■東京測距許可局局長

さて、今回からは水平線の向こうまでドカンと砲撃する
戦艦主砲のお話となります。

戦艦、巡洋艦クラスの主砲、少なくとも20q以上の射程距離を誇る主砲には
二つの大きな特徴があるので、最初にそれを確認しておきます。
これがその性能発揮のための最大の障害になるからです。
まずは、一つ目の特徴から見て行きましょう。


■その1 

遠距離の目標を撃つため、弾はまっすぐ飛んでゆかない。
山なりに放物線を描いて飛ぶ。
なのでピストルやライフルのように銃口を目標に向けて撃てば当たる、
といった単純な話にはならない。



水平線のこちら側の敵、つまり見える範囲内の目標を撃つ戦車では、
砲は基本的に水平方向に弾を撃ち、
撃たれた弾は直線を描いて飛んで行き、目標に命中します。
よって話は単純です。



対して水平線を越えるような距離、10q先まで砲撃する兵器の場合、
水平方向には弾を撃ちません。
着弾する前に地球の重力にまけて砲弾が地面に落下してしまうからです。

なので砲口を上方向に向け、山なりに砲弾を撃ちだす事になります。
ここら辺りはボールを遠くに投げる場合、直線弾道ではなく、
山なりに放り投げた方が遠くまで届くのと同じ理屈です。

戦艦の主砲も基本的にこのタイプですが、この手の砲撃は
直線弾道の射撃に比べ、照準をするだけでも一苦労なのだ、
というのが今回のお話のキモです。
なので以下の図でやや詳しく説明しておきます。



とりあえず、話を単純にするため、目標は動かない、とします。

この場合、ライフルのような直線弾道なら照準に必要なのは方位の情報だけです。
基本は方位だけ、場合によっては上下の角度も加わるでしょうが、
それでも2軸の方位がわかれば、そちらに向けて撃つだけで弾は命中します。
目標が弾道上に居る限り必ず命中し、射程距離内にいる限り
目標までの距離は問題になりません。
(厳密にはライフルでも長距離射撃の場合は少し上向きに撃つが)

つまり目で見てキチンと照準をつけて撃てば必ず当たる、
という単純明快な話になってます。
通常、私たちが射撃の照準、と聞いて思い浮かべるのがこれでしょう。



ところが遠距離の目標を撃つ放物線弾道の場合、
話は簡単ではなく、照準も困難なら、命中の確率も格段に落ちます。

そもそも直線弾道で無いため、命中させるには
目標の一点にピンポイントで砲弾を送り込まないとなりません。
つまり距離がずれてしまうと、もう命中しません。
弾道上のどこにでも居れば当たる、という直線弾道とは話が違うのです。

となると照準は目で見て狙う、といった単純な話にはならず、
目標までの方位と同時に、距離の情報が絶対必要要素となります。
つまり照準を付ける、といってもライフルやピストルのように
照準装置を通して目標を目で見て狙うのではなく、
目標の方位と距離を測定し、そのデータに合わせて
砲の角度を設定し、ドカンと撃つ、という形になります。

…が、何十キロも先に居る目標までの距離なんてどうやって測るのよ?
というのがこの記事の主要なテーマなのですよ、はい。

その点を深く検討する前に、二つ目の特徴も見ておきましょう。

■その2

遠距離砲撃ゆえに砲弾の目標到達までに時間がかかる。
例えば砲弾がマッハ1で飛んだとしても、
砲撃後20q先に到達するまでに1分以上の時間がかってしまから、
時速40q以上出せる軍艦相手だと、相当な距離を動かれてしまう。
よって、砲弾を撃ち込む先は
今見えてる敵の位置ではなく、1分後に移動すると思われる位置、
つまり目標の未来位置を狙わなければならない。


これも戦艦砲撃を厄介にする要素で、
一定時間後に目標がいる場所を想定してそこに砲撃しなくてはいけません。
目標が直線で等速運動中とかなら問題ありませんが、
ランダムなジグザグ運動をしてる、円運動で回避してる、
といった状況になると、はるか彼方の距離からそれを見て、
その運動による未来位置を予測するのは極めて困難になります。
(そもそもどっちに向ってるかすら横から見たらわかりにくい)

要するに戦艦の主砲砲撃はそもそも極めて当たり難いのです。

が、もし正確な距離がつかめるなら、
それも連続した時間で捉えられるなら、
砲撃の照準は極めて正確になります。

これがレーダーの恐ろしいところなんですが、
その話はこちらでやってますので、ここではやりません。
ただし、そちらの記事はこの連載を読んでから読む事をオススメします。
今回の記事の内容を踏まえた話になってるからです。


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