■250sの限界

では、珊瑚海海戦第一ラウンド、日本側の錯誤のフィナーレともいえる
給油艦USSネオショーと、USSシムスの悲劇を見て置きましょう。

ちなみに、USSシムスはこの空襲で撃沈されるものの、USSネオショーは生き残って
4日近く漂流後、友軍の駆逐艦に乗員が救助されてます。
(その後、その駆逐艦によって沈められた)
すなわち、五航戦の艦爆隊は、ほぼ全力攻撃で7発も爆弾を命中させたのに、
給油艦すら沈められなかった、という事になります。

先に説明した通り、この空襲に雷撃隊は参加しておらず、
艦爆(急降下爆撃)のみの攻撃ですから、
99艦爆の250s爆弾の限界が早くも表れる結果となった、という感じがしますね。



写真はイギリス空軍が使っていた爆弾ですが、参考にはなるでしょう。
一番デカいのがアメリカの艦爆、ドーントレスが搭載したサイズ、
1000lb(ポンド)爆弾で、重量は約454s。

その左奥が日本の99艦爆が使用した250s爆弾に近い500lb爆弾で、約227s。
当然、倍近い大きさの差があるわけで、奥の車輪のサイズと比べても小さめで、
この250s爆弾を数発当てたところで、全長で150m近い1万トン以上の船が沈むとは、
ちょっと考えられないモノとなってます。

実際、珊瑚海海戦でもミッドウェイ海戦でも、日本の艦爆の爆撃戦果はイマイチで、
基本的には雷撃、すなわち魚雷でトドメを指す、という事になるのです。
(それでも正規空母は一隻も撃沈できてない。全て大破までだ)

ちなみに小型爆弾は火薬による破壊力だけでなく、その貫通力でも劣ります。
どうせ爆発するなら、艦内の奥深く、ボイラーや弾薬庫がある
艦底に近い心臓部で爆破したほうがいいのですが、
そこまで突入させる貫通力は純粋に爆弾の持つ運動エネルギー(E=mvv)によります。
(衝突の瞬間、これを力(F)に変換し装甲をぶち抜く仕事(W)を行う事になる)

運動エネルギーは、0.5×質量(m)×速度(v)×速度(v)で決まります。
よって同高度から投下した場合(すなわち落下速度が同じなら)、
質量(この場合重量)が倍の方が、
そのエネルギーも単純に倍になり、同じ厚さの装甲に対してなら、
装甲貫通のための力も単純に倍になります。

もっとも、衝突時に加わる力に弾頭部の強度が耐えられないと、
相手の装甲より先に自分の方が破壊されてしまいますが。
(50mの高さから道路に鉄球を落とせば鉄球が勝って道路が陥没するが、
人間を落とすと人間の方が衝突時の力に耐えられなくて先に破壊される事になる)
さらに厳密には衝突で生じる熱エネルギーとして持っていかれてしまう分の
損失も考える必要がありますが、大筋では上の考えで問題ありませぬ。

ここでもう少し脱線すると(笑)、爆弾の破壊力には投下高度の問題もあります。
運動エネルギーは速度の2乗に比例します。
よって同じ爆弾なら、より高高度から落下させ速度を上げた方が、
はるかに貫通力(の元になる運動エネルギー)は増します。

ちなみに爆弾は水滴型に近い、空気抵抗の小さい形状が普通なので、
その落下速度は重力加速度にほぼ従います。
よって同じ高度から投下した場合、
重量による落下速度の差は、ほとんど無いと見ていいでしょう。

空気抵抗を無視できるなら、地球上の落下物は全て1秒ごとに9.8m/秒(=35.28km/時)
とスゴイ勢いで加速される上、速度は2乗で運動エネルギーに効いてくるので、
これは極めて大きい要素となって来ます。

が、当然、高度が上がれば上がるほど、命中確率は落ちます。
敵の艦長や操舵主もお馬鹿さんではないので(一部例外はある)
上空の機体が爆弾を投下態勢に入ったのを見てから舵を切るため、
着弾まで時間がかかればかかるほど、避けられる可能性が高まるからです。

このため、命中率を上げるには投下高度を下げるしかなく、
(これは敵の対空砲火の中に飛び込むことも意味する)
そうなると加速距離が短い分、落下速度に期待できない事になります。
となると、爆弾の貫通力を高めるには重量増しかなく、
250s爆弾しか積めない日本の99艦爆は、極めて不利です。

ただし、さらに少しだけ脱線すると、
これは装甲の貫通力に使うエネルギーを
爆弾本体の運動エネルギーに求めた場合の話です。

対戦車ロケットのHEAT弾のように、
弾頭内に高熱噴流を発生させ(要するに衝撃波レンズだ)、
それによって(熱エネルギー+運動エネルギー)で
装甲を破壊する力とする、という場合は話が異なってきます。

この場合、落下速度は問題になりませんし
(むしろ爆弾内部の構造が破壊されないよう低速が望ましい)、
一定の厚さの装甲を撃ち抜くエネルギー量は決まってますから、
それに必要な火薬と部品以上の質量を増やしても何のメリットもありません。

もっとも、この手の高温、高速の噴流で装甲をぶち抜く弾頭は、
穴を開けただけで終わってしまうため、戦艦相手ではさほど効果がないんですけども。
(潜航中の潜水艦なら致命傷になるだろうが)

まあ、いずれにせよ、この時代の艦上攻撃機の爆弾に
そんなものは無いので、ここでは考えませぬ。
(ドイツがいろいろやってはいたけども、1942年の太平洋からは遠い話)


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