■何を食べていて、何を与えればいいのか

さて、人はカロリーだけで生きるにあらず、デグーのエサもまた同様であろうと思われますが、
では実際問題として、何を与えればいいのか。
それを考えるため、まずは野生のデグーが何を食べているのかを見ておきましょう。



この辺りはComparative Ecology of the Caviomorph Rodent Octagon degus in
Two chilean mediterranean type Comuunitiesの中である程度詳細に
報告されてますので、ここで紹介して置きましょう。
まずは二か所の調査地の植生から。それぞれの地表専有面積を%で示してます。

 Fray Jorge (フライフホルヘ)

 La Dehesa(ラ・デエサ)


■地面部分の植生
 雑草・草花 21.7%
 木の根、枯草、倒木など 32.3%
 むき出しの地面 46%


■地面部分の植生
雑草 草花 78.5%

木の根、枯草、倒木など 10.4%
むき出しの地面 11.1%


色文字が最大面積の項目です。
一目で分かるように全く異なる植生で、Fray Jorge (フライフホルヘ)がほぼ荒れ地である
というのが読み取れるのに対し、La Dehesa(ラ・デエサ)草原のような地区であることが読み取れます。
ちなみに両方とも地面以外の植生として、まばらな低木の疎林が存在します。

ではそれぞれの土地で、デグーは何を食べているのか。
当然、雨季と乾季で異なるのですが、ざっとまとめると以下のようになります。
ちなみに極めて大雑把なグラフからの読み取りなので、数字は凡そだと思ってください。
青の太字がもっとも多く食べられているものです。

Fray Jorge (フライフホルヘ)

La Dehesa(ラ・デエサ)

■雨季(7月) 
低木の葉 65%前後 
低木の実 15%前後
草花の葉 10%前後
草花の種 5%前後

■雨季(7月)
低木の葉 15%前後
草花の葉 85%前後

■乾季(1月)
低木の葉 20%前後 
低木の実 15前後
草花の葉 20%前後
草花の種 40%前後
低木の枝 5%以下

■乾季(1月)
低木の葉 10%前後
低木の実 25%前後
草花の葉 15%前後
草花の種 30%前後
低木の枝 15%前後


雨季は主に草木の葉を、乾季は草花の実を主食にしている、という事が読み取れます。
雨季の場合、両方の植生の違いから、草花の葉と低木の葉の差はありますが、
それでもメインは葉で、緑の多いLa Dehesa(ラ・デエサ)では草木の葉以外食べて無いのです。
Fray Jorge (フライフホルヘ)では、他にもいろいろ食べてますが、
それでも植物の葉以外のものは全体の15%以下でしかありません。
おそらく十分な緑があれば、ここもLa Dehesa(ラ・デエサ)のようになったのではないかと思われます。

ちなみにこれは水分を含んだ生の葉であり、すなわち家畜やペットに食べさせる
乾燥した牧草のような草では無い、というのに注意してください。
特に雨季の葉は新芽の青葉ですから、繊維質が少なく、
栄養が高いものであり、これを好んで食べている、という事になります。

そして乾季の食性は草木の種が中心となり、両地とも50%を超えて来ます。
草木の葉は両地方とも1/4前後であり、これは乾季で新緑のやわらかい葉が無い場合、
デグーは草花の種を好む、という事を意味します。
草食と言っても、常に葉っぱばかり食べてるわけじゃないのです。
ちなみに両地帯の低木林は常緑樹が多く、乾季の夏でも樹木には葉はあるものが多いです。
そういった新芽ではない古い葉はほとんど食べて無い、という事になります。
すなわちデグーが食べる葉にはかなりの選り好みが存在します。
草食だから葉っぱを与えて置けばよいだろう、というのは間違いなのです。

一般にデグーは牧草を主とする飼育が推奨されますが、
(私の知る限りイギリス人がそれを言い始め日本でも何の疑問も無く受け入れられてる)
このデータを見る限り、正しい方向性とは言い切れないでしょう、



デグーを家で飼ってると、植木を襲撃される事が頻発します。
時には枝ごと齧って持って行って食べてしまうのです。

葉の繊維質ならともかく、木の中にある硬いリグニンを消化できる哺乳類は居ないだろう、
と思ったんですが、どうも若い枝などはまだリグニンがそれほど含まれてないようで、
連中の体内微生物でも消化は可能なようです。
(私の知る限りリグニンを消化できる脊椎動物は居ないはずで、おそらく昆虫くらいだろう)
そのためか冬場になって新芽が出なくなってからは全く食べなくなりました。
ちなみに上の食性調査の中で乾季の時に見えられる
「低木の枝」というのはこういったものを指すのだと思われます。

