■レーダーにだって不可能はある
話を戻します。
ここで注意したいのは、レーダーでわかるのは、
原理的に以下の3つの情報のみだ、という点。
●電波を打ち出した先に何かいるか、いないか?
●反射があった位置(目標)までの距離はどれだけか?
●反射の強さから判断して、目標は大きいか、小さいか?
さらには、そのサイズはどの程度か(レーダーによっては測定不可)?
これだけです。
(ドップラーレーダーではさらに相手の相対移動速度もわかるが、今回は省略)
はい、重要な情報が抜けてるのにお気づきでしょうか。
そう、方位、相手の方向はレーダー本来の機能ではわからないのです。
目標の方位は、
「レーダーがどっちを向いてる時に反射が戻って来たか」
を調べて判断します。
そして、それはレーダー本来の機能ではありません。
自分の向きと、電波の戻ってきた方向から目標方位を割り出すのですが、
これはレーダー本来の機能とは別の機能ゆえ、
全く別の測定システムを付ける必要がありました。
ただし、現在のフェーズドアレイ レーダーでは
レーダー自身が電気的にビームを各方向に振り分けて飛ばすので、
自分がどっちに電波を飛ばしたのか、を電気的に把握する事が可能です。
レーダーのモニタ画面と言うと、写真のようなPPIモニタというタイプを思い浮かべる人が多いだろう。
360度グルグルとバーが回って、目標が白い光点で浮かぶ、というもの。
が、それはレーダシステムが大分進化した後に、早期警戒レーダー用に開発されたもの。
(とは言っても第二次大戦中に米軍は実用化してしまうのだけど)
ちなみにこれはF-16のコクピットにあるもの。
初期のレーダの画面はこんな感じでした。
電気ショックとデコピンで蘇生した直後の心電図みたいですが、
横軸が距離を示し、縦軸が目標からの反射の大きさを示す、
これはAスコープと呼ばれる極初期の表示画面です。
(ただし射撃管制レーダー用としては長く使われた)
電波は画面左、グラフ座標0の地点から右方向に飛んで行く、というイメージ。
よって、反応位置の横軸の目盛りを見れば距離がわかり、
グラフの縦方向の長さで反射の大きさ、すなわち目標の大きさを判断します。
方向に関する情報はどこにも全くありません。潔いです(笑)。
これとは別に、今レーダがどっちを向いてるかを表示する計器があったはず。
このタイプのレーダーは艦載型にしろ航空機搭載型にしろ、そもそも360度回転させず、
調べたい方向に向けて電波を撃ち(航空機ならそっちに向けて飛ぶ)、
反応がなければ少しずらして再度電波発射、という使い方をします。
これだけの情報でも、かなり有効ですし、距離は極めて正確に読み取れました。
慣れてくれば、この波形なら戦艦だろうと判断可能だった、という話もありにけり。
レーダーは正面方向に電波を照射して、反射波があるかどうかを見る装置です。
よって、その向いてる方向にしか有効ではありません。
「真正面に反応ないから大安全で問題なしヤッホー」
と思って航行中に横を見たらゴジラが元気に並走してた、
といった悲劇を避けるためには、常に周囲360度、全方位に電波を飛ばす必要が。
もっとも簡単な解決方法は、レーダーのアンテナ下にモーターをつけ、
360度ぐるぐる回してしまえばいいだけ。
船舶などで、レーダーアンテナが360度ぐるぐる回ってるのはこのためです。
が、そのままだと
「あ!今、今、まさに反応があったザマス!」
となっても、どっちの方角を向いてた時の反応だかわかりません。
なのでレーダーがどっちを向いているか、常にモニタできるように、
なんらかのセンサーを回転部分につける必要があります。
とはいえ、なにせ電波は光速レベルですからタイミングは一瞬どころの騒ぎではなく、
しかも角度は1度違えば30km先では523mもの誤差になりますから、
極めてシビアな精度が要求されます。
解決策としては、とにかく「ゆっくり回す」というのがありますが、
これだと、一周して前に反応のあったポジションにもどった時には、
すでに目標は移動後で見失う(遮蔽物に隠れてしまう等)恐れがあります。
また、レーダーの向いてない死角エリアが一定時間常に存在する、とう点は、
後に超音速ミサイルや超音速攻撃機が登場した時、結構深刻な問題となりました。
例えばマッハ2だと、秒速約680.5mにもなり、アンテナの回転によりこれを3秒ほど見失うと、
その間に約2kmも移動しますから、あっという間に距離を詰められてしまいます。
うははは、バカだなあ、だったらレーダーを回さないで済む方法があるじゃん。
小さいレーダーをたくさん積んで、360度全方向に向けとけばいいじゃん。
あらかじめ各レーダーの方向を測っておけば、
どのレーダーに反応があったかで方角も一発判定さ!
という誰でも思いつくアイディアは第二次大戦期から既にあったのですが、
3秒考えれば一生退屈しないで済む量の問題が山済みになります。
膨大な電力はどうやって?表示装置をどうする?
数百個のレーダーをを常にメンテナンスするのか?1個でも故障したら、死角ができてしまうぞ、金返せ…
そんなわけで「回転しないで常時360度を監視する夢のレーダー」は
第二次大戦期から1970年代にかけて、何度も試作されて、
一部は実用に持ち込まれますが、事実上、全て失敗します。
原因は複雑な制御、膨大な情報処理といった方向の問題だったので、
結局、コンピュータと画面表示装置の発達する1980年代まで、
まともな「回転しないで全方位を常時監視する」レーダーは実現しませんでした。
1980年代以降は、ご存知、イージス艦の「フェーズドアレイレーダー」
として実現されているわけです。
360度の監視はしないものの、戦闘機の機首レーダーも
最近のはフェーズドアレイになっているみたいですね。
ちなみに、このフェイズドアレイの動作原理は、何度聞いても私はよくわかりません(笑)。
ついでに、現代のイージス艦のフェイズドアレイは、射撃管制用で、
「24時間360度、周りをしっかり見張ります」というのとはちょっと違い、
「360度あらゆる方向の敵と、一度に戦えます」というタイプ。
射撃管制レーダーと、早期警戒レーダーは同じレーダーでも、
チワワとセントバーナード並みに違うものですが、ここら辺はまた後で。
が、さすがにドラえもんまであと100年、という現代においても、
360度を一枚(一組)のレーダーでカヴァーは出来ないのでした。
正確な情報は知りませんが、1枚(1組)あたり90度前後の走査が限界のようで、
最新のイージス艦においても、4枚(4組)のレーダーパネルを
艦橋部の4隅に貼り付けています。
余談ながら、このレーダー、意外に艦橋の低い位置についています。
これは射撃管制用、つまり戦闘指揮用のレーダーだからで、
搭載兵器の射程距離内にいる航空機やミサイルを捕らえることができりゃ問題なしなのです。
水平線の先までは考えなくていいタイプで、その手の仕事は別のレーダーがやります。
米軍の場合、長距離索敵、早期警戒は空母の艦載警戒機の仕事ですし。
(韓国海軍や、海上自衛隊はどうやってイージス艦を使う気なのかはよくわかりませんが…)
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