■力は一瞬の夢 運動量は努力の結晶

さて、謎解きをする前に、
法則の問題部分をもう一度見ておきましょう。

全ての力学的な作用に対して、
等しい大きさの逆向きの作用(=反作用)が常に存在する。


再度確認しますが、この法則は基本的には、成立します。
(細かく見て行くといろいろあるが、ここでは考えない)
ただし、これをキチンと理解するには、いくつかの落とし穴があり、
せっかくだから丁寧に見て行きましょう。

では、前のページで見た問題点、
新幹線とミーアキャットの衝突について考えて見ます。
果たしてミーアキャットは新幹線を止められるのか。
上の法則が成立するなら、これを押し返してしまえそうです。

が、現実にはそんなことは起きないわけで、
そこら辺りの理由を作用反作用の法則から考えてみましょう。

が、ここで新幹線の詳細データとミーアキャットの物理データを
キチンとそろえて計算してもあまり意味が無いので(笑)、
100倍の質量の物体が秒速10m(時速36?)で対象と衝突する、
というケースで考えて見ましょう。
質量差と速度があまり大きくなっても計算が大変なだけなので、
とりあえず、ここら辺で妥協させてください…。

当然、物事を単純に考える、という原則を採用して、
例の無重力&何もない空間で考えますよ。



とりあえず、これが基本の形。
話を簡単にするために、100kgの物体は動力なしの慣性運動、
すなわち等速直線運動で移動中と考えます。
さらに両者はその重心を貫く直線上で衝突し、
運動量は直線方向にそのまま乗り移る、という事にしておきます。

普通に考えると、1kgの物質が弾き飛ばされて終わり、
ですが、上の作用反作用の法則をキチンと成立させつつ、
運動量保存の法則を取り入れると、いろいろな事が見えてきます。

ここからは、これまでに見てきた「法則」と「量」を総動員しますので、
今まで説明してきた事をキチンと思い出してくださいね(笑)。
最初に各計算に必要な量を求めてしまいましょう。

まずは、運動の基本的な量、「速度」と「運動量」から。
速度は10m/sで等速運動ですから、そのままで問題なし。
運動量は 質量(m)×速度(V)の式から求め、

質量100kg×速度10m/秒(s)=1000kg・m/s

ですね。
これで基本的な量が求まりました。

速度は10m/秒(s)。
運動量は1000kg・m/s。

さて、今回は作用反作用の「力」の大きさを比べて、
ミーアキャットVS新幹線の決着をつけるのが目的ですから、
この条件における、力の量を調べる必要があります。

力の量の基本となる計算式は
運動量(mv)÷時間(t)=力(F) でした。
が、現在分かってるのは運動量のみで、
基準となる時間の量は出てきてません。

ところが話は意外に単純で、上で求めた運動量は
秒速を基準にしてますから、1秒分の運動量だとわかってます。
これが経過時間ですから、そのまま計算すると

1000kg・m/s÷1秒(s)=1000kg・m/ss(kg m/ss)

これが今回の運動で発生する1秒分の力(F)の量、大きさです。
ちなみに1秒で割ったため、当然、運動量と同じ数字になってますが、
前にも書いたように、力と運動量は別モノで
単位が異なるのに注意してください。

とりあえずまとめると、こんな感じです。



まるで作為的に狙い済ましたように
キリのいい数字が並んでますが(笑)、
この数字を使って、両者の衝突を考えてみましょう。

ちなみに力(衝突時)とわざわざ断ってるのは、
物体が等速直線運動をしてる以上、慣性運動であり、
この間は力=0となっているからです。
衝突後に両者の速度の変化が起きて、
加速度(運動の変化)が生まれ、初めてそこに力が出て来ます。
保存されていた運動量が、そこで力に変換されるわけです。



と、なると衝突時の作用反作用の力のやり取りはこうなるはずですね。
衝突した結果、右の100kgの物体から1000kg m/ssの力がかかり、
それと同じ大きさの力で1kgの物体が押し返している。
基本的に1kgの物体にはプラス、前進の力がかかり、
100kgの物体には前進を阻むマイナスの力がかかるわけです。

この結果、両者の運動はどう変化するのか。
それを知るには、まず速度を求める必要があります。
なので、力の量を求めるもう一つの式、
加速度から力を求める式を利用して、速度を求めます。
加速度と質量から力を求める式は

力(F)=質量(m)×加速度(a)

でした。
これを速度を計算するのに必要な加速度を求める式に
変形してしまいませう。
となると、もう分かりますね、両辺を質量で割り算して

力(F)÷質量(m)=加速度(a)

となります。すると今回の場合は

■1kgの物体 1000kg・m/ss÷1kg=1000m/ss
■100kgの物体 1000kg・m/ss÷100kg=(-)10m/ss
(100kgは後ろ向き、マイナスの加速度となるのに注意)

となるわけです。

そして最初に説明したように、ニュートン力学では速度は秒速ですから、
この数字に1秒を掛け算してやれば、それが速度となります。
よって、作用の力で弾かれた1kgの物体の速度は1000m/s、
反作用の力で押し戻された100kgの物体の速度は-10m/sですね。

ここで注目は100kgの物体の加速度で、-10m/sになってしまいました。
数式上はどこにもマイナスの数字は無かったのですが、
反作用の逆向きの力ですから、マイナスのベクトルになるのです。
ここらは、また後ほど、ベクトルの話の中で取り上げます。
これを当初の速度に加えると10+(-10)=0m/sで、これは物体が
完全停止してしまう、という事を意味します。
すなわち、100kgの物体は1kgの物体に
運動を食い止められた、ということです。
…あれ?

