■そして誰も当たらなくなった
最初に、南極点、あるいは北極点に立ってることを考えよう。
「…死ぬほど寒いよ。あ、白熊とシャチが盆踊りを…」
そういう余計な事は考えなくていい。
とりあえず、極点から周辺部に砲撃する場合を見てみるぞ。
北極点でも南極点でもどっちでもいい。
極点上に大砲を設置し25km先の目標を狙うとする。
この時、目標は地上に固定されているとする。
よって、難しい計算はいらないね。
方角さえ測ったら、後は距離25kmとわかってるんだから、
そこを狙ってガンガンに撃つだけだ。
「なんでわざわざ極点なのさ?自転速度が0というのがポイント?」
なかなかするどいね。
その通りだ。その条件だと説明が手っ取り早いんだよ。
さて、砲撃の正確性を期するため、人類最高の砲撃手が撃つとして、
この時、砲弾は目標に当たるだろうか。図にするとこうだ。
「…図にしない方がよくないか、なんか、全体的に…。
そもそも、砲撃手にそれだけの技量があるなら当たるだろ。
照準による誤差も発生しないんでしょ」
が、当たらないんだよ、これが。
「そんなわけあるかい」
あるんだ。それが地球の自転の仕業なのさ。
ここで重要な点は二つ。
1、主砲の砲弾は一度撃ちだされたら、その方向にひたすら直進する。
2、極点は速度0だが、その周辺は地球の自転で動いてる。
「だから?」
こうなるのさ。
「なんかハラの立つ図だな…
で、…え?地球の自転で目標が動くって、つまりどういうこと?」
時速0の極点から打ち出された砲弾はひたすら直進してゆく。
で、25km先の敵に当たるには、約45秒程度かかるわけだ。
「それは前にも聞いたよ」
だがこの時、極点から25kmはなれた場所は、
極点を中心に自転、つまり円運動をしてる。
半径25kmの円周それを24時間で割れば時速になるから、
時速約6.5km、分速で約109.1m、秒速なら約1.8mで絶賛円運動中だ。
「…だから?」
つまり、砲弾が到着する45秒後には約81mも移動してしまうのさ。
「そうなの?ええー?でも人が歩くのより速い速度で
地上の目標が動いていくなんて、想像できないぞ」
それは正しい。実は同じ地表、あるいは地表付近にいる限り、
目標の移動を認識することは人間には不可能なんだ。
この理屈はまた面倒なので、今回はパス。
とりあえず、その結果、こんな感じに見えることになる。
「砲弾の方が曲がる?」
そうなんだ、地上の人間が見ると、砲弾の方が目標から逸れたように見える。
「実際は直進してるのに、何かの力が働いたように見える」
いわゆる「見かけ上の力」だね。これがコリオリの力だ。
長距離砲撃には、こういった影響があるんだよ。
この時、どちらに曲がる(ように見える)かは地球の自転方向次第で、
南半球と北半球では逆になる。
えー、とこの図だと左に曲がってるから、多分ここは南極点だね。
「またキチンと考えないで適当に描いたな…」
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