例えばF-15の場合、一番長いダクト部上部ではエンジンの吸気ファンまで約6mもの距離があります。 ちなみにこれは地上駐機状態で、可変式の空気取り入れ口先端部が一番上にまで跳ね上げられた、水平位置なのに注意。 ■Photo US AIRFORCE 写真のように、F-15は通常、空気取り入れ口が下向きにお辞儀した状態で飛んでます。例外は超音速飛行時か逆に超低速飛行時など限られた場合のみです(飛行速度、迎え角などの条件ごとに下向き4度から最大15度まで下がる)。よって飛行中は底面を除く、ダクトの多くの部分がが6m近い長さを持つと見ていいでしょう。 となると、そのままではダクト内での乱流境界層の振動の発生、さらにはエンジンのファンブレードの破損の危険性が避けられません。 では、どうするのか。 こうするんですね。矢印の先に見える天井板に何かあるの、判るでしょうか。 拡大するとこう。天井板に小さな穴が無数に開いてるのです。 ここから天井板の表面を流れる境界層を吸い出し、以後は通常流れの主流のみが流入するようにしています。境界層そのものを吸引して消滅させてしまうので問題はあっさりと解決するわけです。豪快といえば豪快な解決策と言えるでしょう。 同時に吸引により気流の剥離にも対応しています。先の写真のように斜めに傾けてしまうと気流の剥離と乱流化が発生しやすいので、これも必須の対策だったはず。 ただし普通に考えると抵抗源になりますから、気流が流れる運動エネルギー(流体だから圧力でもある)を奪ってしまうような気がします。が、どうせこの後はエンジンの吸気でファンで強烈に吸い込んじゃうので問題無いんでしょうね。 ちなみに上面の板が複数に分割されているのはF-15は可変式ダクトを採用してるため(画面では判りにくいが3分割されてる)。 通常飛行時は二枚目の板までが上の写真のように入口部ごと下側にお辞儀します。さらに超音速飛行時は奥にある三枚目の板と合わせて下向きにせり出して凸型の出っ張りを造り、ここに超音速気流をぶつける事で衝撃波を生み出します。 それによって衝撃波の壁で背後の吸気ファンを超音速気流から守るのと同時に、衝撃波背後の圧縮空気を美味しくいただく、というよく考えられた構造になっています。 ■Photo US AIRFORCE 天井板の穴から吸い込まれた境界層は矢印の先にある空気取り入れ口上面の格子状窓から排気されます。 通常飛行時は空気取り入れ口の天井が下向きにお辞儀をしており、一種の前縁フラップのような構造になってます。よってその上には高速気流による負圧が生まれており、これで高速飛行時のダクト内の境界層を吸引してるのです(掃除機みたいなもの)。この辺り、よく考えたなあ、という構造です。 ついでながら、F-22への道の連載終了後に気が付いたんですが、F-15の場合、この可変式空気取り入れ口を下に傾ける事で揚力を生み出しており、これも一種のLERX的な装置、と言えなくなくもないですね(渦も生じる)。 ただし背後にあるのは主翼ではなく胴体の一部なので、どれほど運動性の向上に寄与するかは判りませぬが…それでも機首上げの力などには貢献してるはず。 ちなみに矢印の先、側面にも同じような穴が開けられています。 妙な位置と分布に見えますが、これは恐らくお辞儀した状態の時の開口部形状に合わせているから。これは左右両面にあり、手前側の主翼下に見えてる格子窓の空気抜き穴から気流を抜いてます。この窓の位置だと吸い出しの負圧が生じないように見えますが、空気取り入れ口の前縁部は丸みを付けて曲げてあるため、ある程度の負圧が生まれている可能性もあります。 ちなみにエンジンまでの距離が最も短いダクト下面に穴は無いようです。 さらにF-15のダクトも下面及び先端の可動部より奥は可能な限り丸みを帯びた形状にし、滑らかな表面仕上げになっています。これはF-16のダクトと同じ構造であり、境界層の乱流化を避けようとしているのが見て取れる部分です。 ついでにこの写真だとダクト上面が三分割されてるのが判りますね。 あと空気取り入れ口と機首部の隙間の奥に二つ四角い穴が開いてますが、これは機首部表面を流れてきた乱流境界層を吸いだして捨てるためのもの。ただし単純に排気するのではなく、どうも機体内部の電子機器を冷却用として利用してるようです。 F-15の場合、機首部も長く、空気取り入れ口までこれまた約6m近くあります。 このため境界層の乱流化は避けがたく、よって機首周辺と空気取り入れ口は最低でも10p前後の隙間ができる構造になっています。特に最も奥に位置する空気取り入れ口の下部は機首下面からかなりの距離が取られているのが判るでしょう。 あまり見た人は居ないと思いますが、F-15の胴体下から機首方向を見るとこの辺りの構造がよく判るのです。左右の空気取り入れ口に対し、機首部下部分はかなり強烈に絞り込まれ、十分な間隔が維持されているのが見て取れます。これは嘉手納の米軍基地の展示機で、ちょっと面白いから程度の理由で撮影したモノ。が、ちゃんと役に立つのですから、こういう写真も撮っておくものですね。 ちなみに穴あけの工夫をやったのはF-15が最初ではありませぬ。 同じマクダネルダグラスのF-4ファントムIIでは境界層分離板の二枚目、空気取り入れ口直前の板にこの細かい穴が盛大に開けられています。これ、よほど近くで見ないと見えにくいので、あまり知られてませんけども。 でもって操縦席横、空気取り入れ口の上のこの格子穴から排気してます。 問題はこんな場所に負圧は生じないため、どうやって吸いだしていたのか全く判らない点です(笑)。専用の排気ポンプでもあったのかとも思いますが、詳細は不明です。 |