■メッサーシュミットMe262
Messerschmitt Me262 



世界初の実用ジェット戦闘機&爆撃機としてあまりに有名な機体。

ジェット戦闘機として最初に実戦投入されたのはよく知られてますが、
実はジェット“爆撃機”としても世界初の実戦投入が行われた機体です。
同じドイツのジェット爆撃機、Ar-234の最初の爆撃作戦投入が
1944年12月24日のクリスマスイブだったの対し、
少なくとも1944年の8月からMe262は爆撃任務を行ってます。
歴史的な機体、と言っていいでしょうね。

ただし、ジェット機だから当時最高の性能を持っていたとは言い切れない、
という点は後で見て行くことになります。

で、この機体、終戦時に連合軍の皆さんが見たい、知りたい、触りたい機体候補No.1だったんで、
戦後、連合国側に持ち帰れられた機体も数多く、
アメリカを中心に結構な数が生き残ってる、という特徴もあります。
(スクラップからの再生とかではない、一定の状態で保存された機体が最低でも8機はある)
同じ双発戦闘機(レシプロエンジンだが)で戦中に大量生産されたMe110なんて
イギリスに1機しか現存機が無いことを考えると、よく残ってるな、という印象です。
(ドイツで展示されてるMe110は墜落機を50年後に回収して修復したもので現存機とは言い難い)

ただし、珍しすぎて(笑)皆さんがいじり回してしまってるため、
オリジナルの状態を維持してる機体が意外に少ない、という面もあります。
私は現存機を3機を見てますが、どれもその資料的価値は微妙、というのが正直な感想でした。
まあ、それでも全体的な雰囲気を見ることはできるので、
ここでは状態は悪いけど(笑)、色んな角度から見れたロンドンのRAF博物館の機体、
そして私が見た中ではベストな状態だけど、
やけに写真が撮り難いスミソニアンの機体を中心に紹介しましょう。



■ロンドンRAF博物館の機体


Me262、世界初の実用ジェット戦闘機なのは確かですが、
1942年7月にジェットエンジンによる初飛行をしておきながら、
エンジンの生産が遅れ、さらにヒットラーから散々横槍が入った結果、
開発と運用の迷走で実戦配備が遅れたのはあまりに有名です。
この遅れのため、実は後から開発がスタートしてた
イギリスのジェット戦闘機ミーティアもほぼ同じ時期に実戦配備についてます。

ハイオクガソリンが開発できず、その結果生じる過給器の限界から
高高度戦闘機を持たなかったドイツにとって
待ちに待った高高度戦闘機、という面を持っていたのがMe262でもあります。
ジェットエンジンなら、ピストンとシリンダーによる圧縮ではないため、ノッキングの心配は無く、
従来の燃料どころか灯油のような燃料でも高高度まで飛行できてしまうわけです。
この機体により、ドイツ空軍はようやく8000m超える高度で飛んでくる、
連合軍の高高度爆撃機にまともに対抗できるようになります。

ちなみに戦後のイギリス空軍のテストでは(RAE Tec 1945年10月)
それぞれの設定高度で以下の数字を出しています。
(簡易グラフから読み取ってるので2%前後の誤差はあり)
まずは最高速度。

高度20000〜25000フィート(6100〜7620m) 時速約535マイル(860km/h)

なるほどMe262は確かに高速で、
これは連合軍の戦闘機ではほぼ太刀打ちできません。
テストのグラフを見ると高度10000フィート(3048m)で、
既に時速520マイル(約837km)を超えて来ますから、
最高速度で飛行するMe262に追いつける機体はないでしょう。

さらにアメリカ陸軍が戦後作成した鹵獲機飛行マニュアルを見ると、
普通に飛んでる巡航速度でも750km/hになるとのこと。
これは連合国側のほとんどの戦闘機が最高速度だしても、
巡航中のMe262に追いつくのがやっと、下手をすると追いつけない、
という事を意味します。

さすがはジェット戦闘機だ、というところでしょう。
ただし、あくまで“最高速度に達した後は”という条件で、ですが(笑)…

実際、それ以外の面に目を向けるとMe262はいろいろ微妙で(笑)、
例えば同じテストデータで上昇力を見ると

高度15000フィート(4572m) 2000フィート(約610m)/分
高度10000フィート(3048m) 2400フィート(約732m)/分

対してマーリンエンジン搭載のP-51Bが

高度15000フィート(4572m) 3480フィート(約1060m)/分
高度10000フィート(3048m) 3540フィート(約1079m)/分

**(過給器のギア(speed)はどちらの高度も1速(Low blower)による。
マーリンの2速スーパーチャージャーは通常12000フィート前後でギアが替わるが、
ここでは判りやすいように1速で統一した)


…Me262の完敗ですね。
さらに連合国側でもっとも上昇力が鈍いP-47D(-10)でも、

高度15000フィート(4572m) 2460フィート(約750m)/分
高度10000フィート(3048m) 2680フィート(約817m)/分


という感じですから、もはやMe262はこれにさえ適いません。
おそらく当時の連合国側の主要戦闘機でなら、上昇力で全てMe-262を上回り
上昇力と強い関連性を持つ加速性能でも似たような結果になるはずです。

