■メアディス効果はどうデス 本人はソ連のスパイです(笑)


さて今回の記事の最後に、以前に検討したラジエターから生じる出力、
メアディス効果の再考を載せて置きます。

あの記事を掲載した後、さる筋から、メアディス(F.W.Meredith )によるRAEのレポート、
(RAE/Royal Aircraft Establishment/王立航空製作所)
1935年8月提出のReport and memoranda No.1683 はネットでも読めるよ、
という指摘をもらいました。

「そういう事は先に言え、このボケ(要約)」
と丁寧にお礼のメールを送ったところ、
「お前が何を書くかなんて知るか、この馬鹿(要約)」
と実に論理的で真心がこもった返事をいただきました。

これだけ論理的な反論ができる人間からの指摘なら信用してよかろう、
という事で、このレポートを改めて読んでみた所、思ってたのと全く違う(笑)理論で、
どうもこれは、ちゃんと説明しなおした方がいいな、という事でこの記事を書いてます。

最初に断っておくと、高速飛行時にムスタングのラジエターから生じる推力は、
あくまで抵抗力を減少させる程度のものであり、機体全体の推力が増える、という話ではありません。
前回の計算の前提、高度6000m、飛行速度時速680qでこの辺りを確認して置きましょう。
空気取り入れ口から取り込まれる気流が持ってるエネルギー、
つまり最初のエネルギーの量は、以下の計算で求められます。
(空気取り入れ口の大きさはマーリンムスタングのもの、約80p×25pで計算。
高度6000mでの大気密度は理科年表から0.66kg/mmmとする)

1/2×0.66kg/mmm×0.8m×0.25m×188.88m×188.8m/s×188.88m/s= 444170.7kg m/ss

対して、後部排気口から出る気流の持つエネルギーは、前回の計算が正しいとすると(笑)、

1/2×0.44kg/mmm×0.8m×0.1m× 280m×280m/s×280m/s= 386355.2kg m/ss

となり、最初に気流が持ってたエネルギー量から減少してる事が確認できます。
この減ったエネルギーのほとんどがラジエターとの衝突で力に変換され、
機体を進行方向とは別の向きに押す抵抗力になってると思ってください。

ただし、この数字だとエネルギーの内、ラジエター通過で失われたのは13.1%のみで、
いくらなんでも効率が良すぎる気がしますね(笑)。
一部は推測の数字を使ってるので、その辺りの影響かもしれません。
実際は、もう少し効率悪いような気がします。
(排気口はもうちょっと狭い、そして大気密度はもうちょっと低い可能性がある)
とりあえず、ラジエターの熱などのエネルギーが加わって、推力が追加されてるわけでは無い、
あくまで気流に残った運動エネルギーを効率よく使って推力とし、
抵抗力を減らしてるだけなのに注意してください。

この辺り、前回の記事ではちょっと説明不足だったかもしれませんが、
抵抗力を上回る推力が生じて、機体全体の推力が上がってるわけではないのです。
つまり、ラジエターで生じる抵抗力で100の力が削られてしまうはずだったのに、
その排気を有効に推力として利用することで、これを40くらいに抑えた、という話です。
ジェットエンジンのような、新たな推力発生装置となってるわけではありませぬから、要注意。




こういった感じで、ムスタングの冷却装置回り、
特にラジエターはその後方のダクトが細く絞り込まれているので、
排出の際、例の流体の質量保存の法則によって、加速されます。
(高速飛行で、前方から常に強く押し出す力が働いてるのが前提条件)
これはホースで水まきをする時、速く、遠くまで水を飛ばすのに、
先端を指でつまんで細くするのと同じ事です。

密度×流速×通過する断面積=一定

から、ダクトの太さが一気に絞り込まれ断面積が減少する事によって加速が生じ、
ラジエターを出た後の流体の持つ運動エネルギーを上げてる、という事ですね。
(これは静圧が動圧に変っただけなのに注意。
力がエネルギーと等価である流体ならではのエネルギー変換現象で、
どこからか新たなエネルギーが沸いて出たわけでは無い)

