■将軍様、もう勘弁してください…

で、二つ目のポイントが、アメリカ国産液冷エンジンメーカーとしておなじみアリソン社。
P40やP39、さらには双発のP38などに搭載された事で知られる
アリソンV1710シリーズの製造会社だ。
実はここもGMの子会社で、1929年、大恐慌で経営が傾いた所をGMに買収されている。



多少なりとも第二次大戦期のアメリカ戦闘機を知ってる人間には
ああ、あの、と言われてしまいがちなアリソンV1710液冷エンジン。
が、決して失敗作ではなく、十分当時の水準にあったエンジンだろう。
基本的には過給器、排気タービンや、2段式スーパーチャージャーに
恵まれなかったのが気の毒なところ、というエンジンだ。




なので日本語の資料だとアリソン社とされることが多いが、
正しくはGMのアリソン部局(Allison Division)となる。
1933年ごろから量産が始まって、戦後も生産が続いたので、
V1710シリーズの正確な生産総数は把握しにくいが、
通説では1933-48年の間で、約70000台が
インディアナポリス工場で生産された、とされる。
まあ、年5000台近いペースだったのは確実で、
単独の工場で生産された数としては、まあ、かなり凄いものとなっている。

とはいえ、V1710シリーズは、P39やP40が
性能的にイマイチだったという面もあって、あまりいい印象はない。
が、それはエンジンそのものの性能差、というよりは過給器の性能差だった。

上記の2機種の大きな弱点は高々度時の性能低下なのだが、
これはもう、エンジンの問題ではなく、過給器の問題だ。
要するに、スパーチャージャー、ターボチャージャーなど、空気の薄い高度でも、
ガーっと空気をエンジンに送り込むシステムが弱かったのである。
マーリンはエンジンと過給器(スーパーチャージャー使用)を一体として開発していたので、
過給器の進化がそのままマーリンエンジンの進化となった。

が、アリソン、というかアメリカのエンジンは基本的に過給器とは別開発であり、
しかもターボチャージャーが主だったから、小型の単発戦闘機に積むには、少々嵩張った。
P47は力業で載せてしまったが、あれは空冷エンジンでそもそも胴体が太い、
という「どうせ元からデブ」という、ある種の達観による(笑)。
せっかく機体をスリムに造れる液例エンジン機で、それをやっては意味がない。

どうでもいい話だが、アメリカのターボチャージャーの生産をやっていたのが、
今ではジェットエンジンと金融でおなじみ、ジェネラルエレクトリック社。
エジソンが作った会社がその源流の一つでもあります。

で、アリソンを造ってたのがジェネラルモータース。
すなわち!
P38は将軍自動車と将軍電気を搭載した、
ダブル暴れん坊将軍状態!イヤッハー!


はい、すみません、もうしません。



アリソンV1710に排気タービンを搭載した結果がこの機体、P-38だ。
日本人の書いた航空戦記とかを見るとこんなのチョロイと書いてるが
実際はこの機体の高速、高高度性能は恐ろしいものがあった。

それを知ってる人間は皆、撃墜されて死んでしまってるわけだから、
そんな証言が残ってないのもある意味、当然かもしれない。
まじめな話、生き残った人間の証言は、死に追いやられた人間の状況を
なんら証言していない、というのはこの手の資料を読むときに重要な点でもある。

事実、アメリカ陸海軍、さらには海兵隊まであわせても、
アメリカの第二次大戦の撃墜数トップ1&2のエース、
ボングとマクガイアが乗っていたのがこの機体なのだ。



ついでに、P51のB型以降で高々度性能の優秀さを見せるマーリンエンジンだが、
実はマーリン45まではその高々度性能はたいしたこと無く、
スピットファイアMk.V(5)なんて、Fw190Aにすら完全に圧倒されてしまった。
マーリンが高々度飛行に耐えるようになるのは60シリーズ以降で、
スピットでいけばMk.VIII(8)およびIX(9)以降となる。
それ以前のエンジンで見れば、アリソン、
それほどマーリンに劣っていないように思うのだ。

実際、あのP38の恐ろしいまでの高性能ぶりは、アリソンエンジンに、
キチンとした過給器(P38はターボチャージャー)を積むとどうなるか、
という仮定への非常に明快な解答となっている。

ついでながら、以前
「日本が水(液)冷エンジンをキチンと使えたら、高々度性能はどの程度よくなったのか」
という質問をメールでもらい、意味がわからず頭を抱えたのだが、
逆に質問してみたら、そのまんまの意味だった。うーむ。

もしかして、そういう話がなんらかの書籍等で出回ってるのかもしれないが、
空冷エンジンと液冷エンジンだけの違いでは、高々度性能には何の意味も無い。
高々度性能の差は、純粋に過給器の性能で決まる。
そしてそれはスーパーチャージャーだろうがターボチャージャーだろうが構わないが、
スーパーチャージャーでは2段過給以上でないと性能的には厳しい。

恐るべき高高度性能を持っていた機体、
B-29は空冷エンジンに排気タービン搭載だし、
P-51Dは2段過給液冷エンジンなのだから、ここら辺りは理解できるだろう。

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