お次は下から見た機体全体。
結構ゴチャゴチャしています。
よく見ると水平尾翼の昇降舵(エレベータ)も尾翼の途中で終わってるのに注目。
これ、折りたたみの位置とは無関係に中途半端な長さになっております。
…なんで(笑)?

ついでに主翼後縁部のフラップ、前後2枚に分かれた
複雑な構造のものとなっており、なんでしょうね、これも。
当時の単発エンジンの機体ではあまり見た記憶がない構造で、
現代のジェット旅客機並の複雑な構造のフラップだったんでしょうか。
…重くなるぞ、それ。
そこから下に飛び出してる二本の棒も正体不明。

ついでに機首の横、排気管下にもカバーがあるのに注目。
他の機体ではあまり見ない構造で、着水時の水しぶきを嫌ったのかも。



少しアップで。
胴体横の主翼取り付け部にベルトのようなものが巻かれてますが、
あの部分から主翼を折りたためたので、何かその関係のものでしょうかね。
正面に金具があって、ここで取り外しできそうな感じですし。

ちなみに晴嵐の主翼は日本機には珍しい油圧折りたたみ機構ですが、
先に述べた吉峰大尉の証言によると、特に機体に油圧装置があるわけではなく、
伊400型潜水艦に備え付けられている高圧油弁から機内に油を入れ、
その圧力で主翼と尾翼を展開する、という構造だったようです。

どうもあくまで急いで出撃するためのものであり、
展開する事はできても折りたたみは人力だったような感じですね。
これで尾翼までも展開できた、との事なので、
やはり普通の油圧展開装置とは別物と考えるべきでしょう。

その左右の主翼の付け根部分に
四角い穴のあいた棒が下に飛び出してますが、
これが伊400型潜水艦甲板のカタパルトに機体を固定する部分。
穴の部分にカタパルトのツメを引っ掛けて打ち出されます。
カタパルト上には鉄パイプで組まれた、四角い箱のような台座があり、
そこに載せて打ち出していたようです。

機体下に出っぱてる黒い取手みたいのが武装の搭載装置で、
よく見ると中心からずれて機体右側に片寄っているのに注意してください。
手前のラジエター排気口(後述)との干渉を嫌ったものだと思われます。

ちなみに雷撃(魚雷)用と爆撃(爆弾)用で
この取付部の形状が異なるらしいのですが、
展示の機体がどちらのものかはよくわからず。
よく見るとその奥にベルトみたいな固定具も見えてます。

その手前、胴体下に飛び出してる左右の板状のものは、
冷却用空気を抜く穴のフタで、おそらく小さい左がオイルクーラー、
大きな右がラジエターのもの。
必要に応じて(高度によって気温が変わるので)
このフタの開閉の大きさは調整きるようになっています。



機首下の冷却関係の空気取入れ口部分。
おそらく上がラジエターで、下がオイルクーラーでしょう。

とりあえず、ここでラジエータとオイルクーラーを冷却、
その結果加熱された空気は
先に説明した、後ろで機首下にフタが開いてる排気口から出てゆきます。

が、ご覧のようにラジエータ部は胴体に貼り付いた状態で口が開いており、
これだと機体表面の気流の境界層、
つまり流れの弱い部分ど真ん中に位置してます。
この取入れ口、機首といってもかなり後方の位置なので、
境界層の影響は、あったと思われるんですが…。

ただでさえ一基しかないラジエターで冷却足りてるのかな、
という部分なのに、大丈夫だったんですかね、これ。

一部では晴嵐、殺人機(当然、パイロットの)と呼ばれてたそうですから、
相当、機体に問題はあったはずですが。



大馬力液冷エンジンでラジエターは一基、そしてオイルクーラーも同じ場所に入ってる、
となるとアメリカの傑作戦闘機、P-51も実は全く同様だったりします。
下にオイルクーラー、上にラジエターという構造も一緒。
ただし、こちらは位置が胴体のもっと後ろですが。

そして両者の最大の違いは、気流の特性に配慮して
効率よく冷却できるように設計されたP-51と
何も考えてないように見える晴嵐、というところでしょうか(笑)。

写真はP-51Dの冷却装置部ですが、機体表面の境界層の気流を避け、
より速い気流を取り込めるよう下に飛び出しており、
この点、基本的な設計思想は後のF-16の空気取入れ口と同じです。

さらに取り入れ口を小さくし、その後からダクトを少しずつ太くする事で、
流速を落として空気の圧力を上げ、キチンとラジエターとオイルクーラーに
まんべんなく冷却用の空気が当たる様、工夫されています(ベルヌーイの定理)。
さらに後部へ暖められた空気抜く構造にも工夫があり、
これだけやって初めて単発のラジエターで十分な冷却を可能にしたわけです。

対して晴嵐は…まあ、各自が自分の目で確かめてください(笑)。



ちょっと斜め前から。
機首下に出っぱている先端が黄色の棒はラジエター関連の弁でしょうかね。

ラジエター、オイルクーラーの空気抜き部分の開口部が良くわかるほか、
例のカタパルトに引っ掛ける部分が斜めになってるのも見て置いてください。


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