■作用反作用の実戦投入
さて、そんな感じで見てきた作用反作用の法則、
これがニュートン力学の集大成になっている、というのは
なんとなく理解していただけたでしょうか。
実際、人類の機械文明においてもその影響は大きく、
ジェットエンジン、ロケットエンジンなどは、
まさにこの作用反作用の応用でお空を飛んでゆくわけです。
せっかくですから、そういった応用部分も少しだけ見ておきましょう。
写真はアリアン5ロケットの実物大レプリカ。
ロケットの巨大な構造の中身のほとんどは燃料タンクで、
このアリアン5でも、左右のブースターから下の本体内部は
ほとんど燃料タンクとなってます。
となりの747ジャンボジェットと比べると、
どれだけ膨大な燃料を積んでるかがわかるかと。
本体の一番下、小さく絞りこまれた部分だけがロケットエンジンです。
ロケットの場合、やたらめったら燃料を積み込むため、
人工衛星を打ち上げてるんだか燃料を打ち上げてるんだかわからん、
というなんだか不思議な構造になってます。
が、この本体内にある燃料を高速で外部に噴出することで、
大きな運動量から強い力を生み出し、その反作用で飛んでゆくのが
ロケットの基本原理です。
ここで、少しだけその仕組みを見ておきましょう。
極めて簡単に書いてしまえば、ロケットの推進の原理はこうなります。
大量の燃料を積み込んでおき、これを爆発的な燃焼で膨張させ、
高速の流れとして下方向に噴出します。
燃焼した燃料が質量(燃焼しても質量は保存される)となり、
高速の噴出が速度となった結果、
質量(m)×速度(V)=運動量(mv)
が成立、運動量が産まれます。
となるとそこには各瞬間で力が下向きに発生することになるのです。
そして、この下向きの力と同じ大きさの反作用として、
ロケットを上に持ち上げる力が生じる事になります。
この結果、高速噴流(ジェット)の反作用として、
ロケットは上に持ち上げられるわけですね。
これまで見てきた衝突式の作用反作用とは力の向きが異なりますが、
力が加わるところに常に反作用が起こる、が法則でしたから、
ロケットエンジンに強力な下向きの力が加われば、
そこには上向きの反作用が起きるのです。
ただし、燃料は気化してしまってますから、
その単位時間あたりの質量は限られており、
(それでもサターンVロケットの1段目などは秒間15トンも燃料を使うが…)
ロケットエンジンに大きな力(運動量÷単位時間)を発生させるには、
いかに噴流(ジェット)を高速にして運動量を稼ぐか、が課題になって行きます。
ロケットがなんだか凄まじい勢いで噴流(ジェット)を噴出すのはこのためです。
やや乱暴に言ってしまえば、水道の蛇口を開いた時、
蛇口が上に撥ね上げられるのは、ロケット推進と基本的には同じ原理です。
この場合は質量を持った水を高速で流しだすことで運動量を確保して、
そこで生じる力の反作用で跳ね上がっています。
ちなみに水は気体よりもはるかに質量があるので、
噴流にして推力を得る場合、より少ない量でも大きな力を産みます。
ちなみにGIF画像は一瞬、水を出したのを繰り返してるだけで、
決して水の無駄使いをしてるわけではないので、念のため(笑)。
質量の小さい気体を噴出させるロケットエンジンにとって、
噴流の速度がその出力の決め手となって来ます。
運動量は 質量×速度であり、力はその時間当たりの量ですから、
質量が軽い場合、流出速度で補わないと出力が上がらないのです。
こういった高速化のためには、噴流を導くノズルが極めて重要で、
同じ量の燃料を使っても、この設計しだいで出力が大きく変わってしまうのです。
ある意味、ロケットエンジンのキモはこのノズルかもしれません。
写真は国産のLE-5ロケットエンジン。
ただし、ここら辺りは流体力学の極北、といった世界なので、
当然、私にはさっぱりわかりません…。
ここで、せっかくなので、ロケットにおける
運動量保存の法則の成立も少し見ておきましょう。
打ち上げ前の状態で、最初の1秒間で使われてしまう燃料をy、
残りの燃料とロケット本体の重量をxとしましょう。
アルファベットを使うと、頭が良さそうに見えてカッコいいですしね(笑)。
となると打ち上げ前、速度が0の時の全重量は(x+y)kgであり、
速度が0である以上、運動量は0となります。
なので、今回は運動量0が保存される、というちょっと変わった例になります。
では発射後、1秒(単位時間)経過した状況を考えてみましょう。
まず、燃料yは全て高速で噴出されてしまっています。
噴出速度はサターンVロケット級と同じく、
