■三菱 零式艦上戦闘機 52型(ゼロ戦) A6M5
Mitshubishi  reishiki kanjo sentoki  52kara
(A6M5, Type ZERO, ZERO Fighter, ZEKE)


第二次大戦期の日本を代表し、
そして象徴する海軍の戦闘機、それがこのゼロ戦でしょう。
日本の航空機の中で唯一、1万機を越える生産数を誇り、
開戦から終戦まで、常に日本海軍の主力機であり続けた機体です。



ワシントンD.C スミソニアン航空宇宙博物館 本館のゼロ戦 52型


ゼロ戦を1939年に初飛行した機体として見た場合、
当時の世界レベルに達していた、と考えるのには問題ないでしょう。

ただし、あくまで平均レベルまでであり、
世界のトップクラスには達していたと言えるのは
旋回半径の小ささと低高度での上昇力、加速性といった辺りだけでした。
上昇力、加速性は戦闘機の需要な要素ですが、ゼロ戦の場合、
高高度に行くほど、性能が落ちてしまうため、
実戦ではあまり誉められたレベルにありませんでした。

ついでに旋回半径は小さいだけではなく、
十分な運動エネルギー(速度)が維持できないとダメで、
軽量ではあるものの、エンジンパワーで劣るゼロ戦は
戦争が進むとこの点で一方的に不利となって行きます。
(旋回は膨大な運動エネルギー(速度)の消費を伴うので
エンジンパワーがなによりモノを言う)

さらに、よく長大と表現される航続距離ですが、
海上で遠くまで出かけて戦う海軍機なら当たり前のレベルでしかなく、
初期のゼロ戦のライバルといえるワイルドキャットのF4F-3でも
同じような航続距離を持っています。
さらには後期のゼロ戦、52型になってからは、
F6F、F4Uより航続距離で劣っていました。

ゼロ戦の欠点として、よく言われる防弾装備の無さですが、
実際は、それ以前の問題の方が多かったと言えます。
特に高高度性能の欠落は致命的で、アメリカの爆撃機、B29には全く歯がたたず、
さらには戦争後半から出てくるP-51、F6F、F4Uに完敗する要因となります。

もっとも、この欠点はエンジンとその過給器によるもので、
さらに突き詰めればガソリンの問題になるので
機体の欠点とは言えないかもしれません。

ゼロ戦の機体の欠点で特に悲惨だったのは、
ロール性能で(機体を横転させる速度)、
高速時にはイギリスのタイフーンと並んで世界最悪レベルでした。
左右方向に曲がる場合、必ずロールを打つ必要がありますから、
これが貧弱だと、得意の旋回に入るのに時間がかかってしまいます。

となるとゼロ戦の場合、ほとんどの米軍機より低速でしたから、
追撃時には相手に逃げられ、逆に追われてる状態では、
追いつかれてタコ殴りにされ、それを避けようと旋回に入るためロールを打っても、
そのロールの最中にタコ殴りにされます。

どうしたらいいですかね?と聞かれたら、
天に祈れ、と言う他ありません。

結局、この能力差を埋めるにはパイロットの技量に頼るしかなかったのです。
そして1942年の一連の空母決戦で、レベルの高いパイロットが消耗してしまうと、
後はもう、見るも無残な事になってゆく事になります。

ゼロ戦はF-4UやF-6F、そしてP-51Dといったアメリカの新型機にやられた、
というイメージを戦後に海軍の軍人さんが広めた形跡がありますが、
実際はそれ以前、1942年中に太平洋における
主要地域の航空優勢は奪われてしまっており、
これはF-4FとP-40、P-38といった旧世代の機体に
既に完敗していた事を意味します。

さらに追い討ちをかけるように、この機体、
というか日本軍の戦闘機は航空無線が使い物になりませんでした。
日米開戦が1941年、この段階で、
世界の空戦はチームプレイが大前提の時代となっており、
それには空中で指示を出し合う、
そして地上(母艦)からの警報や指令が受け取れる、
あるいは情報を要求できるという
言葉によるコミュニケーションが空気のように当然の前提条件でした。

が、日本には、これが無かったのです。
未だに信じられませんが(笑)、第二次大戦中、
日本は無線によるまともな連携なしで航空戦闘を行っています。
まあ、ムチャクチャです。

これはスパイク無しの裸足でワールドカップの予選を勝ち抜け、
あるいはグローブ無しで甲子園を目指せ、というくらい無謀な話でして、
ここまで来ると、航空機の能力以前に、
戦争やること事態に無理がある、という世界になってゆきます。

結論を言ってしまえば、ゼロ戦は当時の世界の戦闘機の中では、
ごく普通の戦闘機、極めて平凡な機体です。
それだけです。
失敗作でも欠陥機でもないですが、傑作機でもないでしょう。

まあ、客観的に見て、やはり偉大なる平凡、
というのがこの機体の正当な評価ではないでしょうか。


そして、ゼロ戦はその生産数から、当然のように現存機が多いのですが、
それでいて、まともな状態の機体がほとんど残ってないない、
という不思議な戦闘機でもあるのです。

私の知る限り、そして実際見てきた限り、
資料性がある、というレベルの現存機は
アメリカのスミソニアン航空宇宙博物館の52型と、
イギリスで胴体前部とエンジン部がバラバラに保存されてる52型だけです。

それ以外は、まあレプリカみたいなものと思っておいて問題ないでしょう。
なので、この記事ではその2機だけを紹介します。


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