さらにエンジンが主翼の下にぶら下がってるんですから、ロール速度も遅く、
あまりキビキビした運動性は期待できませぬ。
つまり、どう見ても格闘戦には向いてません。

さらにMe262の場合、エンジンの反応が悪く、スロットルを入れてから
実際に加速するまで、かなりの間があったとされてます。
そもそも急激なスロット操作をするとエンジンが止まってしまうそうで、
(燃料にキャビテーション(沸騰気泡)が発生、そこで燃料供給が途切れてエンジンが止まる)
鹵獲して調査したアメリカ陸軍の飛行マニュアルにはスロットルの操作について
クドイくらいSLOWLY(ゆっくりと)の文字が出てきます…。

なので、どんなに速いとはいえ、その速度に達するまでの時間が長いのです。
当然、その間ならP-51、P-38、モスキートといった
はるかに加速がよく、最高速も700km/h近くまで出る戦闘機で、
十分対抗できてしまいます。

こうなると最高速を生かしての一撃離脱のみ、しかも上昇反転禁止で、
ひたすら急降下で逃げる、という戦法しかありませぬ。
それでもある程度は戦えたでしょうが、ジェット機だから無敵である、
といったような印象とはまるで異なり、速いだけの戦闘機だ、という事になるのです。

この辺りはMe262が重過ぎる、といのうが原因でしょう。
上のイギリスの試験飛行では銃弾抜きの飛行状態で14730ポンド=約6.68トンにもなります。
銃弾積んでる状態でもP-51Bは4.17トン前後、P-47でも6.57トンですから、
なんぼジェットエンジン搭載とはいえ、やはりMe-262は重すぎでしょう。
重くて加速が悪い、という段階で当ホームページの読者の皆さんは
ああ、エネルギー機動理論的にペケだ、というのが判るかと。
これは誘導兵器がなく、機関砲ぐらいしか対戦闘機兵器がない機体には致命的です。

なのでMe262、少なくとも戦闘機同士の格闘戦には向いておらず、
当時の連合軍のレシプロ戦闘機に対して、決して優位な立場ではありませぬ。
実際、中将のまま戦闘機パイロットとして出撃していたドイツの伊達男、
戦う将軍ことガランド閣下も最後はP-51に上から被られてやられてますし。
(墜落しないで基地までたどり着いて不時着したので撃墜じゃないと本人は強調してるが(笑)…)

実際、連合国側もそこまでMe-262を脅威と考えていたフシがありませぬ。
当時の連合軍側パイロットの手記を見ても、特に恐怖を感じていたようには見えません。

またアメリカは終戦直前、まだ試験段階だった
ジェット戦闘機F-80をイタリア戦線に送り込んでますが、
これは高速偵察と爆撃で連合軍を悩ましてたAr-234対策だと言われてますし、
同じくイギリスのジェット戦闘機、ミーティアもMe262対策に投じられる事はありませんでした。
まあ、F-80もミーティアもまだまだいろいろ問題抱えていた、という部分が大きいのですが(笑)。

ただし、こういった欠点は、低速で派手な機動なんてしない戦略爆撃機相手なら
全て無視できましたから、この場合は機首に30mm機関砲4門、
さらにはロケット弾まで積んでた高速機は相当、恐ろしい存在だったと思われます。
やはりMe262は対戦略爆撃機用の高高度迎撃戦闘機、というのが正当な評価でしょうね。



Me262は1944年7月から実戦投入され、1400機以上造られたという記録があるため、
戦争末期に間に合ったジェット機という印象があるのですが、
実際には大戦中、前線部隊で大量に集中運用された事がありませぬ。

ここら辺りは、ドイツ空軍補給部が戦時中10日ごとに集計していた
各部隊におけるMe262の部隊配備数の記録を見るとよくわかります。

1945年1月10日
全配備機数 57機 稼動機数 39機 稼働率 68.4%

1945年4月9日
全配備機数 180機 稼動機数 112機 稼働率 62.2%

となっており、普通に数百機単位で爆撃機を飛ばして来る連合軍相手に、
敗戦一ヶ月前の1945年4月でもようやく戦力になるか、という数しか揃ってないのです。

(ただし4月の総数では、空とぶヒゲことガランド閣下率いる、あの第44戦闘団が
なせかキチンと機数を申告しておらず、推定で30機保有とされてる。
が、ガランドの手記を読むと、連中は最終的に
あちこりから掻き集めて70機近く保有した、と書いてあり、
ここら辺りの入手経路不明な機体を誤魔化すために申告しなかったのか?
よって少なくともあと30機か40機は上の数字より多い可能性はあり。
それでも微々たる差だが…)

