■何が起きていたのかわからぬが

まず、この二枚の写真を見てください。

 
■Photo NASA

 
■Photo US Air force / US Airforce museum

上の写真はすでに何度も掲載してるP-51Bの生産型1号機、すなわち生産型の先行試作機の2093号機で、
例のラジエターのアルミ腐食でシュムードを慌てさせた機体、下は普通のD型です。

はい、両者のダクト部を見て、一発で気が付きますね。
形が違うのです。
P-51B型生産1号機のダクトは、開口部が垂直で斜めになってません。
さらに開口部の前方への延長も行われてないのです。

先にも書いたように、生産用の先行試作型が飛行試験に入った段階では、
すでに量産機の生産準備が始まって、生産ラインに乗ってました。

すなわち、空気取り入れ口形状の修正が、
B型の生産開始までに間に合って無かった、という証拠写真なのです。
この点を指摘するのは、おそらく世界初かもしれません(笑)。


■Photo NASA

この写真はその後、NACAのラングレー研究所でB型をテストした時の写真。
こちらは量産12号機です。
この機体では完成型のダクトになってるのを見てください。
シュムードの証言が正しいなら、先行試作1号機が飛んだ時、12号機はすでに生産ラインに乗ってたはずです。
となると、この機体も修正は間に合ってなかったはず。

で、この写真をよく見ると、ダクト周辺部にテープが貼ってありますが、
これは接合部を埋めてその抵抗を無視できるようにするためのモノです。

ところがこの部分をよく見ると、ダクト前方の開口部は別パーツとして取り付けられるように見え、
どうも既に完成した機体に追加パーツとして後付したんじゃないかと思われます。
(航空機では後付けを英語のRetor fit 、レトロフィットとカタカナ表記してる人が多いが、日本語で十分だろうに)
こういった後付け修正はP-51には多く、次回見る事になる背びれもまた同じような対応になってました。
(背びれ/Dorsal fin ドーサル フィン。これも翻訳もせずにカタカナ英語で書いてある日本語資料の実に多いこと…)

といったドタバタがありながらも、冷却部の大型化と振動対策は半年以上かけてようやく解決、
マーリンムスタングの量産は本格的に始まる事になるのです。



ついでに上の写真とこの写真は、ラングレーの低速大型風洞で1943年に行われたテストのもの。
これは当時のアメリカ機を片っ端から風洞でテストして、NACAから高速化と空気抵抗の削減のアドヴァイスを与える、
という計画の中で、P-51Bの試験が行われた時の写真です。

ちなみにP-51Bは23番目に試験された機体で、この計画が適用された最後の機体でもありました。
テストされた機体の中では22番目に低い抗力係数(CD)0.0208となっており、
シュムードの設計方針が正しかったことを示して居ます。
でもって最も抗力係数が低かったのは、意外やあのカーチスの採用されなかった試作機、XP-46で、
その値は0.0201で、ごくわずかながらもP-51Bを下回ってました。
…いや、ホント意外なんですけど、この数字(笑)。カーチス、思った以上にやるな、という感じですね。

ちなみに同計画でテストされたF4U-1は0.0284、F6Fが0.0293ですから、36%以上抵抗が大きい事になります。
この辺りが2000馬力級エンジンを積みながら、最高速度がイマイチ伸びなかった原因の一つかもしれませぬ。
F4Uとかはかなり空力に気を使って設計してるので、この数字は少し意外でもありますが…。


NEXT