■空母のエラサの研究

さて、空母が強いしエライのは実戦の結果から明らかですが、
それはなぜか、という基本的な部分を最初に確認しておきます。

単純に言ってしまえば、当時最強の対艦攻撃能力を持っている上に、
それらが通常艦船では反撃不能な遠距離から飛んで来て、
かてて加えて、近距離からの投弾による高い命中率を誇るためです。

すなわち戦艦主砲砲撃に近い(若干劣るが)破壊力を持つ急降下爆撃機、
そして駆逐艦や潜水艦と同じような魚雷攻撃をする雷撃機、
これらがより遠くから飛んできて、そしてより近距離から正確に攻撃を行えたからですね。
(後にこれにロケット弾が加わるが1942年の段階では考えない)

航空兵力は母艦から数百kmも離れた場所まで飛んでくるんですから、
空母が無い艦隊は反撃のチャンスすらないまま海の藻屑とされます。
ただし、航空機最大の敵は実は地上砲火である、という点から
一元化された明確な対空防御の指揮系統の確立、そしてレーダーの管制射撃、
直撃しないでも損害を与えられる近接信管の開発などによって、
大戦後半では航空機といえど、そう簡単には敵艦隊に近づけなくなります。
ただし、アメリカ軍の艦隊に限る(涙)、という条件付ですが…。
この点については、日本海軍のことは忘れてあげるのが大人の優しさです。

とりあえず、空母から飛んでくる航空機による打撃力は
当時の海上兵器の中でも最強の部類に入るものばかりでした。
これは第二次大戦開戦直前(1930年代後半)から各国で実用化された
航空機の1000馬力級エンジンの登場が大きな役割を果たしてます。

このエンジンによって大型の兵装が搭載可能になり、
この結果、戦艦や巡洋艦の主砲弾に匹敵する爆弾、
さらには戦艦クラスに十分な損傷を与えることが可能な魚雷を
艦載機に搭載できるようになったからです。

これによって相手がどんな軍艦であろうと、海上戦において
空母に沈められない相手は無い、という恐るべき時代がやって来たのが
第二次世界大戦直前の世界の海軍の状態でした。

そして、それを強烈に証明して見せたのが、
日本海軍の真珠湾攻撃だったわけです。
(ただし相手は全て旧式戦艦で、しかも後にほとんどの艦の引き上げに成功、
復旧工事の後、戦線に復帰して来てしまった。
さらに言うなら空母も全て逃してしまっており、戦略レベルでは
この作戦は間違っても成功とは言いがたい。
事実、これだけの大規模奇襲を行いながら、
その後、1941、42年を通じて南太平洋の制海権を得られてない)



写真は、1940年5月に初飛行し、1942年の空母の年の段階で
アメリカ海軍 主力艦上爆撃機(Dive bomber /急降下爆撃機)だったダグラスのSBDドーントレス。
爆撃機としてだけではなく、海戦で重要な敵の発見と周辺哨戒任務を兼ねた機体なため、
偵察爆撃機(Scout Bomber)と呼ばれる事も多いです。

1000lb(ポンド/約453.6kg)爆弾を機体下面に搭載しての飛行が可能で、
戦艦主砲よりやや劣るものの、巡洋艦の主砲よりはるかに強力な打撃力を持ちました。
それが艦爆の仕事に必要な最低限の打撃力だったわけです。
そして実際、この機体によって珊瑚海海戦、ミッドウェイ海戦ともに
日本海軍は大きな損失をこうむる事になります。

ちなみに日本側の主力艦上爆撃機である99式艦爆の爆弾搭載量は…は………
………ごめん、私の口からはこれ以上は言えない気分なの…



でもって、こちらは当時のアメリカ海軍戦艦の主な主砲の砲弾コレクション。
左から12インチ(30.5cm)、14インチ(35.5cm)、16インチ(40.6cm)直径のものです。
こうして見ると2インチ(約5.1cm)直径が違うだけでもかなり大きくなるのがわかるかと。

この内、真中の14インチ(35.5cm)以上が第二次大戦時の戦艦の主砲とされたものでした。
軍縮条約前の旧式戦艦の主砲が14インチ(35.5cm)、
条約が事実上無効になった後、大戦直前から戦中にかけて造られた新型戦艦の主砲が
より大型の16インチ(40.6cm)という感じになります。
(ただし軍縮条約による戦艦建造中止時代に入る直前、1921年に配備された
USSコロラド級の3隻は例外的に16インチ主砲を搭載してる)