念のため、ちゃんと運動量保存の法則が成立しているか、
両者の運動量のやり取りも確認しておきましょう。
運動量(mv)=質量(m)×速度(v)ですから、
衝突後の運動量は
 
■1kg×1000m/秒(s)=1000kg・m/s
■100kg×(10-10)m/(秒)s=0kg・m/s

という事になりますね。

見事、運動量保存の法則も成立しちゃいました。
100kgの物体が持っていた1000kg・m/sの運動量は、
全て弾き飛ばした1kgの物体に乗り移った事になっています。

簡単な図にしておくとこんな感じですね。



衝突前の運動量1000は、そのまま1kgの物体が持ち去っています。
この結果を見る限り、100倍の質量を持つ100kgの物体は、
壮絶に吹っ飛ばされる1kgの物体に全ての運動量を奪われ、
その運動を食い止められてしまった、という事になります。
当然、理屈は同じですから、数字を変えて10倍にしようが200倍にしようが、
質量の大きな物体は、この条件だと常に運動を食い止められてしまいます。

つまり、ミーアキャットはわが身を犠牲にすれば、
新幹線を食い止める事が可能、という結論になるのです。

…そんなバカな(笑)。

が、ここで使った作用反作用の法則はニュートンの発見後、
400年近く、大きな間違いも無く、常に正しいとされて来たものですし、
上の数字にも計算式にも、間違いはないはずです。
信じられん、という人は記事を最初から読み直し、
検討してみてください(笑)。

どこで落とし穴にはまったか、わかったでしょうか?

これが力学の恐ろしいところでして、
理屈も数字も正しいのに、前提条件を間違えると、
とんでもない結論になってしまう、というものです。

今回の場合、我々は経験的にこれが間違いだ、と知ってますから、
何かがおかしい、と気が付きます。
が、もしこれが未知の現象の結果を予測したのだとすると、
実験で確かめるまで、その間違いに気が付かない事が多いのです。

この結果、20世紀になってからも、
理論だけで実地データがない飛行機の設計で
どんだけのテストパイロットが悲惨な目にあったことか…。

さて、では今回の検証は、どこが間違っていたのか。
これまでの記事をキチンと理解している人は、もうお気づきですね。
そう、計算を通常のニュートン力学と同じく、
普通に秒単位で行なってしまってるからです。

この結果、自動的に接触後、次の運動の段階まで1秒かかってしまう状態、
つまり両者の接触時間が1秒間という
極めて長い時間に設定されてしまっています。
通常、これほど質量差のある物体が衝突する場合、一瞬で弾き飛ばされます。
1秒もの長時間にわたって衝突時の接触を続けるはずが無いのです。

そして、力は時間で蓄積される量(力(F)×時間(t)=運動量(mv))ですから、
両者の接触時間が長いほど、乗り移る運動量が大きくなります。
つまり、実際の接触時間よりはるかに長い1秒単位の時間で計算を行なった結果、
運動量のやり取りの量が実際よりも、かなり大きくなってしまったのです。
この結果、作用反作用によって、質量の大きな物質の運動を食い止めるのに
十分な力が発生してしまう、という誤った結論に達してしまった事になります。

つまり、作用反作用の計算をするのには、
通常のニュートン力学の時間の単位、1秒では長すぎるのでした。
この点に気が付いてしまえば、後は計算をやり直すだけとなります。



このステキに適当な実験を思い出してください。

両者の接触は一瞬で終わってしまっていましたね。
この連続写真のシャッター速度は1/100ですから、まさに一瞬で弾かれてます。
つまり通常のニュートン力学の単位時間、すなわち1秒間もの長時間、両者が接触している、
という計算の前提条件が間違っていたわけです。

この落とし穴は、何の疑問も無く、通常のニュートン力学と同じ時間の単位で
計算を行なってしまった結果なのですが、
これは実際に実験結果を知ってないと、
ほとんどの人が気が付かないでしょう。

こういった思わぬ部分に落とし穴があるので、力学は要注意なんですね。
といっても、そういった間違いをなかなか防げないから
あれゆる新技術には実験段階が必須なのです。

例えあんな適当な実験でも、無いよりはマシだったのでした(笑)。



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