排気の持つ運動エネルギーは以下の式で見るように流速が上がるとそれに2乗で比例して大きくなります。
それを単位時間、1秒間あたりの移動距離で割ると推力が出ます。
(力=エネルギー/移動距離)

1/2×質量(m)×流速(v)×流速(v)=運動エネルギー

つまりダクトを細める事で、2乗で効いて来る速度を上げて効率よく運動エネルギーとしてます。
運動エネルギーが発生させる力は、

運動エネルギー÷単位時間内の移動距離(流速/1秒)=生じる力

なので、実は流速が遅い方が力は大きいのですが、
この点は2乗で運動エネルギーを大きくする流速を増やす方向で推力を稼いでます。
(正確には排気の持つ力に対する反作用の力で機体を推す)
これは高速時には約1300N(132.5s)を超える推力となる、という話でした。

このように、前回の考察ではラジエターの熱は、検討対象になってません。
上で見たように、取り入れた気流のエネルギーは排出時には減少してるのですから、
多少のエネルギーの追加があったところでその影響は無かったようなもので、無視して問題ないのです。
そもそも熱エネルギーを運動エネルギーに変換するのは困難で、
この場合、せいぜいラジエター熱で大気の体積が約1.4倍に膨張する、といっただけです。
これは静圧の上昇を意味しますが、その程度の膨張では、とても推力にはなりません。

ところが、問題のメアディスのレポートを読んでみたら、ラジエターが主役なのでした、メアディス効果…
えええええええー…マジで?じゃあ、話は違うよ。

メアディスのレポートの正式な名称は
“NOTE ON THE COOLING OF AIRCRAFT ENGINES
WITH SPECIAL REFERENCE TO ETHYLENE GLYCOL RADIATORS ENCLOSED IN DUCTS”
すなわち
「内蔵式エチレングリコール ラジエターを持つ航空機とエンジン冷却の特別な関係に対する注目点」
といった、判ったような、よく判らんようなタイトルとなってます。

レポートの序文を要約すると、
“ダクト内で低速気流にさらされる正しく設計された冷却装置なら、
速度の上昇にともなって増大する、冷却装置周りのエネルギー損失を発生させない、
それどころか損失を無くしてしまえるし、推力として活用すらできる。
このレポートはそれを示すのが目的である”
となっており、ええ、それは興味深い、という話になってます。

ところが、その直後から始まる理論解説でいきなり、次のように書かれてるのです。

The radiator considered as an actuator disc.
(ラジエターを作動板としてみなす)

そして、以後の展開もこの前提の基に進みます。
…ちょっと待て(笑)。それって運動量理論(Momentum theory)を適用するって事だよね?
運動量理論は流体の流れの中に、プロペラなどの推進装置を置いた場合の気流の流れを
数学的に解析する理論で、ここではプロペラなどを一種の板、作動板(actuator disc)として
仮定することで単純化し、計算を楽にしてるのです。

が、それはあくまで計算用の単純化されたモデルとして板として考える、という話で、
当たり前ですが、ただの板がプロペラのような推力を生じる、という話ではありませぬ。
が、メアディスの理論では、タダの板であるラジエターが推力を生んでる事になってます。
そして、私が理解できた範囲内では最後まで、なぜラジエターを
推力装置として考えられるのか、理論的な説明も、実例の紹介もありません。
つまりメアディスさんが、ラジエターは推力発生機関だよ、といきなり言い出して、
以後、その証明も無しに、その説明だけが続くのです。

どうも彼はラジエターの持つ熱エネルギーをその理由にしようとしてるのですが、
せいぜい摂氏200度程度の表面の熱で、航空機の推力となるような運動エネルギーを得ることは、
私が知る限り、人類60万3584年の歴史の中で、成功した事はありませぬ。

