■軽量化世代その2

さて、そんなわけで軽量化ムスタングの話の続きです。
大戦には間に合わなかったし、軽量型のP-51としては
結局H型が550機前後造られただけで終わったのに、
意外にややこしいのがこの新世代ムスタングなのです。

特にその派生型ともいえる双胴のアレことP-82ツインムスタングの存在が
より話をややこしくしています(笑)。

ここでその辺りの流れを図で確認。



まず最初の試作機F型があり、さらにエンジン強化版、
2000馬力マーリン搭載のG型が造られたものの、
結局エンジンそのものが生産中止になってしまい、開発は中断となります。
なので最初のF型から直接、量産型のP-51Hへと発展する事になるわけです。
ここら辺りまでは前回、既に見た内容となりますが、ざっと再確認。



■Photo US Air force / US Airforce museum

まず最初の試験機、XP-51F。
P-51Dの量産開始とほぼ同じ時期、1944年の2月14日に初飛行してます。
マーリンムスタングでは唯一、3枚プロペラで、この写真では判りにくいですが、
主翼の武装も12.7o機関銃 片側2門、計4門に減らされてます。

…と書いておいてなんですが、どうも残されてる写真を見る限り、
イギリスに送られた3号機以外、主翼内の機関銃が確認できないんですよね。

もしかすると、最初の機体には一切武装は積まれて無く、
データも全てその機体で取った、それゆえに軽かった、
とういう可能性もゼロでは無いです。
とりあえずデータ上では約3.33tとD型に比べて約1t 近く軽く、
最も軽かったP-51となってます。

例によって写真が小さいのは流用を許可してるアメリカ空軍博物館が、
このサイズしか公開してないので…。



■Photo US Air force / US Airforce museum

設計の責任者、シュムードはこちらが本命と考えたフシがある
2000馬力マーリンエンジン、RM.14.SM (マーリン145)を搭載したXP-51G。
この角度から見ると、もうP-51Dとは別物、というのが見て取れるかと。

とりあえず、G型は5枚プロペラなので、他の型との識別は容易です。
おそらく木製プロペラですが、初飛行の段階では従来の4枚(金属製?)プロペラで、
5回目辺りの試験飛行から、この状態になったとされます。

最大速度は時速498マイル(約801q/h)と、
680q/h前後だったP-51Dに比べ約120km/h速く、
(公式記録では無く、シュムードの回想による。公式記録は時速492マイル、約791.8km/h)
高度20000フィート(約6096m)までの到達所要時間も3.85分で、
これはD型の6.4分に比べ3.55分も早くなってます。
ちなみにこれは加速力お化けのスピットのMk.IX(9)の4.75分よりずっと速いのです。

当然、あらゆるドイツ、日本のレシプロエンジン(プロペラ推進)戦闘機より高速、
かつ上昇力がありました。上昇力に関してはジェット機を含めても大戦時の世界最強でしょう。
(ちなみに日本機最強の上昇力を持つのは恐らく二式戦 鐘馗で、5.5分)
まさに最強戦闘機、といっていい性能で、大戦中に開発されたレシプロ戦闘機としては
おそらく最高性能を誇っていた機体だと思われます。

ただし、この機体も、どうも主翼内の武装が確認できませぬが…。

これが量産に持ち込まれていれば、新たな伝説になったんでしょうが、
先にも書いたように、その強さの秘密であるマーリンエンジン、
RM.14.SM (マーリン145)が技術的な問題から生産中止になってしまったため、
試作機2機だけで終わったのです。



■Photo US Air force / US Airforce museum

でもって、これが量産型のP-51Hで、プロペラが4枚に戻ってるのが識別点。
ただし軽量型と言っても、前回書いたように、一気にリバウンドして(笑)、
P-51Dとせいぜい100kgくらいしか
かわらない重量になってしまってるのですが…。

このため最高速度こそ80q/hほど上がったものの、
本来の目的だった加速力、上昇力の向上に失敗しております。
高度20000フィート(約6096m)までの到達所要時間6.37分で、
これはD型の6.4分とほぼ一緒です。

全体的にボテっとして印象ですが、空力的にはより洗練されており、
エンジン出力の向上とあわせ、最高速度の向上に貢献してます。

ちなみ写真が小さくて判りにくいですが、プロペラ下の
エンジン過給機用空気取り入れ口の形が、
D型とはかなり変わってるのも見て置いてください。
ついでに、これまたこの写真では判りにくいですが、試作型に比べ、
コクピットを覆うキャノピー(天蓋)がずっと小さくなってます。
D型と同じものに戻したのか?とも思いますが、詳細は不明。


で、この量産型のH型によって、軽量型ムスタングの開発は一段落するのですが、
その後、異端児ともいえる最後の軽量化ムスタング、
アリソンエンジン搭載のXP-51Jが登場します。



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