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■学びの確認 ではここまでの「発見」を利用しながら実際に「立体」の絵を描いてみましょう。 最初は「立体を描く」考え方がよくわかる例として車を取り上げます。車を違和感無く描くには一定の画力が要るのですが、いろんな面で残念だった当時の美少年小学生の筆者でもあっさりその限界を突破してしまったやり方です。 まずは横から見た車の形を描きます(下図中1)。これは平面図形の組み合わせだけで出来るので絵なんてほとんど描いたことが無い人でも、ちゃんと写真を見て半日も練習すれば形になると思います。 次に同じ形を少し横にズラして再度描きます。できれば少し小さくしておくのが理想です。そして両者が重なる部分は線を消します(下図中2)。この辺りの作業はデジタル環境の方が容易ですが、紙の上でもそれほど困難は無く出来るでしょう。 そこまで終わればほぼ完成したようなもの。 後は手前と奥の両者を繋ぐ直線を引いて、これを立体化するだけです(上図3)。最後に要らぬ線を消し、細部を少し描きこむだけで、ご町内のお絵描き博士くらいには余裕でなれる車の絵が完成します。拍子抜けするほど簡単に車を立体的に平面上に再現できちゃったわけです。 こうして筆者は「ああ、絵ってこう描けばいいのね」と悟り、以後、そうして絵を描いて来たのです。冗談抜きで私の絵の描き方は未だに小学生時代に知った直方体の描き方の延長でしかなく、それだけで十分だと思っております。まあ厳密にはここにさらに「空間」の考え方が加わるんですが、今回はとりあえず「立体」の再現までとして置きましょう。 このため筆者は人の絵の模写も、立体物のデッサンも何もやらないまま今に至りますが、それなりの絵は普通に描けるのです。世の中で出回っている「絵の描き方」の中で私にとって意味があるのは「対象をよく観察する」だけですね。後は何の役にも立ちませんでした。人の絵の模写なんて劣化コピーの量産以外の意味が見出せませんでしたし、そういった方向で人に教えたがる方に限って絵は下手ですし。 ![]() それから40年以上経った今はもう少し進化した描き方をしていますが、基本的な考え方は同じです。その点もちょっと説明しておきましょう。今回のお題はホンダのビートとしましょう。理由は今ではほぼ見かけない車ゆえ、多少ミスっても誰も気がつかいないからです(卑劣)。ついでに言えば、前回見た「転写」と「描写」を組み合わせながら描いて行く事になります。 筆者は単純な「転写」は出来ないので、まずは対象の形状を把握し、頭の中に「像」を作り上げる必要があります。そのため写真に補助線を引いて、全体の位置関係を把握します。車の場合、タイヤが大きさの基準になるので、全長、そして車軸間の長さ、そして車高がタイヤ何個分かをまず見ます。 この辺り「転写」の才能がある人は、見ただけで描いちゃうんですが、私には無い能力なのでこういった回り道が必要なのです。 ![]() こんな感じですね。判りやすいように車幅、全体の奥行きを確認する線も引きましたが、場合によっては中心線だけしか引かない事も多いです。ついでに慣れてくると頭の中で線が引けるので、もっと単純な形状のものなら補助線を引かずに描いてしまう事もあります。とりあえず中心と左右の隅にある物体の位置関係を把握して置けば後はなんとかなります。 でもってまずは上の線を参考に大雑把に車輪の位置を決めてしまいます。以下のような下絵ですね。自動車の絵の場合、ここがズレてしまうと最後まで何か変なままなのでこの最初の段取りは重要です。ついでに前後輪の奥行きが微妙にズレているのも見といてください。これは視点位置の関係で生じる空間のズレなんですが、この辺りはまた空間の描写の話の時にします。今回は何かやってるな程度に思って置いてください。 ここまで来れば車の絵は半分以上終わったようなものですが、逆に言えばこの段階で間違うと、以後、どんなにがんばっても上手くゆきませぬ。よって丁寧に位置関係と大小比を写真から拾って頭の中に「像」を築き、それを「描写」して行く必要がある部分です。この場合、「像」なので写真とは細部が違う物になるのは当然で、その辺りは気にしません。後で整合性はとれますので。 でもって一定の形が正確に構成できたら、そこからは「転写」作業、細部を写真で見ながら描きこんで行きます。 ![]() 以下のような感じですね。大筋の形が在っていれば、以後、写真で細かい部分を描きこんで行く過程でも大きな破綻は置きません。多少の矛盾は出て来るでしょうが、なに、人類の99.98%はそこまでビートの形状に詳しくないので黙って居ればバレません(卑劣)。 ![]() 後はもうドンドン描きこんで行くだけです。ただし筆者は飽きっぽい性格なので、ある程度まで描きこんだらこれでいいか、と妥協してしまいますけどね。 ![]() 最後はざっと着色しておしまい。ただし筆者は色を塗りながら修正もしてゆくので、よく見ると微妙に形が違います。 ![]() 筆者は線を綺麗に引けないので、ちょっとガタガタしますが、別にそれで何がどうなる訳でもないので気にしません。 ただしこれでも相当に線は整理した後なのです。とにかく線を引いては消して修正する描き方なので、紙と鉛筆で描くのに向きません。デジタルお絵描きだからこそ、筆者はまともな絵が描けるのです。これが無ければ、とっくの昔に絵を描くのを止めていたと思います。実際、どういった道具で絵を描くのか、は意外に重要な問題なんですが、その辺りは自分でいろいろ試してもらうしかありませぬ。 とりあえず、立体として対象を捉えて平面に再現する、筆者なりのやり方はご理解いただけたと思います。…いただけましたよね? でもって筆者の場合、こういった機械類だけでなく、人体なども同じように立体として頭の中に取り込んで描く、という手法を取っています。お次はそちらを見て行きましょう。 |