■みんな最初はいい考えだと思うんだ
この
“戦艦、巡洋艦クラスにカタパルト使って飛行機積んじゃえ”
というアイデアを実行したのが、
当時のアメリカ海軍の艦隊総指令(Commander in Chief of the Battle
Fleet)、
ロビンソン大将のダンナだった。
ちなみに、こっちはS.S.ロビンソン大将で、
あの1920年代にアメリカの戦艦を片っ端から電動にして(笑)、
第二次大戦時に海軍の戦時生産統括をやったステキ博士将軍こと
S.M.ロビンソン大将とは別人なので注意。
「で、それで問題は解決したの?」
チョー大解決してしまった。
やってみてビックリ、考えてみりゃ飛行機なら敵艦の上まで飛んでゆける。
結果、異常なまでに正確な着弾観測が可能になり、
従来の数倍、というレベルの命中率が期待できることが判明する。
後年の話ではあるが、1935年6月に海軍戦争大学(Naval War
College スゴイ名前…)
がまとめたレポートでは、艦上からの着弾観測に対し、
距離29000ヤード(約26.5km)で実に6倍もの命中率が期待できる、としている。
「シャア専用のさらに2倍!」
その換算はどうかと思うが、まあ、スゴイ。
ただし、この数字、注意する必要がある。
1935年というのは、実は砲撃観測機無用論が高まり始めた時期と重なるんだ。
どうもこのレポート、砲撃観測機有効派の弁護、
といったニュアンスが見え隠れする感じがある。
「有効だったんだろ?なんで無用論派がいるの?」
そこら辺は順番に見ていこう。
とりあえず、着弾観測、という任務はいけそうだ、となる。
海軍が航空機に強い興味を示すのはここからだ。
ちなみに、アメリカじゃ海軍が本格的にカタパルト装備を開始する前年、
1921年の段階で陸軍のミッチェルが鹵獲したドイツ戦艦や旧式戦艦を標的に
爆撃機から爆弾落として撃沈するデモンストレーションに、既に成功していた。
が、あれは陸上から飛べる大型機の話で、あくまで
“なんのためにいるんだコイツら”とうい批判の矢面に立たされた
陸軍航空隊の逆転一発ワザだった。
アメリカ陸軍航空隊が戦艦撃沈デモンストレーションに使った双発爆撃機マーチンMB2。
全幅で約22mあり、とてもじゃないが、空母で運用できるサイズではなかった。
つーか1921年の段階ではまだアメリカには空母がまだない。
1922年3月に“石炭運搬エレベータがあるから”という理由で石炭補給船から改装された
改造空母ラングレーがようやくデビュー、という段階。
その上、ラングレーはとてもじゃないが艦隊空母として使える船ではなかった。
まあ、航空機で戦艦沈めたれ、なんて考えは、まだ完全に絵空事な時代だったのだ。
ついでに、陸軍自身、その存在感のアピール、というのが戦艦撃沈デモの主眼であり、
どこまで本気で対戦艦はおまかせあれ!と思っていたかは結構微妙な気がする…
そもそも、当時のアメリカは陸軍と海軍で担当空域が決まっていて、
本土沿岸部は陸軍のシマだった。
なので、大きな海のど真ん中で飛行機飛ばすだけの海軍にとって、
陸上からでなきゃ離着陸できない大型爆撃機は、運用の対象とはならなかった。
よって、飛行機のメリットは着弾観測による戦艦主砲の命中率の向上と、
ついでに索敵、偵察、これだけとなる。
「戦闘機とか、爆撃機、雷撃機が海軍航空部隊の主役でないの?」
戦闘機は一応、かなり初期から運用が考えられていたが、
残り二つの運用が本格化するのは、実は結構後になる。
最初はあくまで着弾観測が主で、後に空母が戦闘機を積むのも、
敵の攻撃機が主な標的ではなく、
艦隊に接近する偵察機や着弾観測機機を叩き落すのが目的だった。
1927年にレキシントン、サラトガという本格空母が竣工(艦隊配属は29年)、
ここからアメリカ海軍航空部隊の本格的な活動が始まるが、
当初はそんな感じで、まさか自分らが艦隊決戦のカギを握るなんて、
夢にも思ってない状態だった。
結局、航空戦力が敵艦隊を殲滅してしまう、
という話が現実的な問題になるのは1000馬力級エンジン、
ジェラルミンモノコック胴体といった最新技術によって、
大型爆弾や魚雷を積んだ上で高速飛行可能な機体が登場してからだ。
米海軍でここら辺が完全に形になったのは1940年以降だろう。
けっこう、ギリギリのタイミングだったと思うぞ。
ちなみに、戦艦、巡洋艦への航空機搭載に関する、日本の反応は意外に早かった。
1922年にはアメリカのカタパルトの資料を手に入れてたらしい。
が、実際にカタパルトによる機体配備は昭和6年(1931年)くらいからのようで、
まあ、正直言って完全に流行から取り残されていた(笑)。
航空機による着弾観測も、多分、昭和2年(1927年)の演習で、
長門から飛ばしたのが最初じゃないかなあ…。
まあ、他所様のアイデアをパクるのは、手段の一つして正しいが、
これだけ時間が空くと、さすがにちょっとなあ、と思う。
「でも努力はしてたんでしょ?」
まあね。
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