■レーダーにだって事情がある

周波数は1秒間の波の数、振動数です。
単位はHz(ヘルツ)でして、1秒に1回なら1Hz。
100回だと100Hz、1000回で単位が変わって1KHz(キロヘルツ)、
1000KHzで再び単位が出世して1MHz(メガヘルツ)となります。

で、電磁波の場合は宿命として光速で移動してますから、
それぞれの波には長さがあるはずです。
周波数は1秒間の振動回数ですから、電磁波が1秒間にすすむ距離、
約30万kmの長さを周波数で割れば、1回ごとの波の長さがわかります。
これが「波長」。
レーダーにとっては、この波長が重要になってくるのでした。

100Hzだと、1秒間約30万キロの移動の間で100回の波が来たわけですから、
波長は3000km(!)、1KHzでも1000回だから波長は300kmというところ。
これだけ長いとなかなか使うのが大変で(ただし極極長波は水中を伝播するので軍用無線などで使う)
通常は30KHzぐらからが実用的な周波数でしょう。

で、周波数と波長の関係を式にまとめておくと、以下のとおり。

簡単ですね。
が、光速は秒速299792458mと数字が大きく、厳密な計算は楽ではないですが、
今回はせいぜい500MHz〜3GHzまでの話なので、細かい数字は誤差の範疇とみなせます。
なので、毎度おなじみの秒速約30万kmとみなして、以下の近似値の式を使います。
周波数をKHzにするなら300を3000に、GHz(ギガヘルツ)にするなら30にすればいいだけ。
再び簡単ですね(笑)。



で、前にも書きましたが、この波長が、レーダーでは重要な意味を持ちます。
なぜか。


理由その1。
波の基本的な特徴の一つに、回折(かいせつ)と言って障害物を回り込んで超えてしまう、
という動きがあるからです。
例えば全長3mのスワンボートに波長6m(50MHz)のレーダーからの電波がぶつかった場合…



レーダー波はこのスワンボートを、スルリと回り込んで通りぬけてしまいます。
障害物が波長より短いと、回折によって波が通過してしまい、反射が起きないのです。
つまり、レーダに電波は返って行きませんから、電波がぶつかってるのに探知不能。
ダメじゃん。

もっとも逆に言えば、長い波長(低い周波数)の電波は、障害物を乗り越えやすい、
という特徴があることになります。

なので、目標のサイズが決まっているなら、そのサイズより短い波長の電波を撃ちださねばなりませぬ。
3mのスワンボートが相手なら、レーダー波の波長は3m以下(100MHz)である必要があり、
余裕を持って2m(150MHz)くらいの波長が望ましいことになります。
これならば…



波は障害物を回り込めず、回折が発生しません(厳密には多少通過してしまうらしい)。
キチンと電波の反射が発生して、これをレーダーで拾えます。
以上の理由により「レーダの使う波長は目標より短くないと役にたたない」わけです。

もう一つの大きな理由は後ほど説明します。


まあ、相手が戦艦だ空母だといった幅30m、全長200mとかの相手なら、
あまり問題にならないんですが、第二次世界大戦が始まってみたら、
こりゃ航空大戦争だぜ、ということが判明しちゃいました。

航空機、中でも戦闘機なんて横も縦も10m前後ですから、これを引っ掛けるには
とりあえず30MHzで波長10m以下、できれば50MHzで波長6mくらいまで持って行きたい…
となってくるわけです。
つーか、これ以下の性能だと、巨大なレーダーアンテナは物干し台以外の使い道しかなくなります。