当然、その葉も大好物なんですが、これも基本的に若いもの、
あるいは枯れて黄色くなったものを狙うので、その辺りがデグーの消化限界なのだと思われます。

哺乳類は自力で繊維質を分解、吸収し、栄養とする事ができないので、
牛、馬、ウサギ、デグーなどは体内に繊維質を発酵、分解させる微生物をもっています。
それらに分解を行わせた後で、反芻する(牛など)、食糞する(ウサギ、デグーなど)などによって
栄養としてこれを取り入れてるわけです。
ちなみに次に生まれて来るときはカワイイうさぎさんに…とか思ってる人は、
それは食糞する生き物になる、という事だという事を肝に銘じて置いてください。

さて、デグーの場合、その微生物が盲腸に居て、その消化を助けています。
(その発酵物を一度フンとして排出、それを食べて栄養とする)
が、どうもそれほどこの能力は高くないようで、
Fiber and digestion in the herbivorous rodent Octodon degus
によると、基本的にデグーは可能な限り繊維質の少ない食物を好む、とされます。
この辺りは実際に飼って見てもその通りです。
ウチのデグーも硬い牧草はほぼ食べず、柔らかい牧草以外は受け付けませんし、
それ以上に木の若い葉やキャベツを好みます。
人間でも食べれるキャベツの繊維質は極めて少なく2〜3%であり、
乾燥した牧草の25〜30%に比べると1/10ほどでしかありません。
それを連中は好むのです。
(水気の多い野菜を好まない個体もあるが日干しすれば食べる)

同論文によれば、デグー生息地の場合、
雨季の比較的新鮮な葉でも繊維質(NDF)は平均35%前後、
乾季の古い葉や枯草に至っては平均57%、約6割近くに達すると考えられるのだとか。
57%は無茶苦茶な数字で、これを食べざるを得ないデグーは
よほど追い込まれた状況にあると考えるべきでしょう。
ちなみに両者で得られるエネルギー量(カロリー)はほぼ同じなのですが、
繊維質が増えると消化に手間取り、デグーの内臓に負担もかかるようで、以下のようなデータが出ています。
ちなみにこれは8日間それぞれの繊維質を含む食事を与えた5匹のデグーにおける平均データです。
どうやってデータを得たかを考え、冥福を祈りたいと思います。

 繊維質 35%

 繊維質 57%

 盲腸内の残存物 1.04g

 盲腸内の残存物 2.69g

 胃の入り口(噴門)の酸性度 5.17pH

 胃の入り口(噴門)の酸性度 3.02pH


繊維質57%だと盲腸における微生物による分解が追い付かなくなり
その残存物がかなり多くなってるのがまず見て取れます。
これは消化吸収速度の低下に直結してくるはずで、デグーが高い繊維質を食べたがらない、
というのは胃がもたれる、的な感覚があるのかもしれません。
実際問題としても、同じ量の栄養を取るのにより多くの時間が必要となるので、
あまり有難い話ではないでしょう。

もう一つ、胃の酸性度も高くなってるのに注目です。
(pHは数字が大きい方が酸性度は低い)
デグーの胃の構造をよく知らないので断言はできませんが、
高い繊維質の食事が強い負担をかけてるのは、なんとなくうかがえます。

といった感じで、ここまでの話をざっとまとめると、

■デグーのエサは草だけでは十分でない可能性が高い。

■食物繊維が高すぎる食事はデグーにとっても負担になる。
デグー本人もそういった食事は好まない


といったあたりでしょうか。
ただし、だったら繊維質が低く、栄養のバランスも取れてる
ハムスター用のペレットを与えればいいのでは、
と考えてしまうのはやや早計です。
実際、連中はこれが大好きで、与えると大喜びしますが、
繊維質がほとんどない、というのもまた問題なのです。

デグーは盲腸に繊維質分解用の微生物を持つわけですが、
これは一定の繊維質を常に得ていないと大幅に減少します。
そうなってしまうと、腸内細菌の分解で得られていた栄養素、
おそらくアミノ酸などが十分に得られ無くなってしまいますから、死活問題になって来ます。
やはり食事の中に一定の繊維質は必要なのです。


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