■さかなかみなり

さて、先に見たように艦上爆撃機(急降下爆撃機)
だけでも十分な破壊力があったわけですが、
それに加えて雷撃機、すなわち魚雷による攻撃ができる機体があったことが
当時の空母の打撃力を極めて強力なものにしていました。



アメリカの雷撃機といえば、
お腹に魚雷を抱えたあの機体は誰んじゃー、そりゃアヴェンジャー、
という感じですが(私だけ?)この機体はミッドウェイの後の実戦デビューとなってます。

実は珊瑚海海戦とミッドウェイ海戦で戦ってたのは
先代のダグラスTBD デヴァステター(Devastator)でした。
人類の99.99%は、そんな機体、知らないと思いますね(笑)。
当然、私も写真を持ってないので、皆さん、自分で検索してください…。

しかも1935年初飛行、37年から導入されいてたデヴァステターは
既に旧式機だった上に、生産機数も少なかったので、
開戦直後から1942年6月のミッドウェイ海戦まで作戦投入されながら、
ほとんど活躍しないで終わってます。

ついでにあまり知られてませんが、そもそもデヴァステターは、
戦前に130機前後生産しただけで生産終了となってしまったため、
開戦から1942年夏までの半年以上にわたり、
アメリカ艦隊が持つ雷撃機は130機から減り続ける、という恐ろしい状態でした。
ミッドウェイに参加していたデヴァステターは、あの時アメリカ海軍が持ってる
ほぼ全機体だったと思われます。
その後、ようやくアヴェンジャーが登場、ガダルカナルの死闘以降、
日本側を苦しめることになるわけです。

ちなみに、この時期の日本側の雷撃機(艦上攻撃機)は97式艦攻3号となってます。
この機体、少なくともデヴァステターよりは優秀だったと思われ、
実際、初期の空母決戦でほとんど活躍できなかったデヴァステターに比べ、
USSレキシントン、USSホーネット、両空母の撃沈に大いに貢献しています。



エセックス級空母の魚雷作業室。
艦底の一番攻撃を受けにくい場所にある魚雷庫と、
それを機体に搭載する前に調整する場所がここです。

火薬の爆発力で敵を破壊する兵器は、その爆発に伴う衝撃波と
弾丸並みの高速で弾き飛ばされる破片で周辺を破壊するのが普通です。
この点、水中で爆発する魚雷は水の抵抗が大きく、
破片による破壊があまり期待できません。

が、そんなのは全く問題にならないのが水中爆発の破壊力で、
まず空気に比べてはるかに高い密度を持つ水の衝撃波は極めて高圧になり、
これが周囲に対して強力な破壊力を及ぼします。
同じ量の火薬を爆発させるなら、その衝撃波(密度が高まって壁のようなった波)
による破壊力は水中の方が格段に高いのです。

さらに火薬系の爆発の場合、爆発ガスが一瞬大きな気泡造り、
さらに高速で収縮(分散)するため、最初に強力な持ち上げる力(膨張力)を生み、
次にそれが縮んで引っ張り込む力(吸引力)を生み出し、
その結果、周辺にある構造物はその力でヘシ折られてしまう事があるのです。

このため、1000lb(453.6kg)近い爆弾や主砲弾では
何発当てても沈められなかった戦艦でも、
500〜600lb(226.8〜272.1kg)前後のの炸薬しか積んでない魚雷が数発当たっただけで
致命的なダメージを食らうことになります。
これが各国が魚雷を熱心に開発した理由で、潜水艦や駆逐艦でも
戦艦に対抗できる打撃力が持てることになったのです。

が、密度の高い水中を進む魚雷は速度がおそく(80km/h前後は出たが)、
時速40km近くで航行してる軍艦相手に遠距離から撃っても、
まず当たらない、という致命的な弱点がありました。
さらにその低速のため、見てからでも対応できる、
というある意味スゴイ遠距離兵器で、
実際、大戦中は、多くの艦が発見してからの操舵でこれを回避してます。

しかし高速で接近できる雷撃機なら、至近距離まで接近
そこで雷撃すればほぼ外れない、という効果が期待できるわけです。
(このため航空魚雷の射撃照準は艦上発射のものに比べて
まるで別兵器のように単純なものとなっている)

ちなみに珊瑚海海戦の記録によると、アメリカの雷撃機は
1500〜2000mの距離で魚雷投下(珊瑚海海戦の祥鳳の戦闘詳報)してるのに対し、
日本の雷撃機は450〜900m(珊瑚海海戦レキシントンのAction report)
と極めて至近距離から雷撃してます。

実際、その差は明確で、魚雷の命中数では、両海戦を通じて、
日本側が圧倒しており、やはり至近距離投下、というのは重要なようです。
この二つの海戦に限って言えば、日本側の雷撃は極めて優秀でした。
(それでも1km進むのに50秒近くかかるので、500m以上の距離があるなら、
よほどの大型艦でなければ、回避は不可能ではない。
逆に潜水艦などと違って撃った瞬間を確実に見られるので、不意打ちができないのだ。
このため、前後左右から挟みこんで回避できないような射線を形成するのが理想だが、
現実としては、それは難しい)

ただし肉薄する分、雷撃機は対空砲火を食らったり、低空に居ることで自由を奪われて
敵戦闘機に襲われる確率は極めて高く、その攻撃力と引き換えに、
相当な犠牲が要求される攻撃手段ではありました。
その損害率などについても、また後で見ることになるでしょう。
…忘れなければ。


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