左端の12インチ(30.5cm)は中途半端なサイズですが、
第一次大戦前のいわゆるド級戦艦に積まれていた主砲です。
さらに大戦末期に建造され、限りなく戦艦に近いといわれたアメリカの巡洋艦、
USSアラスカ級にも搭載されています。
なので、最新の戦艦主砲よりは小さいけど、
巡洋艦の主砲よりはずっと大きい、というところでしょうか。

でもって、その微妙な(笑)12インチ主砲弾の重量が大体1000lb(約453.6kg)前後なので、
(アラスカ級のはもう少し重いが)
ドーントレスを運用していたアメリカ海軍航空部隊の破壊力は、
戦艦の主砲よりは劣るものの、巡洋艦よりはずっと強力、というところになるわけです。

このため、絶対不沈レベルの装甲を持った戦艦以外の相手、
すなわち巡洋艦や正規空母までなら、この爆弾だけで十分撃沈が可能でした。
実際、空母艦隊決戦で、アメリカ側の爆撃のみで沈められた艦は
赤城、加賀、蒼龍をはじめ、複数あります。

さらに、急降下爆撃を行うため、その命中精度の高さも有効でした。
戦艦の主砲は20km以上離れた場所から、山なりに砲弾を撃ち込むため、
(さあ、自宅から20km先ってどんだけの距離かを確認してみんなで驚こう!)
何度も一斉射撃しながら弾の落下位置観測してを照準を補正し、
やがて命中弾を得る、という射撃方法が普通でした。
このため、命中弾を得るまでが一苦労で、実戦での命中率は5%以下が一般的です。

データが残ってる例をいくつか見てみましょう。
まずはスリガオ海峡戦の時の戦艦USSウエストバージニアの場合。
レーダーによる測距離射撃という理想的な状況での砲撃だったのですが、
日本の戦艦山城に対し命中弾はたった3発だけだったとされます。
この時、主砲8門で最低でも13回の一斉射撃をやってますから、
命中率は2.9%と実に3%を切ってしまってることに。
すなわち発射した弾の内、97%は海の藻屑となったわけです。

他にもレイテの悪夢、サマール沖海戦の時の日本側艦隊全体の
推定発射弾数は2500発以上(副砲を含む)、
対して命中弾は120発前後というデータがあり、
これだと命中率は4.8%というところになります。

ただし、この海戦では何せ日本側の艦船も結構沈んでいて(涙)、
それらの艦の正確なデータが一部無かったりするので、あくまで参考値ですから、
実際はもっと命中率は低かったろうと個人的には見ています。

対して、急降下爆撃の場合、相手のほぼ真上から、
目標を見ながら爆弾を落とすわけですから、
その命中率は格段に高くなります。
ただし敵艦に接近する必要がある以上、撃墜される可能性も高く、
そこら辺りの機数減少も考慮する必要があるのですが、
それでも、その命中率は戦艦主砲の3倍近いものになって行くのです。

例えば、ミッドウェイ海戦で、日本側の3隻の空母が瞬殺された時だと、
ヨークタウンから17機、エンタープライズから33機、ホーネットから35機、
すなわちアメリカ側の急降下爆撃機は85機が出撃してました。

対して命中弾は赤城に2発(3発の可能性あり)、
蒼龍に3発、加賀に4発(5発の可能性あり)で、最低でも9発、最大で11発ですから、
10.6〜12.9%の命中率となり、戦艦砲撃の倍以上の精度となります。
ちなみに雲の下に入っていて無事だった、とされる飛龍ですが、
こちらも爆撃、雷撃ともに攻撃は受けていて、
これを避けれたのは天候と運と操舵術によると思われます。

参考までに戦闘詳報でキチンと自艦への着弾数を確認してるのは蒼龍のみで、
赤城、加賀にいたっては爆弾を食らった事実、
それどころか沈没したという事実すらキチンと記入してません(涙)。
やる気あんのか、記録担当者。
よって両艦の命中弾数は生存者の目撃証言によります。

