■イギリス軍団とドイツのあれ



こちらはスピットファイアのPr.Mk.XI (11)

…という事になってますが、実は戦後にインド空軍に供与されたPr.Mk.X(10)で、
一説には1980年代初頭まで現役だった機体。
それが退役後、売りに出されていたのを個人が買い取ってレストア、
Pr.Mk.XI(11)風に改造してしまい、その後、アメリカ空軍博物に寄贈されたもの。
わずか15機前後しか造られたなかったPr.Mk.XI(10)になんてことすんのよ、という感じですが(涙)…。
まあ、とりあえず偵察型のスピットだと思っておいてください。

アメリカ軍に無かったものは多かったのですが、高速偵察機もその一つで、
当初はイギリスから譲りうけたスピットをその任務に利用してました。
展示の機体はそれを再現したもの。



空飛ぶ木製家具、デ・ハビランドのDH98モスキート PR.XVI(16)。
すなわち偵察型のモスキートという事になってますが、実はこれも元は別の機体で、
標的曳航型のTT Mk.35をそれっぽく改造しちゃったもの。
なんでこんな機体ばかりなの、この博物館という感じはしますね(笑)。

これも元は双発戦闘機ですが、偵察機、夜間戦闘機、雷撃機、などなど
数えきれないと言っていいくらい、さまざまな用途に利用された木製(バルサを中心にした合板)機です。

これも米軍は使用しており、偵察、気象観測、そしてまた夜間戦闘機として運用されてました。
ちなみに逆レンドリースでイギリスから供与された機体(約100機)と、
アメリカが自腹でカナダのデ・ハビランドから購入した機体(約40機)が混在、
しかも前者は普通にモスキートと呼ばれてたのに対し、後者はアメリカ独自にF-8の呼称を与えており、
この辺り微妙にややこしかったりします。
(FはFinder、観測のFで戦闘機の事ではない。分類としては偵察機になる)

展示の機体は戦後の1946年にイギリスで製造された爆撃機型のB Mk.35で、
後に標的曳航機のTT Mk.35に改造された機体。
一度民間の機体になってるので、おそらくその所有者から寄贈されたのではないか、
と思われますが、詳細は不明です。



ちょっと変わった、そして珍しい、ドイツの低空用対空砲Flakvierling(フラクフィーリン) 38の展示。
展示を見やすくするため、向って右の防盾が取り外されてます。

20o機関砲 Flak38を4門束ね、高速に大量の弾幕を張れるようにした対空機関砲です。
高度2000m以下が有効射程なので、低空で地上攻撃に突っ込んで来る
P-47やP-51を向え撃った対空兵器となります。

弾倉の交換などの手間を入れても1分間に800発以上、つまり秒間13発以上、
強力な20mm弾を撃ち出せたとされます。
これはパイロットからすれば相当な驚異でしょう。
特に地上攻撃の場合、目標まで接近して射撃するためその飛行軌道は容易に予測され、
そこに弾幕を張られると逃げ場がなくなるのです。
戦争末期のP-51なら空戦で撃ち落とされる事はほとんど無かったはずで、
むしろ地上攻撃の方がはるかに恐ろしかったと思われます。

展示のものは1945年の終戦間際にドイツで鹵獲されたものらしいです。



もはやおなじみドイツの秘密兵器、V-1飛行爆弾…と見せかけて
実はそれを大戦中にアメリカでコピーして造ったJB-2ルーン。
ほんとにこんなのばかりだな、この博物館。
スミソニアンではキチンとアメリカンな塗装でしたが、こちらはでドイツ風に塗装されてしまってます。
まあ、確信犯でしょう。

JB-2は機体部分をリパブリック社が、エンジンは大量生産の権化、フォード社が製造し、
終戦までに1000基ほどが造られたと見られてます。
これらは日本本土上陸作戦に備えて太平洋戦線の空母に配備されるまでは行われたものの、
その前に日本が降伏してしまい、最後まで実戦投入はされてません。



エンジン部分のみの展示。前部のカバーを外した状態です。
V-1はパルスジェットという極めて安価で単純なエンジンを使用してます。
圧縮のためのピストンもタービンも無い簡易エンジンで、
単純に気化した燃料と空気の爆発的燃焼だけで推力を生んでます。
手前に見えてる網状のモノが爆発の圧を前に逃がさないように閉じる上下観音開き式のシャッター、
その上に見えてる赤いパイプはおそらく燃料噴霧用のパイプ。

実際、これで飛んでますし、ラジコン用のパルスジェットエンジンもあるので実用性はあるのでしょうが、
圧縮無しの大気に燃料を吹き付けて爆発させたところで、そんな推力が得られるものか、
というのはどうも納得がいかない部分があるので、詳細は不明としておきます。

せめて空気取り入れ口を絞り込んで、広い燃焼室に送り込む、
とかしていれば、多少は圧縮が加わるはずですが、それすらしてませんからね、これ。
爆発の衝撃波(の反射)を圧縮に利用してるような気がしますが、そういった複雑な構造にも見えないし…
単にそう見えないだけで、相当工夫された形状なのかなあ…
エンジンの筒部の後半を絞り込んでるのは排気を加速させるためで、これは判るんですが。
少なくとも世の中一般で言われてるほど単純なものでは無いと思いますよ、これ。

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