■魚雷をこえる鯨カミナリ

と、いうわけです、サー。

「まあ、わかったような、わからんような…」

ページが変わったので、もう一度図を見てみます、サー。



「結局、魚雷の発射に必要な射角を求めるには、魚雷の速度を決めなきゃだめ」

正解。

「そして、それを決めるには目標スワンボートの速度と進行方向を知る必要がある?」

エクセレント。その通りです、サー。

「で、今我々の手元にある情報はこれだけ、と」



その通りです、サー。

「絶望的に、どうしようもないんですけど…」

見える、と言うことはその精度はともかく、
測距儀で距離は測れる、という事ですよ、サー。

「距離って意味あるの?」

とりあえず照準線の測距をやってみましょう、サー。



ほら。

「いや、ほらって言われてもなあ」

いいですか、速度と方向を求める、ということは、
例外なく、どこか二点で目標を測定する必要があります、サー。

「そうなの?」

相手がほぼ動いてない、ある一瞬の状態の観測では、
速度はもちろん、方向だってわかりませんよ、サー。
よって、照準線を決めた後、もう一度、
目標がある程度移動した状態で測定をやるのです。

「はあ」

さあ、1分たちましたから、もう一度、測定してみましょう。



ほら、ほら。

「あ、なんか情報、増えたね」

そうです、サー。
2点で観測する事によってなんと2辺の長さと一つの角度が出ました。
さらに!プラス!
我々は、これが1分の時間が経過した状態だと知っています。
わが手には、距離、角度、そして時間までもが手に入ったのです、サー!

「あ、ハイ、ハイ!わかったよ、オレ、わかっちゃった!
1分で8度の角度分移動した、ということは次も1分後に8度移動してるから、
それを元に魚雷の発射角度を計算すればいいんだ!」

期待通りの展開です、サー。
きっとそう考えてくれると思っていました。
そしてそれは、目標艦が照準線の距離を半径とした
円運動をしてる時のみ正解なのです、サー。

「え?つまり?」

通常はありえない話です、サー。
また図に…して…みましょう…。

「…お疲れ様…」



黒い点線が照準線の長さ。同じ角度差で3本描いてます。
この線端をトレースする軌道、つまり照準線を半径とした円の上を移動するなら、
移動距離は一定ですから、常に1分後の移動角は同じ、になります。
が、実際の動きとしては、オレンジ色の線のように移動するのが普通でしょう。

1と2の間の、オレンジ線の長さを見ると、その長さは異なります。
同じ時間の移動距離だったら、同じ長さになるはずですから、
1分後の移動角度は常に一定ではない、という事になります。


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