■ドイツだって生産する…それなりに

さて、いよいよフォードとGM社のドイツでの大活躍について見て行こう。
両社のドイツ進出はイギリスなどに比べると大分遅れた。
1925年にフォードがドイツ国内に工場を設立、ほぼ同時期にGMも進出する。

実はこれ、フォードについては日本進出より遅いのだ。
が、日本は自力御馬鹿様全力120%必殺技により、
その恩恵を全くうけず、ドイツはそれをオイシクいただいて、利用する。

で、最初は最終組み立てのみのノックダウン方式だったのを、
両社ともやがてドイツ国内での完全生産に切り替えてゆく。
その理由は、1927年、ドイツが国内自動車産業保護のため、
完成品だけでなく、部品も含めて自動車関税をかなり引き上げたせいらしい。
(この段階ではナチス政権でないことに注意)
この結果、ドイツにも「裏表両ヘンリー流大量生産術」が伝来する。

この時、フォードは自社工場の拡張で対応するが、「他の会社を買って規模を拡大する」
という戦後のコングロマリットのようなことを既に信条としていたGMは、
ドイツ国内の自動車会社買収に動いた。

で、1928年ごろ、当時ドイツ最大の自動車メーカーだったオペルが
経営危機に陥ったことに目を付け、1929年春、その株式の8割を取得する。
その後、1931年には100%出資の完全子会社化を行い、
ドイツ(中部ヨーロッパ)におけるGMの部局(division)とした。
それ以来、現在にいたるまでずっと、オペルはGMの部局として活動している。
そう、ずっと、である。



ドイツといえばフォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、BMW、
などの名前が浮かぶが、戦前&戦中のそれらは正直パッとしない。

で、写真はBMWの1936年型モデル319。
さあ、脱線しよう、そうしよう(笑)。

BMWという名前は、Bayerische Motoren Werke AGの略らしい。
日本語にすると「バイエルン エンジン工業」といった意味だとか。
あれ?バイエルン?BとW?

メッサーシュミット社の機体が当初BF109と呼ばれたのは、
かつての社名、Bayerische Flugzeug werke AG
の頭文字、BFから取ったからだよね。
(werkeは本田技研工業の「工業」みたいな意味)

…はい、というわけで、このバイエルンの名が入った両社は
実はその創業のルーツが重なります。
どちらもナチスの故郷、ミュンヘンで設立された航空機メーカーをそのルーツとし、
1916年ごろ、別々の会社となったようです。
ただし、妙に事情が入りくんでいて、イマイチよく理解できないので、
後は各自調べてください(無責任)




よってBFW社、後のメッサーシュミット社の戦闘機もまたバイエルンの特産品なのです。

そう考えるとBFW改めメッサーシュミットが、BMWのエンジンとあまり縁がなかったのも、
ある意味、不思議な運命のような気もします。




「アメリカ戦略爆撃報告書(U.S. Strategic Bombing Survey)」
というレポートがあることは、誰も覚えてないと思うが、すでに触れた(涙)。
戦後、連合軍の一大方針だった4発爆撃機による戦略爆撃が、
実際にはどの程度、効果があったのかしらん、と調べたものだ。
その内容は、「ヨーロッパ編」「太平洋編」「原子力爆弾編」とに別れている。

で、これ、爆撃の成果をキッチリ分析するために、
爆撃前と後での工業生産量が細かく掲載されていたりする。
なので、爆撃効果のレポートなのに、
「ドイツって1号戦車から6号ティーゲルまで全戦車を集めても、
全シャーマン戦車より少ない数しか持ってなかったのでは…」
といった事があっさりわかってしまったりするわけだ。

この報告書の「ヨーロッパ編」に1938年、開戦前年の
ドイツ自動車メーカー売り上げランキングが出ている(金額順)。
これで見ると

1位 アダム オペル(GM)
2位 オート ユニオン(現アウディ)
3位 フォード
(ちなみに4位 ダイムラー ベンツ)

となっておりベスト3のうち、2つがアメリカの会社なのでした。
この翌年、第二次世界大戦が始まるわけだが、
当然のごとく、軍用トラック&車両は、この3社と、
4位に食い込んだダイムラーベンツがその製造を請け負うことになる。
つまりオペル(GM)もフォードも、ドイツ陸軍のために、トラックを造りまくるのだ。

ちなみに、公式には両社とも、1940年ごろ、
その管理はドイツ政府に移った、とされる。
が、実は戦中を通じ、アメリカ本社のコントロールを受けていた、
というのは、戦後の研究で、ほぼ明らかになっている。

アメリカの自動車メーカーは、アメリカで、イギリスで、
そしてドイツで、その工場において生産しまくるのである。
さらにフォードなんかは占領下のフランスでまでガンバルのだ。



前回、載せ忘れたフォルクスワーゲンの軍用型とも言える
水陸両用車、シュビムワーゲン。

戦後、西ドイツ経済の屋台骨を支えるほどの会社になる
フォルクスワーゲン社だが、戦前戦中はほとんど会社としては活動していない。
というか、実質的な設立は戦後となる。



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