■レーダーで原稿書きを3倍楽に



さて、ではそんな歴史を持つ警戒レーダーで敵を見つけた、としよう。
ここからは射撃管制レーダーが仕事を引き継ぐ。

「同じレーダーなんだから、射撃管制レーダーで敵を見つける事はないの?」

できないと思っていい。
フェイズドアレイ以外のレーダーは、正面方向しか探知できないから、
360度ぐるぐる回転させる必要がある、という話はここでしたね。

「…うん、ああ、覚えてる、覚えてるよ、ハハハ…」

…よって警戒レーダーは稼動中、常にグルグル回ってるのだが、
射撃管制レーダーにはこの機能がない。
というか、相手をずっと監視してる必要がある射撃管制レーダーが
グルグル回っちゃまずい(一定角度で首は振るぞ)。
1回転に3秒程度かかるから、その間に見失ったら意味が無い。

まあ、実は第二次大戦中に米海軍はフェイズドアレイ レーダーの一種を
完成させちゃうんだが、それでもその走査範囲は限られる(これは首を振らない)。
だから、よほどの事がない限り、警戒レーダーの代わりにはならないだろう。

が、実は逆はありで、どうも警戒レーダーの距離情報を基に、
夜間射撃をやった、と思われるケースはある。
射撃管制の元締めとなる計算機、射撃盤に数字を入力するのは手入力だから、
測距儀からの数字だろうがレーダーからの数字だろうが、
実はなんでも使えてしまうんだよね。
正しい結論が出てくるなら、使える数字は何でも使える。

「融通が利くような、利かないような…」



前回も登場したテームズ川上の最大金属物体ことイギリス巡洋艦 ベルファスト。
それの主砲射撃盤だ。中央のうらサビシイ町工場のプレス機みたいなのがそれ。

上から見ると数字を表示するカウンターがあり、これに数字を入れて、
いい年した海軍兵(ここにいるのはエリートだぜ)が、わーっと横のハンドルを回す。
すると入力された数字を元に、このアナログコンピュータが
「ここに向けて撃て。いいから撃て」と目標の座標を出してくれる。
その計算に必要なデータが、相手の速度、進行方向、そして自艦からの距離、
といった要素なわけだ。全てはコイツで計算するためにあり、
それらの数字は、各担当が報告してくる電話で聞いてから手で入力する。
別に足で入力してもいいが、まあとにかく、自動化はされてない。

…今なら、ノートパソコンとエクセルで済むんだけどね。


まあ、しかたない。そもそも求められる機能が全く異なるんだ。
警戒レーダーは、全方位を常に監視し、
接近中の敵が遠方にいる段階で、発見するのが目的だ。
でもって、遠くまで電波を飛ばすなら、長波、つまり波長は長いほうが有利なんだ。
当時の技術でギガヘルツクラスのレーダー波を50km、60kmと飛ばすのはキツイ。
が、長波では解像度が低いから、相手が単艦なのか、艦隊なのかの判別が困難だ。
つーか、そもそも巡洋艦なのか戦艦なのか、駆逐艦なのかがわからない。
航空機相手なら、 さらに厳しい。
一つのカタマリが何機編隊なのかは、実はほとんどカンに頼る事になる。

一方の射撃照準レーダーは、とにかく正確に相手の情報を得たい。
このため、解像度を高める必要があり、それには短波、短い波長でないとダメだ。
当然、近場しか見えない。よって、警戒レーダーと両立できない事になる。

そして、警戒レーダーとは逆に、常に目標を監視続ける必要があり、
特定の方向にレーダーを向けっぱなしにするのが普通なんだ。
当然、他の方向への走査は全く行われないからガラ空きになる。
やはり、ここら辺も警戒レーダーで補完してやらないとならない。



これも例のベルファストのレーダールーム。
航海用艦橋(いわゆる“ブリッジ”だ)の直ぐ奥にあるやつ。

オレンジ色に光ってるのがレーダースコープ(写真の左右で二つあり)。
どうもPPI(全周走査型)スコープらしいので、これは警戒用レーダーでしょう。
射撃管制用レーダーは特定方向しか見てないので(全方位を見る必要がない)、
もっと小さいスコープに、相手までの距離と、方向だけが表示されます。
(いわゆるBスコープ)
そっちは射撃指揮関係の別の場所にあるんじゃないかと思いますが、
どうもその写真が見つからないので、謎、という事にしておこう(無責任)。

でもって、この手前、写真では見えない場所に、もう一つ、
ブリッジに向けてPPIスコープが付いてるんですが、
これが多分、航海用レーダーのものじゃないかと。


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