さらに言うなら、以後、ラジエターが発生させる推力の話は、
馬力の単位、次元で進んでゆくのです…。
夕撃旅団では何度も書いてるように、馬力は力ではありません。
それは仕事の速度、つまり仕事をする「能力」を示すものです。

例えばここに10s m/ssの力を発生させる装置があったとします。
その力を1秒で発生させる事が出来るなら、それは10s m/sssの馬力、
私の大嫌いなSI単位で言えば、10W(ワット)の馬力を意味します。
対して、この力を10秒間かけてゆっくり使えば、それは10kg/mss÷10s=1kg m/sss
で、より小さな馬力となり、すなわち仕事の速度が遅い事になります。
つまり、数字が大きいほど、速く仕事ができるわけで、
同じ「出力」のエンジンなら、「馬力」が高い方が仕事の速度が速い、つまり高速を出せます。
自動車などで馬力表示が多いのはこのためです。

つまり、馬力は推力のような、純粋な「力」ではありません。
馬力とは、力をどれだけの速度で消費したか、
すなわちどれだけ高速にエネルギーを消費して仕事をするかの
「能力」の指標であり、力そのものでは無いのです。
(仕事=エネルギーである。よって高馬力は燃費が悪くなるのが必然)

それらは最初に「力」があっての話ですから、先に馬力だけ示されても、
そこからどれだけの推力が得られるのか、さっぱりわからんのです。
この辺り、日本語だとどちらも「力」で混乱しやすいのですが、
英語ではForce(力) と Power(能力)であり、明確に違うモノなんですけども。

正直、どうにも理解しがたい、という理論です。
もちろん、私の理解力、知識の不足の可能性は否定できませんが、
一定の力学、最低限の流体力学の知識から判断する限り、
これは力学では無く、純粋な数学的な数字遊びです。
実際、出て来る数式に破綻は無く、展開そのものは間違ってません。
ただその計算の前提条件に対する証明が一切されてないのです。

いや、しかし仮にも王立航空製作所(RAE)の公式文書だよなあ、
どういった人物なんだ、と思ってメアディスについて調べてみた所、
1932年から1938年ごろまでRAEに居て、以後、イギリスの民間企業、スミス(Smiths)社
に入社した技術者だった、としか判りませんでした。
才能豊かな人物ではあったようで、戦後の同社で航空機の完全自動操縦装置とか造ってたとか。

ただしメアディスは1920年代から共産党のシンパで、第二次大戦前後のイギリスに掃いて捨てるほどいた
ソ連のスパイの一人でもあったようです(笑)。
イギリス保安局、MI 5もずっと目を付けていたそうで、
1949年にはその尋問を受けて、軍事機密をソ連に流してたことを認めてます。
MI5は調査だけで逮捕権はないので、その後、どうなったか判らんのですが、
どうもスミス社で技術者を続けていたみたいですね。
ちなみに、この辺りの指摘も、たぶん、世界初じゃないかなあ。
とりあえず、よくわからん人物ではあるな。

ついでにノースアメリカン社の関係者は、戦後、自慢げにメアディス効果を連呼してますが、
おそらくソ連のスパイとは知らなかったんじゃないかなあ。
そもそも“冷却装置による推進力”という部分に飛びついてしまったもので、
実は、その内容をキチンと理解してなかったんじゃないかなあ…

というわけで、“夕撃旅団としての結論”は以下のようになります。

■ムスタングの冷却部は後部からの排気による一定の推力を得ている。
ただしそれは取り入れた気流の残存エネルギーを有効利用したもので、
抵抗力を減らす程度の推力に過ぎず、従来のプロペラ推力にさらなる推力を加えるものでは無い。

■その推力の発生はメアディスが主張するようなラジエターによるものでは無い。


ですね。
といった感じで今回はここまで。

…ああ、パトラッシュ、聞こえてきたよ、最終回の足音が。


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