■レーダーあれば七難かくす


さて、今回からレーダーの話に入って行きたいと思っているわけですが、
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

では、とりあえず、レーダーの基本的なところだけ、
最初に確認しておきます。

さて、知名度の割には、実体験を持つ人は意外に少ないような気がする「山びこ」。
ヤッホーと叫べば、向こうの山にぶつかった音波が跳ね返って来てヤッホーと聞こえる、
というアレですが、この時、次のように考えてみましょう。

向こうに見える断崖絶壁に向け、ヤッホーと叫びます。
その4秒後にヤッホーという反響が聞こえたとしましょう。
この場合、音速から逆算して断崖絶壁までのだいたいの距離を判断できます。

とりあえず海面高度付近の平均音速、秒速約340.3mで計算しましょう。
4秒かかった、ということは音は340.3×4=1361.2mの距離を伝わっています。
これは往復の距離ですから、半分にしてやれば、
それが断崖までの距離ということになります。
1361.2÷2=680.6m
と、簡単に断崖までのおおよその距離がわかってしまうわけです。
これが霧で周囲が見えない状態、あるいは夜間なら、
向こうに壁のような音を反射する何かがあること、
そしてそこまでの距離、という二つの情報が一気に手に入る事になります。

この「反響が返って来る時間を計測して標的までの距離を求める」のに
音波ではなく、より高速で、強い指向性(分散しない、方向を特定しやすい)を
持った電波を使ったら、どうなるか。
はい、そうです。レーダーになるんですね。


発振器から送り出された電波は、目標に当たると拡散しますが、
充分なエネルギーを持っていれば(発信器の出力次第)、
その一部は発振した場所まで反射されて戻って来ます。
この所用時間を計測、その1/2の数字に速度を掛ければ目標までの距離が出るわけです。
(距離=目標までの片道分の時間×速度)

で、電磁波は秒速299792458m、約30万kmの速度(つまり光速)を持ちますから、
移動中の船なんて止まってるようなものですし、音速の飛行機とてそれは同じ。

つまり相互の運動状態を無視してよく(人間が到達できるレベルでは(笑))、
しかも電波の到達時間は機械で計測可能ですから、
誤差の入り込む余地は少なく、相手までの距離を極めて正確に出すことができます。
まあ、いろいろあって決して誤差0にはなりませんが、無視していいレベルには収まります。
レーダの距離測定は、かなり正確な数字が出るわけで、
これは主砲砲撃をはじめ、あらゆる照準において重要なポイントとなります。

余談ながら、写真は第二次大戦期にアメリカの潜水艦につまれていた索敵用レーダー。
アメリカの潜水艦には「レーダー潜行深度(radar depth)」というのがあり、
レーダーを水面上に出したまま潜行、という芸当をやってのけました。
潜望鏡より目立ちますが、得られる情報は比べ物にならないほど正確でしたから、
これはアメリカの潜水艦部隊の大きなアドヴァンテージの一つとなります。
1942年の夏以降にはほぼ実用化されていたようです。



米海軍の潜水艦、バラオ級のパンパニト(USS Pampanito SS-383)。
サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフ横、という観光地ど真ん中に係留されています(笑)。
ほぼ第二次大戦期のままの状態で保管されていた、という貴重な船ですが、
これの艦橋後部、機関砲の前の二本マスト上にあるのが索敵用のレーダーです。
これも潜望鏡のように上にあげることができ、
レーダーだけ水面上に出しての航行が可能。

でもって、貧弱なレーダーながら、かなり活躍しており、
輸送空母 冲鷹を八丈島近海で撃沈した米潜水艦セイルフィッシュ(USS Sailfish SS-192)などは、
深夜、台風の真っ只中という悪状況下で強行浮上、レーダー索敵で冲鷹を発見、雷撃しています。
台風真っ只中、しかも深夜で視界はほとんど無かったようですから、まさにレーダーの力でしょう。
(距離約8500mで発見。その前にも12000mで捕らえたが接触に失敗)

潜行後も雷撃直前までレーダーを使っていましたが、台風の荒波、そして深夜でしたから、
発見されずに駆逐艦、巡洋艦も居た艦隊に接近、約1900mの距離から沖鷹を雷撃してます。

冲鷹はこの雷撃には耐えましたが、翌日早朝、戦果確認のため
悪天候をついて再浮上したセイルフィッシュが
レーダー索敵で(距離不明)低速移動中の冲鷹を再発見、再び雷撃を試み、
これによってトドメをさされます。レーダー、恐るべし。

余談ついでに、敵ながらセイルフィッシュの艦長のガッツはあっぱれでして、
台風のど真ん中で深夜に何度も浮上、初弾命中後も執拗に追いかけて最終的に撃沈してます。
日本側の対潜能力があまりにミジメ、というのも大きいですが…。


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