お次は少し各部のアップを。
まずは機体前半。
ただし、ここの展示、後ろに回れないので、実は後半部の写真はありませぬ…。

DB600シリーズエンジン搭載機らしい、鼻が下に下がった機首で、
その下にラジエター類がまとめられ、
Me-109のB型あたりに似た構成になってます。

ここで気になるのは排気管の上で機首横に飛び出してる
エンジン吸気用の空気取入れ口、
すなわち過給器に繋がっている煙突状の構造です。

この部分、機首表面に貼り付いてしまってますが、
本来1400馬力級のエンジン用にキチンと吸気をやるなら、
大量の空気を取り込むため、流れの遅い機体表面の気流の境界層を避け、
その上に吸気口を突き出す必要があるはずです。



ドイツの液冷エンジン機によく見られる煙突式のこれですね。
写真のMe-109は防塵フィルターをつけた熱帯用の機体のため、
こんなに筒部分が長いのですが、通常はエンジン横からぴょこんと
短いキセルの首のようなパーツが飛び出してるだけです。

よって、水上機の晴嵐になあんな長い吸気口は要らないはずで、
恐らくこれ、可能な限り機首前方、つまり機体表面に境界層が発生する前の位置に
吸気口を持って行こうとした工夫のような感じがします。

これなら機体横に飛び出してない、
空気抵抗の低い吸気口でも済む可能性が高く、
多少は空気抵抗の削減に抵抗したのかもしれません。
が、どうも日本機によくある、手間隙の割には効果が薄い構造のような気も…。
まあ、キチンとデータを取ってみないと断言は出来ませんが。



機首横部のアップ。

コクピット後部の横からアンテナポールが飛び出してますが、
これの正体は不明。
コクピットの上まで張られたアンテナ線がさらにここまで伸びてるようでしたが、
他の機体ではあまり見ない装備ですね。

機体表面に細かい注意書きが見えてますが、当然、レストア時に書き込まれたもの。
暗い上に文字が小さくて読みづらいのですが、
ちょっと興味深かったのが主翼前の注意書き。
主翼の前に細長い二つの穴が開いてるのがわかるでしょうか。
これ、梯用の文字が書かれており、その右上には足掛、の文字もありますから、
整備あるいは出撃作業のとき、ここに作業用の梯子を引っ掛けたりしたんでしょうかね。

その細長い穴の二つの間にあるフタには
水並油 A接手なる不思議な日本語が書かれておりましたが、
意味はよく判りませぬ。

ちなみにこの機体はこちら側、左側の後ろから搭乗するのですが、
ゼロ戦にもあるような折りたたみ式の取っ手が2つ
機体の側面にあり、それを使って乗り込みます。



フロート部分。
赤い線はプロペラの回転位置で、
エンジン運転中にここに近づくと死ぬよ、という警告。

このフロートは飛行中に敵機に遭遇した場合など、
投棄が可能だったとする資料があり、
当時のパイロットもそういった証言をしてますが、
少なくともこの機体にはそういった装置は付いてなかったそうな。

晴嵐の場合、離陸は甲板上のカタパルトで強制射出でしたから、
これが必要なるのは帰還時のみでした。
つまり作戦行動中の99.9%において、
全くの無駄な重量、空気抵抗を抱えて行動してるわけで、
バカだね、と言えば、これほどバカな攻撃機もないでしょう。

その点は帝国海軍閣下もさすがに気が付いており、
どうせ奇襲しかできないんだから、ニ撃目はありえない、
だったら晴嵐を使い捨てにしてしまえばいい、と考えます。

つまりフロート無しで発艦させて、帰艦時は水上に不時着、
パイロットのみ回収、という運用です。
明確な資料は残ってませんが、当時の関係者の証言を見ると、
恐らく、これが通常の運用、という感じがあります。
実際、800kg爆弾、あるいは魚雷を積むと、
そもそもフロートは装着不能だったとされます。

が、単発プロペラ機において不時着水はかなり危険なもので、
機体がひっくり返ってしまう事も多く、
そんな簡単な話ではありませんでした。
さらに波の高い時などは、事実上の自殺行為となります。

だったら、どうせ死ぬ可能性が高いんだから目標に特攻して来い、
という思考が当時の軍令部にあったようで、
作戦運営がアホだと戦争もまともにできん、
というのをひしひしと感じます。

実際、晴嵐の最初の出撃は終戦により途中で中止になったため、
全搭乗員が生還してますが、伊400側の飛行隊長、
吉峰大尉の証言を読むと事実上の特攻作戦を強要されていた、
としており、なんともはや…。

人命も戦争資源というのは、戦争の冷たい現実で、
これが消費されるのは戦争の必然です。
仕方がありません。

が、それが許されるのはあくまで勝利の可能性がある時のみです。
戦争の敗北が確定的な中で、徒に人命を損耗する作戦は
もはや軍上層部の犯罪行為以外の何者でもありません。
それが単に軍のメンツのためなら尚更です。

当時の海軍作戦運営担当者に永遠の呪いあれ。


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