■スーパーマリン スピットファイア PR. Mk.XI(11)
Supermarine Spitfire PR. Mk.XI(11)

さて、Mk.IX(9)シリーズには、もう1機、兄弟機とでもいうべき機体があります。
それがここで紹介する写真偵察型のPr.Mk.XI (11)です。
ただし、紹介する機体はちょっと微妙な存在でもあるんですが、この点はまた後で…。

偵察型スピットの型番に追加される文字、PRは
写真偵察(Photo Reconnaissance)の頭文字からとられたもの。
でもってスピットの偵察型の履歴は多分にドロナワ式のところがあり(笑)、
 Pr.Mk.XI (11)は最初、現場の部隊で勝手にMk.IX(9)を
偵察型に改造してしまったところから開発が始まりました。
独自の高速偵察機を持たなかったイギリス軍にとって、高速なスピットを
偵察機に改造する需要は意外に高かったのです。

そもそも偵察機は敵の航空優勢地域に乗り込んで
その追撃を振り切って帰ってこないと仕事になりませんから、
敵の戦闘機を振り切れないような低速では使い物になりませぬ。

で、その改造型をスーパーマリン社が正式に製造し始めて、
晴れて正規のPr.Mk.XI (11)となります。
これは偵察機用主翼、カメラと燃料タンクが入ったD型翼を付け、
コクピット前面の防弾ガラスを外し、
後は機首下のオイルタンクを拡大した(後述)以外、ほぼMk.IX(9)のまんまです。

実際、その操縦手帳(Pilot's note)なんかも
Mk.IX(9)、Mk.XVI(16)、 Pr.Mk.XI (11)は同じものが配布されてます。
まあ後期型マーリン搭載スピット三兄弟、というとこでしょうか。

ただし、ちょっとややこしいことに、Pr.Mk.XI (11)には
Mk.VIII(8)から改造された機体もあるようで、全部で400機以上造られたPr.Mk.XI (11)のうち、
どのくらいMk.VIII(8)からの改造があるのかもよくわかりませぬ。

で、実は造ったはいいけど使い道が無かったMk.VII(7)を偵察型にした機体もあり、
こちらはPr.Mk.X(10)という名前で採用されました。
ただし14〜16機前後が改造されただけで、ほとんどあってない様な機体でしょう。
なので本来は無視していいのですが、今回の記事ではこの機体も知っておく必要があるのです。

ここら辺りはさすがに難解なので、簡単な図にしておきます。
まず、全てはMk.V(5)の機体に最低限の改造で2段2速過給器搭載の
マーリン60シリーズを載せてしまった事から始まります。
その結果、生まれるのが初期生産型のMk.IX(9)です。



が、さすがにそれだけではちょっと何なので、別ルートで開発されていた
高高度戦闘機、最初のマーリン60シリーズ搭載スピット、
Mk.VII(7)で開発された技術の取り込みが始まります。

全面枕頭鋲、滑らかな外板構造、防弾ガラスをコクピット内に取り込む、
といった構造を取り入れ、さらにMk.VIII(8)で開発された防塵フィルター付き空気取り入れ口を
付け加えて、後期生産型のMk.IX(9)とMk.XVI(16)が誕生する、というわけです。

当初はあわててMk.V(5)の機体にマーリン60シリーズを載せただけなんですが、
その後、Mk.VII(7)で開発された新技術をキチンと取り込んで進化してるわけです。
そういった意味では、Mk.IX(9)の後期生産型は実は結構正当進化してる、とも言えます。

で、これらの後期マーリン搭載スピットから派生したのが2つの偵察機で、
Mk.VII(7)から14〜16機だけ改造されたPr.Mk.XI(10)、
そしてMk.VIII(8)、Mk.IX(9)とMk.XVI(16)から改造されたのがPr.Mk.XI (11)です。
とりあえず、これで7から11までの全てのスピットを見た事にもなります(笑)。
ついでに言うと、偵察型も数字の順にデビューしていたわけではなく、
どうもPr.Mk.XI(10)の方が後から配備になってるようですね。