では、第二次大戦開戦時、各国のレーダーはどんなアンバイだったんかいな。
ここで、実際に当時のレーダーの性能を見てみましょう。

まずはドイツ。
1939年の開戦時に対空用に配備されていたのがFREYA(フレイア)。
…なんで名前がフレイアなんですか、ゲルマンの皆さん…。

で、とりあえずその周波数は、120〜130MHzとなってます。
波長はざっと2.5m程度ですから、戦闘機相手でも十分な解像度となりますね。

もう一方のイギリスを見て見ると、開戦時に配備されていた沿岸防衛レーダー網、
CHAIN HOME(チェーンホーム)のレーダーは通常の周波数30MHzとされますから、
これはギリギリの波長でして、約10m。
爆撃機相手ならともかく、Me109は多分、よほどの近距離でないと引っかからないでしょう。
まあ、バトル オブ ブリテンくらいまでは、
爆撃機が必ずセットですから、なんとかなったのかしらん。
ちなみに無理をすれば50MHz(6m)くらいまで周波数を上げられた、との事ですが。
それでも、この段階では、ドイツのほうが優秀ですね。

が、後にこの性能差は完全に逆転します。

そして、アメリカ。
アメリカの場合、開戦が上の2カ国より2年は遅いので
「開戦時」が2年のアドヴァンテージを持ちます(笑)。
海軍の場合、ヨーロッパ開戦1年後、太平洋開戦1年前の
1940年から搭載が始まったCXAMレーダーがあり、
この周波数が200MHz、波長は1.5mですから、十分すぎる解像度を持ってます。
(CXは試作ナンバーだが6隻近くに積まれてるので、事実上の最初の実用型レーダー。
後に“S”シリーズ、SC、SKなどに発展します(SGは別系統なので注意))

というわけで、第二次世界大戦に突入するにあたり、
米英独は十分なレーダー索敵能力を持っていました。
とりあえず敵機が飛んで来ても、最低でも70〜80kmくらい向こうから、
ドイツのフレイアなんて180km近くの距離の段階で(当然高度にもよるが)、
「敵が来るで〜来るで〜」とわかってしまったのでした。
(米海軍の駆逐艦などは小型レーダーなので40km前後まで落ちる)
ちなみに、この段階でイタリアとソ連と極東の島国は完全に蚊帳の外です…。
これが1940年くらいまでの段階。

ところがドンスコイ、人間、欲はでてくるもので、敵の発見だけではなく、
その迎撃、すなわち射撃管制にも使えるレーダが欲しくない?
あ、欲しい、欲しい、となって行きます。

が、上に書いたように、既にレーダー波の波長は十分な精度を持ちます。
戦闘機クラスなら十分引っかかる。
じゃあ、それでいいじゃん、と思いますが、
英米は(ドイツはよくわからん)気でも狂ったか、
というように高周波数(短波長)レーダーの開発に突き進み、
GHzクラス、波長でcm単位のレーダをガンガンに造りはじめます。
連中はカラスでも撃つつもりか、というとそうではなく、
これはレーダの横幅、レーダービームの問題があったからなのです。






さて、ここでもうちょっとレーダーの基礎知識を。
電波をグラフで表すと上のようになりますが、レーダーで使う時は、
こんな連続した状態ではなく、「間」をあけて「パルス波」という状態にして使います。


つまりこんな感じ。
なんでやねん、というと撃った電波が帰ってくるのを一定時間待つからです。
連続して撃ちまくってると、どのタイミングで出て行った電波かわからなくなり、
戻って来るのにかかった時間の判定ができず、当然、目標との距離も計算不能になるんで、
それを避けるためパルス波としています(連続で撃てるのもある、という話だけどよく知らない…)。
なんだか間が抜けてるようですが、なにせ光速ですから、1/100秒、0.01秒でも3000km、
つまり片道1500kmまで移動します。
実際、そんな距離はレーダーでは探知不能ですから、秒間1000回くらいは普通に撃てますし(探知距離150km)、
せいぜい40km以下の敵を探知すればいい射撃指揮(制御)用のレーダーなら、
秒間1500回くらいはパルスを撃てました。




まあ、こんな感じ。
撃った電波が返って来てから、次の電波が撃ち出されます。
その前に撃った電波が返ってくることはないの?
といえば、可能性はゼロではないですが、この間隔は
「使ってる電波の射程距離」で決め、これ以上先まで行ったら戻って来れない、
という時間まで待って次を撃ってますから、普通は問題ないでしょう。

…つーか、むしろわかりにくいか、この図。
でもせっかく作ったので、くやしいから載せておきます。




NEXT