■ニュートンの粘性法則
さて、では粘性の力をニュートンがどうやって力学的に解決したのかを見て行きましょう。
まず粘性を伴う層流の中で、流れはこうなっているわけです。
でもって、これを斜め上から見たら、以下のようになるはずです。
層流の名の通り、特定の速度ごとに層として分離してる、と考えた場合、
それは奥行きを持って箱状になるはずです。
そして、その底面で下層の遅い流れの粘性に引っ張られ
減速していると考える事が可能になります。
この考え方なら、力のベクトルは正反対の向きを向くので、
単純な計算だけで、それぞれの値を求める事が可能になります。
さて、計算のための現象のモデル化はこれでいいとして、
流れの力と粘性の抵抗力をどう計算するかです。
まず流れの力は単純で、どの流れの層でも全く同じ全圧力になります。
(観測地点とそこからごく短い距離(dL)の測定として。
長距離で考えると粘性の力で圧力は徐々に失われて行く。
すなわちエネルギーの損失となるから、
ゆえにベルヌーイの定理は粘性があると成立しないのだ)
よって、極短距離の水平な流れで重力の影響を受けないという条件で考えます。
そうすると、流れの力は
動圧力+静圧力=全圧力
ですね。
各層の速度が異なるのは、この全圧力に対する粘性の抵抗力が異なるから、という事です。
となると流体が流れるのに使えるエネルギー(圧力)は、全圧力 − 粘性の抵抗力 となるわけです。
では、その粘性による抵抗力をどう考えるか。
ちなみに圧力に対抗する抵抗力ですから、こちらも単純な「力」ではなく、
「圧力」または「圧力と同じ次元(単位)の量(kg/mss)」、でなければなりませぬ。
すなわち力(F)を面積(S)で割り算した数字でないと使えません。
3mの長さと3秒の時間を足すと幾つ?と聞かれても足せるわけが無いだろう、
というのと同じで、単位が異なる量は足したり、引いたりできないのです。
この点は要注意。SI単位とかマヌケな単位を使ってると、
この辺りがよく判らなくなりますから、気を付けてね。
でもって上のようにモデル化すると、本来は一体化してるはずの流れが、
粘性による下からの力を受けてどんどんズレて行く、という事になります。
なのでニュートンはこれに対して「せん断」と「せん断応力」の考え方を持ち込みます。
これはいやん構造物理学なんですが、一瞬出てくるだけなので、我慢してください。
私だって、構造力学なんてよくわからんのに、解説しなきゃならんのですから…。
とりあえず物体の一部をズラシて破断させる事を「せん断」と言います。
以下の図のように、物体の上部で横向きの力、Fを生じさせます。
この時、物体は床に必要以上にガッツリ固定されてるとしましょう。
物体に十分な強度が無いと、力(F)に破壊されてズレが生じる事になります。
このように力を加えて物体の一部を強引にズラして破断させる事を「せん断」と呼びます。
せん断は建築物や地層などに発生する事が多いので、構造力学の分野になるわけです。
ちなみに穴開け器で紙や板に穴を明けるのも、力で強引に
対象物を引きちぎる、せん断の一種です。
で、この時に加えた力、物体を破断させようとした力 Fを「せん断力」
と呼び、
せん断されて分離するまで、この力に対抗した
力に平行な面、物体内の図のA の部分を「せん断面」と呼びます。
この両者の比、力と面積の比を「せん断応力」と呼び、せん断の起きやすさの指標とします。
ただし、実際のせん断はこんなように綺麗に行くとは限らないので、
計算で使うせん断面の面積は、実際の断面Aではなくても、
力Fに対して平行な、同じ物体の内の同じ面積の部分なら問題なし。
で、せん断応力を式にすると、以下の通り。
せん断応力(τ) = せん断力(F) / 影響を受ける面積(A)
(せん断応力の略号はギリシャ文字のτ(タウ))
さて、賢明なる読者諸氏は一瞬で気が付いたと思いますが、これ、力を面積で割ってるのですから、
圧力と同じ次元、単位(kg/mss)となります。すなわち、その本質は圧力と同じ量です。
よって、このせん断応力を、流れの圧力に対する抵抗力とする事が可能ですから
これにて粘性を持った流体の抵抗力が計算可能となったわけです。
この「せん断応力」が、流体の持つ粘性抵抗の大きさ、という事になるわけです。
ちなみに「せん断力」と「せん断応力」
の区別に注意してください。
両者は全く別物ですからこれをとり違えると、メチャクチャな話になりますので要注意。
ちなみに境界層全体のせんだん応力の大きさを知るには全層のせん断応力を
積分する必要があるのですが、そこまでは今回取り上げず(手抜き)。
とりあえず、粘性の力の考え方と、それは圧力と同じ単位を持つ
せん断応力(kg/mss)で示される、という事だけを知っておいてください。
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