを確認するため。 筆者は上に見える構造物をドンドン後から重ねて行くので、最初に車輪周りを完全に仕上げてしまいます。ちなみに直線、曲線、円、楕円、どれも下手なので使用している画像処理ソフト、Photoimpactにある描画機能を多用しています。ただし今回、タイヤ周りは構造が複雑なので完全に手描きとしました。結論から言うと失敗で(涙)、異常に時間が掛かってしまう。ホントに図形を描くのが下手だなあ、と再認識。 後はデジタルならではの描き方で、半透明のレイヤー(画層)を重ねて車体、シートなどを上から描いて行きます。ここら辺りは練習である程度まで上手くなれるので、絵の才能が無い、と思っている人でも形に出来ると思います。まあ、立体把握能力があるならそれに越したことは無いんですが。 ここからもデジタルならではの描き方に。胴体と座席を別のファイルとして作業します。この方が作業がやり易いのです。座席を別としたのはこの辺りがちょっと入れ込んでおり、別品として描いて、後から重ねた方が楽だと判断したから。楽をしたいのよ。絵は描きたいけど、めんどくさい作業は嫌なのよ。 ではそれをタイヤと合体。あれ、どう見ても後輪の位置と向きが変。こういった失敗も簡単に直せるのがデジタルお絵かき。パースの狂いなので変形ツールで横方向に圧縮して誤魔化します。フフフ、黙ってれば絶対にバレない自信があります。 シートを合体させて、細かい部分も少し付け足す。 一番面倒なので作業を最後にしたハンドル周りを描き込んで終了。この辺りは全て画像ソフトの直線&図形描画機能で描いてます。それと後輪の位置が思ったより後ろだったので、こっそりこれも移動してますが、黙って居れば絶対にバレないので大丈夫。 正直、まだちょっと色々あるんですが、今回はあくまで立体物の描き方の説明なので、これでオシマイ。対象をよく見て写し取るなんてやらなくても立体物を絵にすることは出来るし、私としてはこの方がよほど教育的かつ万人向けと思ってます。模型を組み立てるようでちょっと楽しいですしね。まあ紙に描く場合はトレス作業が面倒ですが、それでもこの描き方はできます。 以上が筆者の考える立体物の描き方についてでした。お次は線画の描き方の作業手順を見て行きます。 |