■さらなる減速その1 とりあえず、多段減速の基本を確認したので、ここからはさらなる高速を目指す場合を考えて行きます。 マッハ1.5を超える辺りからは二段階減速だけでは十分に気流を減速できなくなるため、それ以上の速度を目指す機体ではさらなる工夫が必須になります。その対策が三段階以上の多段気流減速であり、これにはいくつか種類があるので、主なものをざっと見て行きましょう。 比較的単純な手段がF-104やミラージュIIIなどで採用されていた、空気取り入れ口への半三角錐構造の追加です。Mig-21など先端円錐を持つ多段構造を左右に分割し、間に普通の機首を入れてしまった形とも言えます。 御覧のように空気取り入れ口の中に、円錐を半分に切断した突起部を押し込み、その先端で二度目の衝撃波を生み出します。そして、その後、空気取り入れ口のフチ部分で三度目の衝撃波を発生させ、三段階減速を行っているのです。 ちなみにF-104の空気取り入れ口の半三角錐部分は安価な固定式で、速度ごとの調整は効きませぬ。 盛大に前に飛び出してる点から、マッハ2前後の飛行を前提に調整されてるように見えますが、これだと低マッハな速度域ではいろいろ不利なはず…。ちなみに同じような構造のミラージュIIIはキチンと前後可動式にしてました。 …やっぱり賄賂もらって馬鹿な国民だまして参議院選挙にでも出るかゲッシッシシ、とか選考委員の中の誰かが考えでもしない限り、こんな戦闘機を採用する理由は何もないですよ、ホントに。 もう一つのやり方がF-4ファントムIIのように大きな境界層分離板を前方に突き出す形で取り付けるもの。 この構造の機体では、分離板の先端部で二度目の衝撃波を生み出してます。ちなみにF-4の境界層分離板はやたらデカイ上に前後二分割、しかも後方の板には細かい穴が開いてて形は台形、と設計陣は何を考えてるんだ的な構造ですが、それらにもちゃんと意味はありまする。 とりあえず細かい穴が開いてる意味は既に説明したので、今回はそれ以外の部分を。 理由その1。…お判りいただけただろうか。 はい、空気取り入れ口の開口部の面積が同じファントムIIなのに異なってますね。これは下の機体では二枚目の境界層分離板(イケメンの意味ではなく純粋に物理的に二枚目)のケツ部分を横に押し出してるからです。これによってマッハ2近い最高速度の時に三度目の衝撃波をここで生じさせ、三段階減速をやってます。同時に、後で見る断面積変化による気流の減速も狙ってるはずです。 すなわちF-4ファントムIIも実は可動式の空気取り入れ口なのでした。 このようにマッハ2以上を狙う機体では可動式の空気取り入れ口が必須であり、これを避けるにはF-104のようなヒドイ機体を産み出しちゃうか、本当の意味でのDSI構造を取り込むしかありませぬ。 どちらもいやなら、マッハ1.6位までで我慢するしかなく、F-16やF/A-18がその段階の最高速度で妥協した理由がこれです。この辺り、重量増を何より嫌うボイドの判断だったと思われます。実際、そんな速度、使い道はほとんど無いですしね(戦場で使ったらアッと言う間に燃料不足になって帰れなくなる、というかそこまで加速するため直線飛行してる間に撃墜される)。 ちなみに上の写真はアメリカ空軍博物館の、下の写真は嘉手納基地の展示機体なんですが、嘉手納のように超音速飛行状態で展示されてる機体は初めて見ました。よって貴重な展示なんですが現地では気が付いておらず、帰宅後に写真を見て驚愕したのです。が、この角度から写真を撮ったのは、たまたまでした。…霊感が働いた?ファントムだけに。 ちなみに二分割の境界層分離板の間には、よく見るとヒンジがあり、ここを軸に後部の板のケツが横に持ち上げられるのが見て取れます。後部だけを持ち上げるようにしたのは、恐らく全面積分を持ち上げるにはベラボーな力が必要になるし、その必要もないからでしょう(ケツのところに音速気流がぶつかればいいのだ)。 そして理由その2、なんで台形なの、という点に関しては以前の記事で触れたコレが理由でした。 吸引した境界層の排出口ですね。これは境界層分離板の裏、ダクトの上下部に設けられてます。 でもってこの位置ではどうやって負圧を生み出して吸引してるのか判らぬ、と書いてしまったのですが、その後、掲示板で前にある台形の境界層分離板が負圧を生んでるのではないか、との指摘を受けたのです。 すなわち台形の後部から気流は高速で流れ去るのですが、段差の陰にあるこの部分は低速の淀みを造るはず、という事です。気流は高速化するほど(動圧が上がるほど)気圧、すなわち静圧は下がるので上部に高速気流による気圧の低圧部を生み出し、その負圧で吸引させ、排気してるのではないか、という事ですね。 実際、この部分で気圧低下によると思われる水蒸気の渦が発生するのも確認できたので、おそらくこの推理は正解だと思われます。すなわち負圧を生み出して境界層の排気を行うため、二枚目(ハンサムの意味ではない。すなわち我々の敵でではない)の境界層分離板板は台形になっている、という事です。 いやはや、よく考えたな、という構造ですね、これ。 でもって、ここでちょっと注目なのがソ連の可変翼戦闘機、Mig-23。 F-111の影響で可変翼を採用しちゃった機体という面がよく言われますが(ただしはるかに軽量で、戦闘機としてはずっと優秀だったと見ていい)、この機体で意外に注目なのが空気取り入れ口なのです。 はい、これ。F-4ファントムIIそのまんまじゃん(笑)。 外から見るだけであの構造が理解できるとは思い難いので、ヴェトナムで回収した機体を調べてパクったんじゃないかなあ、という気がしています(初飛行は1967年6月だからその機会はあったはず)。「これはよく考えた構造でスキー」「さっそくパクるコフ」という感じで。なので、ちょっと特殊な印象があるF-4ファントムの境界層分離板ですが、ほぼ同じ構造の機体がこの世にもう一機存在するのでした。 |