■欠点と利点をハカリにかけたら、欠点、圧勝



てなわけで、戦艦に飛行機積んで、着弾観測をやらせてみたら、
尋常ではなくバッチグーで、腰が抜けるくらいエクセレントだったわけだ。
だから、これを使わない手はないね。
さっそくだ、ペロ君、あの敵艦の上空で着弾観測を頼むよ。

「ハハハ、まかせておけよ!簡単な仕事じゃん!」



1940年に配備が開始された、アメリカ海軍の戦艦&巡洋艦でよく見る、
ヴォートOS2U キングフィッシャー。
現物は結構デカイのだが、搭載エンジンのR-985/ワスプ ジュニアは、
実はわずかに450馬力しかない。まあ、それでもなんとかなったんだろうが…。
この機体、砲撃観測には“特例”をのぞいて全く使われなかったのだが、
その分、撃墜されたパイロットの救難、対潜哨戒など、けっこう幅広い用途で使われた。

ちなみにこの愛称のキングフィッシャー、
王様漁師ではなく、カワセミのことなんだが、
アメリカのカワセミって海にもいるのか…?


「…うう、死ぬかと思った…」

…あ、どうしたペロ君、もう帰ってきちゃったの?

「…速攻でボコボコにされました…」

だよね(笑)。近づけただけでも奇跡だよ。

「わかってたなら止めろよ!」

まあ、何事も経験だ。体験すればよくわかる。
当たり前だが、砲撃観測機が採用されてから、第二次大戦まで、
アメリカは一度も実戦を経験していない。

「…だから?」

着弾観測機の優秀性はあくまで、演習で証明されたものだったのさ。
アメリカの砲撃演習は、木製のパネルを駆逐艦などで曳航して、これを目標とした。
当然、速度は遅いし、そもそも反撃してこない。
そりゃ、やりたい放題だ。



アメリカの砲撃練習用標的はこんな感じ。
木で作られた箱組みのパネル、と思っておけば間違いない。
何種類かあったが、最大のものでも左右60フィート(約18.3m)しかない。

このため、想定目標が戦艦の場合、
これを複数連結して標的とした。
それでも、最大172フィート(約52.5m)まで、というから、
実際の戦艦よりは大分短い寸法だったようだ。
ちなみに戦艦想定の時は縦にも2段に組んだ、という話があるがホンマやろか…。

で、これを駆逐艦やタグボートなどで曳航して演習は行われた。
が、なにせ数百メートルなんて簡単にズレる戦艦の長距離砲撃、
その曳航用のロープはかなり長くする必要があり、
結局、直線をゆっくり進むだけの標的となったのでした。
まあ、何も練習しないよりはずっとマシですが、実戦とは程遠い内容に…。

ちなみに短距離砲撃演習時は、これへの直撃が求められたんですが、
遠距離射撃の場合は、このターゲットの周辺、
どれだけ近い位置に着弾したかが評価ポイントとなるのであります。



「要するに、実戦でどうなるか、誰も考えてなかった?」

そんな感じ(笑)。
まあ、すぐに考えたんだけど、結構イヤンな結果となった。
つまり、使い物にならん。

「撃墜されちゃうから?」

それが一番大きい。
1920年代後半の段階で、アメリカも日本も、その高角砲、つまり対空砲は、
高度で8000m、射程距離で10kmを超えていた。
こんなのを搭載してる相手に、非力なエンジンの砲撃観測機が
ヘロヘロと近づいていったら、全身全霊でぜひ撃ち落してください!
とアピールしてるようなもんだ。
速攻であの世へご招待となることに、アメリカ海軍もすぐ気がついた。

さらにそれ以外にも初期には無線のトラブルや、
実は煙幕を張られてしまうと上空からでもよく見えないという意外な事実(笑)
などなど、問題が次々と登場した。
が、1930年代中盤までは、他に解決策がないから、
アメリカ海軍もイロイロ対策を考えた。

「とりあえず弾の届かない、15kmくらい離れた場所から観測すればいいじゃん」

さあ、そこだ。
その点をちょっと見てみよう。



これは輸送船リバティーシップに積まれていた対空砲。
恐らく3インチ(約7.6cm)、50口径 対空&対艦両用砲の一種じゃないかと思われる。
1915年の段階で実用化されていたこのクラスの砲でも、
初期型の射程距離で8000m近くまでとどいた(初期のは高角で撃てない)。
後の改良型では対空砲撃も可能となり、
射程距離11000m、高度7000mまで到達可能となる。
これが、潜水艦や輸送艦レベルの対空砲。

当時の戦艦、巡洋艦クラスには、これよりも強力な5インチ(約127mm)砲、
日本海軍も127mm砲、つまり同じ5インチクラスの高角砲が採用されている。
さらにその上、戦艦クラスの周囲には巡洋艦や駆逐艦が展開してるわけで…。

そんなわけで、実戦なら10km圏内には全くもって近づけない、
少なくともノンキに観測なんてやってられない状態になるわけです。



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