■分類不能

今回は実験機系の機体、レーサー&アクロバット系の機体、
そしてどこに分類していいのか困った(笑)ルタン閣下系を
まとめて紹介してしまいましょう。



まずは入り口横の天井からぶら下がっていたこれ。
なんだか遊園地の遊具みたいですが、先に紹介したグラマンF6Fの後継機となった、
F8Fの落下試験モデル(Drop test model)だそうな。

Drop test modelなる英語は初めて見たのですが、
エルロン(補助翼)と尾翼は稼動するようなので、
無動力の機体を上空から落下、滑空させながら、
各部の挙動をテストしたんですかね。

普通に見た限りでは、風洞実験用の模型にも見えますが…。



今回のビックリドッキリメカ一号、NASA謹製の斜め翼(oblique wing)実験機。
これは結構有名なので、知ってる方もいらっしゃるかもしれませんが、
その名の通り、可変斜め翼用の実験機ですね。

なんじゃそりゃ、というと写真の機体の主翼がポイントで、
普通の直線翼を飛行中に斜めに曲げてしまう、というもの。
F-14やF-111のような通常の後退翼式可変翼ではなく、左右の主翼を一枚板にして、
胴体を中心点として動かす、という豪快な設計です。
リモコン操縦で飛ぶこの実験機は、その主翼を30度まで傾ける事ができます。

なんでそんな事をというと、
飛行速度マッハ0.8前後から発生し始めて、
飛行を困難にしてしまう翼面上衝撃波を抑えるためのもの。

主翼を斜めにすると翼断面が気流に対して斜めに当たり、
翼断面に対する気流の移動距離が伸び、結果的に加速力が落ちます。
この結果、翼面上の気流が音速より遅いまま抑えられれば、
衝撃波も発生しない事になるわけです。

だったら普通の後退翼や前進翼でもいいわけですが、
F-22への道の超音速衝撃波解説で登場したNASAの知られざる天才、
ジョーンズ(Robert T.jones)がここでまた登場するのです。
エリアルール2号(仮称)、そしてLERXにつながる
デルタ翼の研究だけじゃないんですね、ジョーンズは。

で、あの記事では紹介してない、彼のもう一つの超音速飛行理論、
それが斜め翼理論なのでした。

私はこのNASAレポートだけは見てないので、
残念ながら詳しくは知りませんが、単純な後退翼、前進翼ではなく、
斜め翼にすることで、遷音速時の燃費が劇的に(約2倍)よくなるんだとか。
斜め、という辺りがポイントのようなので、
F-14やB1のような後退翼式の可変翼ではダメなのです。

でもって、斜めにさえすれば、ある程度アスペクト比の高い、
グライダーのような長い翼でもいけるらしく、
それなら低速時には直線翼、高速時には斜め翼にできる機体があれば、
極めて燃費のいい飛行機になる、というわけです。
(あくまで音速手前のマッハ0.9辺りまで。音速を超えると話は別になる)
その理論の実験用の機体がこれなんですね。

さらに有人のジェット機AD-1がこの後で開発され、
1977〜82年まで試験が続けられるのですが、
こちらも最高速度で320q/h辺りまでの飛行試験しかしてないそうな。
となると、どうも高速時にホントにそんなに燃費がよくなるのかは
まだ証明されてないような感じです。
高速飛行に入る前に実験が停まってしまったのは
予算の不足が原因でしょうかね。



イヤーン、アメリカーナ!な塗装が施された
ドイツのV-1飛行爆弾に見えますが、
これはアメリカ国産のJB-2 ルーン(Loon)ミサイルです。

いや、どう見たってドイツのV-1じゃん、航空宇宙館の本館で見たヤツじゃん、
と思う人が居るのはもっともで、これはそのV-1飛行爆弾を
ほぼそのままアメリカでコピーしたものなのでした。

ただし、全長が60cm近く伸ばされていて、この結果、
弾頭に積める炸薬は1t(2200ポンド)と、オリジナルのV1の850kgより
15%近く強力になっています。

1944年の夏にイギリスで回収したV-1の残骸から開発したとされ、
戦後も含めて1300発以上が生産されています。
ドイツと同様、地上、航空機から発射できたほか、
アメリカでは海軍もこれを採用、水上艦艇、
さらには潜水艦からの発射も可能になってました。
(ちなみに海軍は1947年にV2ロケットまで空母USSミッドウェイから打ち上げてる。
連中は当初潜水艦ではなく、空母から弾道ミサイルを撃つつもりだったらしい)

これはP-47のリパブリック社がその製造を担当、試作型を造るのですが、
当時のリパブリックはP-47の生産で手一杯であり、
さて、では誰に量産させるか、と軍は考えます。

はい、夕撃旅団読者の皆さんは、わかりましたね(笑)。
ここで待ってましたとばかりに、大量生産バカ一代、
ヘンリー・フォード率いるフォード社が名乗りをあげ、
あのB-24すら量産しちゃったその実績から、生産を委託されるのです。
なので展示のルーンミサイルもフォード製となります。
ホントに何でも造ってるんですよ、フォード社。

余談 その1

今まで一度も書いてなかった事に気が付いたので、ここで書いときます。
V-1はジェット機といえますが、そのパルスジェットは
ジェット燃料ではなく、航空用ガソリンで動きます。
このルーンも同じ、燃料はガソリンです。

余談 その2

英語圏でV-1は飛行爆弾、Flyng Bomb と表記されるのが普通ですが、
このルーンについては、Missile ミサイルに分類される事が多いです。
その違いは私にはわかりませぬ。

余談 その3

Loon は鳥の名前と説明されることが多いですが、
狂気、頭のおかしいヤツ、といった意味もあります。
でもって、先に紹介した日本の桜花のアメリカ側のニックネームは
“Baka bomb”、そのままバカ爆弾でした。
ただし、この場合のバカはおそらくCrazy、
狂気の、といった意味の誤訳でしょう。
でもってアメリカは終戦まで、
桜花はドイツのV-1のコピーではないか、と疑っていました。

と、なるとアメリカ人はV-1に対して“狂った”といった
印象を持っていた、という事のようにも見えます。
もっとも、V-1に対するニックネームはBuzz bomb、虫の羽音爆弾、
というそのまんまやんけ(パルスジェットの音を意味する)、
というものだったので、断言はできませんが…。



お次はまたNASAの無人実験機。

この異常に左右に長い、ビニール張りの怪しげな機体は、
NASAが開発した太陽電池と燃料電池で飛ぶ
無人機パスファインダー プラスです。
プラスの名の通り、この前に無印パスファインダーがあり、
1998年に主翼を延長して改造、このプラスへと進化させています。

最終的には大気圏内人工衛星、といったものを目指してるようで、
燃料補給無しで、長時間高高度を飛行し、さまざまな観測を行なう、
という機体になるようです。

効率よく飛ぶためと、太陽電池の搭載のためとで、主翼は横に長い、
極めてアスペクト比が高いものになっており、翼幅は36.3mもあります。
ほとんど主翼オバケ、という印象がありますね。

ちなみに、こういった機体の研究は以後も続けられており、
センチュリオン、ヘリオスといったより大型の機体をNASAは開発しています。

余談ですが、Pathfinderは探検家、開拓者、と訳される事が多いですが、
文字通り、道を見つける者、最初に道を切り開くもの、という意味であり、
訳語としては先導者、が正しいと思います。
なので後から来るもののために道を見つける、という意味で夜間爆撃の先導機、
あるいはミサイル用の誘導レーダーなどもこの名で呼ばれたりしますね。


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