■作用反作用の行方
というわけで、前回から作用反作用の法則を見ています。
ここで、突然ですが運動量を力積と呼ぶことがある、
その理由は後で、と連載の初期に書いておきながら、
説明をすっかり忘れていたのを思い出しました(涙)。
ここまで来たら今さらですが、
運動量(mv)÷時間(t)=力(F)
の基本式を変形し、
運動量(mv)=力(F)×時間(t)
と書いて、力と時間の積として運動量を求めることから、
この呼び名があります。
特に力積と書く場合は、力の蓄積としての運動量を
説明してる場合が多いです。
とりあえず前回は、衝突などによって相手を弾き飛ばす場合の
作用反作用を考えました。
作用反作用は接触した瞬間から始まる事、
力のやり取りは常に瞬間単位で起きるため、
時間の単位の設定を間違えるとエライコトになる、という話でした。
ついでに、そこでは運動量の保存が常に成立している、
というのも重要なポイントとなっています。
運動量では、物体の接触時、つまり作用反作用が生じる時、
常に以下の保存法則が成立する、というのも覚えておいてください。
物体1衝突前の運動量(mv)+物体2衝突前の運動量(mv)
=物体1衝突後の運動量(mv)+物体2衝突後の運動量(mv)
つまり接触しながら運動する複数の物体内で
運動量は常に一定に保たれる、という事です。
ついでに、連続衝突のような3つ以上の物体の衝突の場合も、
単にプラスされる物体の数が増えるだけで、これまた成立するのです。
でもって今回は、相手が弾き飛ばされない接触、
むしろ自分が弾き返されてしまう接触の作用反作用を見て行きます。
世の中には相手が吹っ飛んでゆく接触ばかりではありません。
ぶつかった相手が超巨大戦艦だったり、
東京都庁だったりした場合、相手はなかなか動きませんからね。
この場合の作用反作用の結果を考えるとどうなるか。
当然、片方が動かないなら、
運動量保存の法則を成り立たせる方法は、ただ一つ。
動ける側が全ての運動量を引き継ぐ事になる、
つまりぶつかった方が同じ速度で弾き返される、です。
これを作用反作用の視点から見てみましょう。
ただし、これも剛体同士が、例の何もない宇宙空間でぶつかる、
という大前提があり、ぶつかるのが割れてしまう卵や、
ぶつかるとのめり込んじゃうスポンジの壁が相手、というのはなしです。
鉄球にコンクリートの壁、といったような条件を考えてください。
とりあえず、前回と同じ慣性飛行中の100kgの球が謎の巨大物資に
ぶつかってしまった場合を考えましょう。
ついでに今回も1/10秒単位で考えます。
で、例によって簡単な図にするとこんな感じになります。
力の発生、消滅、そして運動量の数字に注意しておいてください。
上から見て行くと、
1.まず前回と同じ条件で慣性運動中の100kgの物体があります。
となると、運動量は前回と同じ秒あたり1000kg・m/s。
ただし慣性飛行中ですから、加速度は0で、力も0です。
これが何かにぶつかり、速度に変化が出てから初めて、両者が発生します。
2.さて、次は衝突が起こった後です。
この時、謎の巨大物質には秒速0.00000…1mくらい、ほぼ誤差レベルの
速度しか生じなかった、といったように考えておいてください。
相手がほぼ動かないため、接触の中断はなく、球が持つ全ての運動量が
力に変換されて、巨大物質に伝えられるまで、接触は続く事になります。
これを今回も1/10秒単位で力の大きさを考えましょう。
となると運動量と時間から力の量を求める例の式により
1000kg・m/s÷1/10秒(s)=100kg
m/ssとなりますね。
この力が100kgの球から巨大物質に伝えられる事になるわけです。
3.この結果、作用反作用によって、同じ大きさで逆向きの力が発生します。
つまり(-)100kgの逆向きの力で巨大物質が100kgの球を押し返すわけです。
衝突の瞬間、球は運動を停止してますから、
その速度は0であり(=加速度0)、運動量も力も0になってるのに注意してください。
そして加速度も運動量も0なら、当然、力も0となります。
(* 話を単純化するため前回と同じ1/10秒で計算してるが、さらに短時間の1/100秒でも、
1/1000秒でも最終的な計算から出てくる数字(運動量&速度)は同じ結果になる。
よって実際の衝突は一瞬で終わると考えてよい。
ついでに理論的には極めて短い時間ながら一瞬、運動量が0になる、
運動量保存の法則が成立しない瞬間ができるはずだが、これについてはニュートン以降、
誰も深く考えてないので(笑)、私も深く考えないでおきます…*)
このため巨大物質が押し返した(-)100kg
m/ssは何の抵抗も受けず、
全てがそのまま、100kgの球を反対方向に弾き返すのに使われます。
この時の100kgの球の速度を考えましょう。
力(F)÷質量(m)=加速度(a)ですから、その1/10秒単位の加速度は
(-)100
kg
m/ss÷100kg=-1m/ss
となり、これは1/10秒後、100kgの球は反対方向に向けて
秒速1mの速度となるという事です。
以後は慣性の法則により、そのままの速度で飛ぶため、
1秒間なら10倍の10m進む、
つまり秒速10mで反対方向に飛んでゆく、とういう事になります。
秒速10mなら、向きは逆ですが衝突前の100kgの球の速度と同じですから、
衝突前と同じ速度で弾き返されたことになるわけです。
当然、作用反作用の前後で球の質量に変化はありませんから
(ニュートン力学の場合)
速度が同じなら、その運動量は完全に保存された事になります。
運動量の保存が確認された以上、この説明は正しいと考えてよさそうです。
(** ここで最初の1/10秒だけは秒速1mの1/2である0.5mしか
反対方向に進まないはずでは?よって最初の1秒間だけは秒速9.5mじゃないの?
