■それでも地球を回したのは誰だ

というわけで照準をつけるのに必要な、プラスアルファを考えるよ。

「えーと、つまり目標までの距離、目標の進行方向、
速度を求めた上で、さらに何かが必要ってこと?」

言語!否、ビンゴ。
短距離、まあ10km以下での砲撃戦ならほとんど無視していい要素なんだけど、
それなりの時間をかけて砲弾が飛んでゆく長距離砲撃戦の場合、
無視できない要素がいくつか出て来るんだ。とりあえず、それらを見ておこう。

実際に射手に照準点を示す場合は、通常の計算で出た数字に、
これらの要素を加味して、補正をかけたデータを渡すことになる。

■風向き

長距離砲撃の場合、長時間、風の中を突っ切って行くことになるので、
その影響は無視できない。
特に海の場合、強風時などはかなりの偏向を引き起こす。
よって、射撃時の風向きは重要なポイントとなるのだ。

■大気密度

砲弾が前進しようとするのを押しとどめる大きな力が空気抵抗だ。
大気密度が低い時、すなわち空気が薄い時は抵抗が小さくなるから、
より遠くまで砲弾は飛ぶし速度も上がる。
逆に大気密度が高ければ、
空気抵抗は大きくなるから、飛距離、そして速度も落ちる。

でもって、先に書いたように高高度まで上昇する長距離砲撃戦の場合、
海面付近と上空では大気密度が異なってくる(当然、上空の方が薄い)。
また、海面付近でも気圧によって、大気密度は刻々と変わっているはずだ。
なのでこれも考慮する必要がある。
よって、海面付近の変化と、高度ごとの変化の二つのデータを必要とするよ。

ちなみに、日本海軍の場合は、艦内の航海班が天候観測用のため
ラジオゾンデ(観測気球)を上げており、
そこから得られる上空の気温と気圧のデータを、
射撃にも使用した(大気密度は気温と気圧から計算で出せる)。

■砲齢

なんじゃこりゃ、って感じだが、砲身の磨耗率のこと(使用回数と思えばいい)。
銃器の砲身内部には通常、ライフリングという、
ネジのナットのような螺旋状の切り欠きが刻みこんであり、
弾丸は発射時にこの切り込みにこすられて、進行方向を軸に回転しながら飛びだす。
これによって直進安定性を得るのだが、当然、この切り込みは擦られて磨耗する。
で、戦艦の長距離砲撃戦とかになると、その磨耗率によって、弾道に影響が出るのだ。
この原理はちょっとややこしくて、
ミョーな形で揚力がからんだりするので、その話は今回はパス(手抜き)。
基本的には、古いほど飛距離が落ちると考えておけば問題ないはず。

■地球の自転(コリオリの力&遠心力)

ちょっと面倒なのがこれだ。
最低でも目標までの距離が25km〜30km以上であり、
ある程度の高緯度(少なくとも赤道付近は必要無し)地域で
砲撃戦をやる場合に、必要な補正だ。
正直言って、そんなに大きな誤差にはならないんだけど、
無視するには微妙、というシロモノで、
しかも赤道とか南洋で戦争やるならほとんど考える必要がなかったりもする。
なんで説明は無…

「ハイハイ!なんで地球の自転が戦艦の砲撃に関係あるの?納得できません!」

だよね(笑)。
…はい、覚悟完了。数式にしてしまうと簡単なんだけど、
なぜそうなるのか、をキチンと説明するのはかなり大変なのがここら辺。
いい機会だから、ちょっと詳しく見ておこう。
が、完全に説明するのは多分、無理なので、
今回の話で必要なレベルまででにするよ、とりあえず。

「合理的精神てヤツ?」

そう、それだ。


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