■それは、おレーダー
射撃管制レーダーは、目標の正確な位置、
つまり自艦から見た目標の距離と方位の情報を正しく得るのを目的とする。
そのため、以下のような問題をクリアする必要があった。
その技術的な解答が、レーダー波の高周波化だったわけだ。
まずは問題その1。
同じパルスの中に複数の目標が入ってしまうと、正確な数がわかなくなる問題。
1つのパルス波に対し、反射は1回だから、
二つ以上の目標が同時に同じパルスにひっかかってしまうと、反射は1回しか起きない。
これが図の上、波長の長いパルス波の場合だ。
二つの目標にレーダー波が当たってるのに、反射は一つだけなので、
レーダー上では一つの目標として表示されてしまう。
「ダメじゃん」
まあ、警戒レーダーなら相手の存在がわかるだけでも無意味ではないんだけどね。
が、射撃管制レーダーでは、これじゃダメだ。
この問題を解決するには、パルス波の波長を短くする=周波数を高くして、
その分解能力を上げる他に手段はない。
目標同士の間隔より、パルス幅が短くないとダメなんだ。
(一般に目標間隔の1/2以下の長さまで落とす必要があるとされる)
波長が短ければ、図の下のように、それぞれ別々のパルスが反射して、
キチンと目標の数だけ反射が返ってくることになる。
「あれ、でも低周波の警戒レーダーでもパルス波の長さは1.5mとかでしょ。
識別には倍の長さが必要だとしても、3mも間隔があいてればいい。
現実的には、そんな狭い間隔を保って移動する船も飛行機の編隊もないから、
これって問題にならないんじゃないの?」
まあね。余裕を見ても5m前後の間隔があればなんとかなるだろう。
普通に考えれば、地雷犬とか爆弾コウモリとかでないかぎり、
これだけの密集は不可能だろうね。
もっとも開戦直後のイギリスの対空レーダーとかは30MHz、波長10mだったから、
相手が航空機だと、これは結構厳しかったはずだ。
まあ、米軍に問題を絞るなら、一般に問題になるのは次のビーム幅の方だね。
先ほど書いたように、レーダーのビーム幅は遠くに行くにつれて広がる。
すると図の上のように、同じビーム幅内に複数の目標が入ってしまう可能性が出てくる。
その結果、またもや反射は一つとなって、
レーダー上では一つのカタマリとして認識される事になる。
だから、図の下のようにビーム幅は可能な限り絞って、
キチンと目標ごとにパルスの反射が得られるようにしたいわけだ。
「ああ、奥行きだけでなく、幅も狭くしないと、別々の目標を分別できないのか。
問題山積みだねえ…」
全くだ。でもって、こっちの方が深刻なのさ。
「そもそも、このビーム幅って狭くすること、できるの?
勝手に広がってしまうもんでしょ、電波なんて」
これも以前に書いたが、ビーム幅はレーダーアンテナの長さとパルス波の波長に比例する。
アンテナは艦載レーダーでは物理的に大きくできる限界が5m前後なので、
後は波長の方を変えて行くしかない。
で、これも波長を上げれば上げるほど、ビーム幅は狭まるようになってるんだよ。
よって、ビーム幅を狭くするのにも高周波のレーダー波が必須となる。
「ああ、それで高周波化がいるのね。
ちなみに、実際にビーム幅ってどんくらいなのさ?」
結構広いぞ。
レーダーアンテナ幅5mで、200MHz、波長1.5mだと17.5度。
これは、20km先で実に6000mを超えてしまう事になる(笑)。
「全然ダメじゃん…」
まあね(笑)。
ちなみに実戦で使われた射撃管制レーダーで最高周波数は3GHzクラスなんだが、
これでも20km先で400mの誤差となるから、そのままでは厳しい。
レーダーが距離は正確だが、方向の判別はアテにできない、といわれる理由がこれなんだ。
だから、第二次大戦中は、レーダー射撃でも、可能な限り、
目標の方角は目視で計測してる。
が、この数字がそのまま、当時のレーダーの性能を表すわけでもないんだ。
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