と思いついた方、お見事です。
その通りなんですが、今回の1/10秒はあくまで計算用の目安で、
実際は1/100秒以下の一瞬で衝突は終わっており、
ほぼ一瞬で10m/sまでの加速は終わる、と思ってください。
この点、何を言ってるのかさっぱりわからん、という方、
後で説明する微分積分の話を待っておいてください**)
以上のことから、運動中の物体が、動かない物体にぶつかり、
作用反作用の力で跳ね返された場合、
それは衝突前と同じ速度で逆方向に飛んでゆく、という事になります。
…ホントかな?
さあ、適当な実験で確かめるザンス(笑)。
今回は水晶球(販売店の主張による)を使って実験ザンス!
レッツゴー!
ウヒョヒョヒョヒョ!どうやら理論通りザンス!
一瞬で押し返され、跳ね返ってくるザマス!
ちなみに左でブラブラしてるのはカメラのレンズキャップでヤンス。
連続写真に不正な修正ができないように、写しこんだザンス。
これで同じ写真を逆回転で連続写真にしてるわけではない、
という事を確認するザンス。
…ホントは撮影後に気が付いて面倒だからそのまんま…
というワケでは…無い…はず……ザンス!
さて、後は運動量の保存が成立してるか確認するザンス!
玉は定規の目盛り22.5cmあたりから発射したザマス
以下の写真はシャッター速度1/250の連写なので、経過時間は全て等しいでヤンス
まずは発射直後の1コマ。
とりあえず380円で買った魔法の水晶球(ホントは多分ガラス球)は、
ちょっと見づらいけど26cm辺りの目盛りのとこに居るザンス!
つまり3.5cmほど進んだザマス。
次のコマで衝突ザンス!
矢印のとこに仕切り板があって、ここで弾き返されるザンス!
その次のコマで、魔法の水晶球(自称)は26.3cmの前後の目盛りまで帰って来たザンス!
反射されたのが30cmの目盛り前後の位置なので、3.7smの反射ザマス。
よって撮影した本人もビックリの、ほぼドンピシャの結果となったザンス!
ついでに左のレンズキャップの位置で、衝突前の写真を
使いまわすというインチキはしてない、というのも確認しとくザンス!
これだったら前回の実験も水晶球でやっときゃよかったザンス!
ちなみに、この実験はぶつける先の壁が十分に重くて硬くないとダメザンス。
なぜなら衝突で押された結果、変形したり微妙に移動したりで
水晶球(販売店主張)の運動エネルギーを奪ってしまうからで、
こんな紙の束とかで実験をすると、速攻で失敗するザンス!
要注意ザンス!
ただし、この弾き返しを厳密を考える場合、仕事とエネルギー、
そして熱量の概念を使わないと完全な説明は不可能です。
実際、下のGIF動画でもわかるように、
ぶつかる相手によっては、あっさり球は減速したり、
止まってしまったりします。
これは前に説明した、ぶつかって割れてしまう卵や、
壁にめり込んでゆく弾丸などと同じく、
運動エネルギーの損失が起きるからです。
さらに壁にめり込む銃弾などの場合は、
摩擦熱によってもエネルギーの大量消費が行なわれるため、
単純な運動だけではなく、熱量まで考える必要が出てきます。
ちなみに、ニュートン力学でもテニスボールのように
弾力を持って反発を吸収してしまう物体までなら
0〜1の反発係数という概念を使って運動の計算だけはできます。
ただし、計算はできても、現象を理論的に説明するのは難しく、
今回は取り上げないでおきます。
ついでに、鉄の球のように、運動量がほぼそのままで
弾き返される剛体を弾性的な物体と呼びます。
この呼び方、どうも変な感じですが、そういうルールになっちゃってるので、
これはそういったもんだと思ってください。
ちなみにテニスボールのように衝突を吸収してしまう物体は
非弾性の物体と呼ばれます。
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