ここら辺り、1400機も造ったのに?
と思ってしまうところですが、ガランドの手記を読むと、
完成機の多くが連合軍の戦略爆撃で工場に置かれたまま破壊されたそうで、
さらに配備された後も、当初は事故で失われる機体が少なくなかったのだとか。

もうちょっと脱線すると、よく知られているようにドイツの軍用機生産のピークは
終戦前年の1944年で、この年に戦争全期間を通して最大の生産数を記録してます。
が、これ怪しいんですよ、どうも(笑)。

例えば連合軍がまとめた戦略爆撃レポートに出てくる数字だと、
1942年のドイツにおける総生産数(空軍への納品数)は全軍用機で15596機、
対してピークの1944年はなんと軽く倍以上の39807機。
ドイツすげー、シュペーア万歳と思っちゃいますが、実際の配備機数を先の補給部隊の集計で見ると、
1942年7月のドイツ空軍各部隊における全保有機数は3500機。
対して1945年1月の全保有機数は4566機。
倍どころかようやく1.3倍がいいところです。

そもそも1944年を通じて39807機造られたはずなのに、
その年明けに空軍が保有していたのは4566機に過ぎません。
なんで(笑)…?
毎日100機ずつ撃墜されないと、とても数があわないんですが…。
そこまでヘタレか、ドイツ空軍。

この点は連合軍も不思議に思ったようで、戦略爆撃調査団が
終戦間際から関係者に徹底的にインタビューしてるんですが、
ドイツ空軍の将軍クラスの皆さんも、とにかく飛行機が無かった、
という話ばかりで、どうしてこんな差がついてしまったのかは全くわからないそうな。
なので、どうも生産機数の申告に水増しがあるのではないか、と疑ってますね。
(ただしガランドの手記で、一時的に戦闘機の生産が増えた、配備が良くなった、
という記述もあるので、倍とはいかなくても、一定の増産には成功していたと思われます)

とりあえず、ここら辺りを合わせて考えると、実戦部隊で戦闘に投入されたのは
全生産数の半分以下、よくて600機程度ではないか、という気もします。

余談ですがMe262の生産については、カーラ(Kahla)複合工場計画というのがありました。
これは陶器用粘土を採取していた山を丸ごとMe262の工場にしちゃえ、というシロモノです。
粘土を採取していた複数のトンネルを工場にして爆撃に対抗、
さらにテーブル型の頂上が平らな山だったため、ここに滑走路まで作ってしまう、
という夢の秘密工場基地のような計画でした。

ちなみに山頂の滑走路へは専用登山鉄道(?)で運搬され、
4000フィート、約1219mの滑走路から補助ロケットで強制離陸させるつもりだったそうな。
ちなみに4000フィートあればMe262は離陸可能、というデータを見かけますが、
戦後のアメリカ軍のテストによると、武装なし、燃料少なめでも
舗装滑走路で最大4350フィート、草地の場合は5250フィートは見ておけ、とされてます。
(風向き、気温(ジェットエンジンの出力に影響)が最悪の想定の場合)
舗装滑走路とはいえ4000フィートはぎりぎりで、ゆえにロケット補助を使う気だったのでしょう。

で、結局、工場が本格稼動する前に戦争は終わってしまったのですが、
なんともドイツらしい計画です。

ちなみに、戦争末期に生き残っていたスーパーエースパイロットをかき集めて、
ルフトバッフェ(ドイツ空軍)の伊達男、戦う将軍ガランド閣下が結成したチョー秘密戦隊「JV44」、
すなわち第44戦闘団が主力戦闘機として採用したのも、このMe262でありました。
(他にも基地防衛用にFw190-Dが配備されていた)

Jv-44では100機以上撃墜スコアを持ったパイロットだけでも、
ガーランド本人、バルクホルン(総スコア300機超…)、シュタインホフ、リュッツオウ、と4名おり、
さらに騎士鉄十字勲章(最低でも30機以上、この時期なら50機以上撃墜)保持者はザラに居たとされます。
(途中から200機以上撃墜のオスカー・ハインリヒ・ベールも加わり、ガランド負傷後、隊長に)

ただし、その結成は1945年3月。
終戦まであと2ヶ月、もはや全員がドイツの勝利などは信じておらず、
ほとんど意地で戦っていたような部隊でした。
最終的に上記のスーパーエース4名も全員戦闘で傷つき、戦線を離脱して終戦を迎える事に。
(リュッツオウが戦死。他は負傷。ベールは最後まで無事だったらしい)
ここら辺り、ガランドはただの将軍ではないなあ、と思ったりするところだったりもします。


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