秒速2500mという盛大なものとしましょう。
となると燃料yの運動量は
(y)
kg ×
2500m/s=2500(y) kg・m/s
ここから生じる単位時間当たりの力(F)は、
この数字を1秒(s)で割り算して、2500y kg・m/ssですね。
これが発射1秒後のロケットにかかる力です。
ここで同じく1秒後のロケットの速度を N
m/秒(s)とすると、
ロケット本体から反作用でかかる力の量は
(x) kg×-(N) m/s ÷1秒=-(xN) kg・m/ss
という形で書くことができます。
エンジン出力とは反対方向の力なので、
マイナスが付くのに注意してください。
以上の計算から、
■燃料
yが発生する力 2500(y)kg m/ss
■ロケット本体x が押し返す力 -(xN)kg
m/ss
そして作用反作用の法則によって(x)、(y)、
それぞれの質量にかかる力は逆向きに等しいので、
合計すると0になるはずです。よって
2500(y) kg
m/ss +(-(xN)) kg
m/ss=0
という式が成り立ちます。
で、上で見たように、(x)と(y)の運動量(mv)を1秒で割り算したのが、
この二つの力(F)の量でした。
よって、両者に1秒を掛け算するだけで、元の運動量(mv)になります。
つまり、単位が変わるだけで、上の式はそのまま
2500(y) kg・m/s +(-(xN))
kg・m/s =0
として、成立します。
これは運動量の合計の式ですから、
両者の運動量の合計は0のまま保存されている、という事を意味します。
はい、なんだかあっけないですが(笑)、
これにて説明終了、運動量は0で保存されてました。
ちなみにジェットエンジンも高速の噴流からの運動量で力を得てる、
という点ではロケットに近いものです。
ただし、こちらは空気を取り入れながらこれを圧縮、燃料とまぜて爆発的に燃焼させる、
という構造のため、ロケットほど単純な運動量の保存にならず、
全体の流れを説明するのは、やや面倒です。
よって、当然(笑)、今回はその説明を見送らせていだたきます…。
ミサイルなども、基本的にロケットと同じ構造で推進力を得ています。
ただし、一部、長距離巡航をするためにターボジェットエンジンを積んでるものがありますが…
写真はレーダー誘導空対空ミサイルのスパロー ミサイル。
ついでながら、ロケット同様、作用反作用はこの本体内で完結するので、
発射母体に反動の負担を掛けません。
意外に無視されますが(笑)、この点は機関砲とかとの大きな違いの一つです。
第二次大戦末期、30mmとかのアホみたいに強烈な反動のある機関砲より、
ロケット弾が主流になっていったのには、こういった事情もあったと思います。
第二次大戦からソ連が大量に導入したいわゆるカチューシャロケット。
その発射装置はご覧のように極めて簡便なもので済んでます。
これも作用反作用の反動が発射母体にかからないロケット装置ならではの利点です。
同様に、歩兵が運用する対装甲兵器にもロケットランチャーが多く採用されてます。
これまた反動が軽くて済むからですが、
その代わり、後部への噴流(ジェット)の吹き出しが凄まじい事になるのです。
当然、後ろに居たらエライ事になりますし、密閉空間で発射したら、
本人もただじゃ済まないでしょう。
さて、という感じで、作用反作用編も終了です。
これで、ニュートンの基本3要素の量、
質量(m) 長さ(距離)(L) 時間(t)
そこから求められる重要な量、
速度(v) 運動量(mv) 力(F) 加速度(a)
の全てを見て来た事になります。
さらに基本3法則
■慣性の法則=物体の動かしにくさの法則
■運動の法則=物体を動かした時の法則
■作用反作用の法則=複数の物体の運動の影響の法則
の説明も終了です。
そして、この3つと上の量の計算によって登場する
■運動量保存の法則=質量×速度で求められる運動の量は保存される
までを見て来た事になります。
これでニュートン力学の4割位、基礎は7割がた片付いた、という感じですから、
ご近所のニュートン博士くらいなら、軽く目指せると思います(笑)。
この後は、全体の理解を優先した結果、説明を飛ばしてしまった、
ベクトル、慣性系、質点、次元、といった取りこぼしを
ざっと説明して、円運動、微分積分をちょっとだけ見てから、
最後に仕事とエネルギーに触れ、終了となります。
少なくとも半分以上は終了してますので、
もう少し、お付き合いのほどを(笑)。
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