■スマートな ア ショック ウェーブ

さて、射撃制御をレーダーでやるなら、目標までの距離は正確に知りたいですね。
で、これはレーダの原則として問題なし。

次に正確な方向を知りたい。
相手のまでの距離とその方向がわかれば、これを2回観測することで、
あいての速度も計算できますから、射撃に必要なデータがほぼそろうことになるわけです。

この点はレーダー本来の機能とは別なので、
前回書いたような問題がありましたが、その方位検出に関しては、
英米共に1941年の段階ではほぼ解決のメドは立っていました。
(どうやったのかはよく知らない…)
が、実は方向をキチンと知りたい場合、もう一つの問題があったのです。
それが、レーダーから撃ち出される電波の幅、レーダービーム幅の問題です。



レーダーの能力では波長だけでなく、
横幅、ビーム幅も重要になってきます。
特に方向の特定をするには、大きな要因となるのです。

先に見た、レーダー波の波長は、発射を電気的に制御して、一定幅で細かくできます。
39年ごろの段階で数百MHzクラス、波長数mまで実用となっていたことは既に説明しました。

が、電波は拡散する習性を持つため、その幅、ビーム幅は一定の長さを保つことができません。
遠ざかるにつれ、徐々に広がって行きます。なのでその幅は角度で示されるのです。
さあ、このビーム幅が5度くらいの角度だと、どうなるか。

はい、もう皆さん、寝てても計算できますね(笑)。
10km先で約700mもの幅のビームになります。
これでは戻って来た反射波から方向を判定するのは、相手が戦艦でも困難です。
それだけでなく、次のような問題も出てきます。




同じパルス内に複数の目標が居る場合、これを識別できません。
反射電波は一つのパルスとして戻りますから、
それが複数の目標かどうかを判別する方法は無いのです。

敵の襲来を探知するだけの索敵レーダーなら問題はなかったのですが、
目標の正確な位置、数、できればサイズまで知りたい
射撃管制レーダーにとっては大問題。
で、このビーム幅の角度を小さくする、というのは
以後、極めて重要なテーマとなります。



はい、というわけで
「こりゃビーム幅の角度を最低でも2度以下くらいにしないとアカン」
(それでも20km先で誤差約488m)
という話になってきます。では、どうするか。
とりあえず、このビーム幅は以下のような法則を持つことが知られていました。
(解はラジアンになるので注意)



なーんだ、簡単ジャン。
アンテナをガンガン長くしてやればいいんダヨ!
そうすれば、数字はドンドン小さくなるから、幅は狭まるヨ!
…と誰もが思います。
やってみましょう(笑)。

前ページで登場した中で最優秀のアメリカ謹製CXAMレーダー、これの周波数が200MHzで波長1.5m。
これのレーダービーム幅を2度にする、と言うことはラジアンだと約0.035ですから、
ここから必要なアンテナ長を計算すると、…えー約43m(笑)。
使えるか!そんなレーダーアンテナ(笑)!

なので、必然的に、残されたもう一つの項目、電波の波長をどうにかするしかありません。
アンテナの長さは物理的な限界がありますから、これを一定と考えると、
電波の波長をどんどん短くするしかないのです。
つまり、周波数をガンガン上げてゆく。

1939〜40年の段階で、すでに相手の探知には十分と思われた周波数でしたが、
上記のような理由で、再びドンドン上げてゆく必要が出てきたのでした。
ちなみに実用に耐えられそうな、幅2度以下にするには、
アンテナ幅を10m(かなりデカイと思ってよい)にしても、
おおよそ波長約30cm(0.3m)、周波数1GHz以上が必要なのでした。ちなみに、これで1.7度。
さらに、これは理論値なので、多分、実測ではもう少し落ちます。
厳しいですね(笑)。

ただし、これはあくまでレーダーのアンテナを単純な棒一本にした場合の話。
実際のレーダーは皆さんもよくご存知のように、金網状だったり、
パラボラ型だったりと、その精度をあげるために、形状に工夫が凝らされています。

ちなみに、米海軍は1942年の段階で(FH)Mk.8という、
なんとフェイズドアレイ走査の主砲用射撃管制レーダーを採用しています。
これは周波数3GHzでレーダービーム幅が実測で約2度とされ、
かなり精度は高かったようですが、故障も多かったそうで、どの程度使えたのかわかりません。
200台くらい造ってるみたいなのあで、米軍の巡洋艦、戦艦クラス(空母に射撃管制レーダーはいらない)
には、かなりの精度の射撃管制レーダーが積んであった、と考えるべきなのでしょう。

さらに米海軍は1945年から配備した射撃管制レーダーMk.13(よく名付けたなあ…)では、
波長3cm(周波数10GHz!)を達成、小型の2.49m(8フィート2インチ)アンテナでも
ビーム幅1度以下まで持って行きました。
計算上は0.7度くらいですが、実測で0.9度前後だったようです。
いやはや。


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