といった感じで、よううやく本題、
後期マーリンエンジン搭載スピットの偵察機型を見てみましょうか。



写真はアメリカ空軍博物館に展示されてるPr.Mk.XI (11)。
…というのは実は半分ウソなんですが、この点はまた後で。

大戦期に専用の高速偵察機が無かった、というのは実はアメリカ軍も共通の問題でした。
そこでP-38などを改造して使ってたのですが、
ヨーロッパにおける戦略爆撃部隊、第8空軍ではさらにスピットファイアをイギリスから借り受け、
それによる飛行隊を編成していました(14th Photographic Squadron)。
これは1943年4月に編成された後、1945年4月の終戦直前まで活動してましたから、
アメリカ軍にとっても、スピットは使いやすい偵察機だったようです。

展示の機体はアメリカ空軍博物館のシリアルMB950機…というのは例によって大嘘で(笑)、
実際のシリアルはPA908ですね、この機体。
さらに、この機体の場合、Pr.Mk.XI (11)という型番もウソで(涙)、
本来はPr.Mk.X(10)だったのを、レストアの過程でPr.Mk.XI (11)風に改造しちゃったもの。
ただし、両者の違いは与圧式コクピットと搭乗用ドア、
後はキャノピー(天蓋)の開閉用レールくらいですから、
ほとんど同じようなもの、とも言えますが…。
(Mk.VIII(8)から改造されたPr.Mk.XI (11)の場合だが)

で、本当の正体であるPA908機は、戦後にインド空軍に供与されたPr.Mk.X(10)で、
一説には1980年代初頭まで現役だったとか。
退役後、売りに出されていたのをアメリカ(カナダ?)の個人が買い取ってレストア、
Pr.Mk.XI(11)風に改造してしまい、その後、アメリカ空軍博物館で展示されるようになったもの。
わずか15機前後しか造られたなかったPr.Mk.XI(10)に
なんてことすんのよ、という感じですが(涙)…。

とりあえずこの機体、インド空軍がどんな扱いをしていたかよくわからないのですが、
全体を見る限り、比較的悪くない状態を維持してるようにも見えます(一部はかなり怪しいが)。
ある程度の参考にはなるでしょう。

 

でもって、ようやくこの機体でほぼ真横から見た後期マーリン搭載スピットの写真が登場するので、
新旧両者の比較をやっときましょう。
厳密にはちょっと撮影角度がズレてるんですが、
数千kmの距離を隔てた地で撮影したにしては上出来だと自画自賛しております。
(さらに2年半の時間差がある)

下はなんちゃってPr.Mk.XI (11)なので、MK.VII(7)&VIII(8)と同じもの。
ただMk.IX(9)との差はわずか数cmですし、
後期生産型のMk.IX(9)は同じサイズだった、という話もあるので
Mk.IX(9)との比較と考えても、十分、参考にはなるでしょう。

基本的にはコクピット横の搭乗ドアの位置で両者の位置を合わせてあるのですが、
その前方、エンジン部を切り離すつなぎ目までは、両者とも全く同じ長さです。
が、その先、機首先端部と、プロペラスピナーを見ると、下のPr.Mk.XI (11)の方が
ちょっと伸びてるのがはっきり判りますね。
これがマーリン60シリーズ搭載のために延長された部分となります。

でもって今度は胴体後部に目をやると、コクピットの後ろ、アンテナ支柱の下から、
主翼の付け根の後ろまではこれまた全く同じ長さ。
ところが水平尾翼の位置までは、これまたPr.Mk.XI (11)の方が長くなってるのが判ります。
これが初期型と、それより43cmほど長いとされる
Mk.VII (7)系のマーリンスピットの差だ、という事になります。

ついでに、下のPr.Mk.XI (11)は、機首下部の、
オイルタンク部が大きく前に膨らんでるのも見といて下さい。
これが後期マーリン搭載偵察型スピットの特徴で、
長距離任務用のため大型のオイルタンクが搭載されています。


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