ついでに命中率の母数は、上空から投下された爆弾数ではなく、
とにかく最初に空母から発進した機数です。
途中で迷子になったり、撃墜された機体も多いのですが、それも一種の外れですから、
空母を飛び立ったうち、どれだけ命中したかを求めます。
でなきゃ戦艦の砲撃と公正な比較にならないでしょう。

その後、生き残った飛龍に止めを刺したUSSエンタープライズからの攻撃は
24機の艦上爆撃機(内11機が沈没直前だったUSSヨークタウンから避難した機体)
が発進、4発の命中弾を与えています。
となると、全体の命中率は16.7%。

ただし、何機かは周囲に居た戦艦 榛名を目標にしてるんですが、これは全弾外れてます。
(飛龍の戦闘詳報によると、全部で13機の爆撃を受けたとされる)
なので飛龍に対して攻撃を仕掛けた機体だけを見ると、
30%前後と言う、驚異的な命中率を出してますから、
艦上爆撃機の命中率は、5%で御の字である戦艦の主砲砲撃に比べ、
明らかに優秀である、と言えるでしょう。

ただし、この辺りは急降下爆撃機の内、撃墜された機体の数、
つまり損失率も見ないと、その攻撃の有効性を迂闊には判断できません。
戦艦の砲撃に失敗しても、失われるのは砲弾だけなのに、
艦載機の場合、爆弾だけでなく、機体と乗員の損失の可能性が
常に一定率で存在するからです。
言葉は悪いですが、人命を含めた“敵艦撃沈までのコスト”を考える必要があります。
この辺りの問題は、また本編にてやりましょう。
…忘れなければ(笑)。

ちなみに、この海戦で日本側が送り出した唯一の艦上爆撃機部隊、
飛龍からの第一波の攻撃隊は18機発進して、3発の命中弾をUSSヨークタウンに与えてます。
よって、これも同じような数字、16.6%の命中率ですね。

とりあえずミッドウェイでの命中率をざっとまとめるとこんな感じになります。
青がアメリカ側の攻撃、赤が日本側の攻撃です。

  出撃機数 命中数  命中率 
 対 赤城 加賀 飛龍 蒼龍  85機  9〜11発  10.6〜12.9%
 対 飛龍  24機  4発  16.7%
 対 ヨークタウン  18機  3発  16.6%

こうして見ると、1942年ごろの海戦においては、
12〜17%辺りが艦上爆撃機による攻撃で期待しうる命中率という感じがします。
対日本四空母の時の命中率が低いのは、防御側の成果と言うよりは、
単に攻撃側のアメリカ軍パイロットの技量による感じですね。

日本側の対ホーネット戦の16.6%も、同じように厳重な対空防御をしていた
アメリカ側の直衛戦闘機の中に突っ込んでの命中率ですから、
これは両者の差は攻撃側のパイロットの技量ではないかと。

この表を見ながら考えると、ミッドウェイ海戦で日本の4空母が撃沈されたのは、
不運でも偶然でもなんでもなく、
襲撃機数から計算して、確率的に避けられない損害だった、という印象です。
どのうような状況であれ、先にこれだけの数の機体に
先制攻撃を許した段階で、運命は決まっていたと思われます。

ただし、だったら日本側が80機以上の攻撃隊をアメリカ空母機動部隊に向けて送り出していれば、
おそらくアメリカ側も全滅に近い損失をこうむっただろう、というのは楽観的過ぎで(笑)、
僕らの99式艦爆はドーントレスの約半分、250kg爆弾しか積めないのです…。
誰だ、こんな艦爆採用したの。

実際、3発もの命中弾を与えながらUSSヨークタウンは沈んでないどころか、
復旧作業によって自力航行を行ってました。
赤城と蒼龍が3発以下の爆弾で沈没まで追い込まれたのとは、あまりに対照的です。
この後の雷撃隊による第二波の攻撃が無ければ、
USSヨークタウンは逃げ切っていた可能性も高いのです。

それでも、ミッドウェイ海戦では、最初に相手の攻撃を受けてしまったのが運のつき、
というのは事実であり、空母決戦は先手必勝、というのは間違いなく真実でしょう。
日本側の場合、艦爆の打撃力が劣っても、雷撃部隊がかなり優秀ですし。
(パイロットの技量の問題ではなく、兵器の質の問題)


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