■一家にイチレーダー



さて、アメリカ海軍初の本格レーダー、CXAMは「警戒レーダー」だった。
ここで、その後から登場する米海軍の「射撃管制レーダー」を簡単に見ておこう。

XFAレーダーの成功で、CXMAレーダーが生まれたわけだが、
もう少し周波数を上げれば射撃管制に使えるくらいの精度が得られるのでは?
とアメリカ海軍はすぐに気がついた。とにかく正確な距離を得られるだけでもいい。
これがCXASという名で「測距専用レーダー(Range only radar set)」
として開発がスタートしたのが1938年ごろ。
ちなみにこのアタリから、アメリカ海軍は例の航空機による
戦艦の砲撃誘導に急速に興味を失ってゆく。
これはレーダー以外にも原因があるんだが、それはまた後で。

「とりあえず、最初は距離だけ正確なレーダーを開発した?」

うん。
射撃管制うんぬんの名前は後から思い出したようにつけた(笑)。

で、500MHz、CMXAの2.5倍の周波数までは、速攻でこぎつけてしまう。
これが予想通り使えるぜ!という事になり、正式採用となった。
そして、ここから警戒レーダーと射撃管制レーダーという二つの流れができて、
このレーダーはFナンバーを付けられる。

すなわちFAなんだが、なぜかMark1という別称も付いてきた。
よって、その名称はFA Mark1だ。
ちなみに命名ルールは本来、F+開発順のアルファベット+Mark ナンバーなんだけど、
通常はMarkナンバーだけで呼ばれることが多い。なぜかは知らん。

でもって、その直後に早くも750MHzまでパワーアップしたFB Mark2が完成、
やったねパパ、あしたは4番センターでハットトリックだ!
とか大喜びしていた直後、あのティザード使節団が来ちゃう(笑)。

「ああ、ギガショックって感じ?」

うん、ギガショック(笑)。今までの努力全て無駄。
まさに一瞬でメガヘルツの時代は終るんだ。
実はここまでのレーダーは真空管で高周波の発生をやってるんだが、
水冷空洞マグネトロンの前では児戯にも等しい、という事になってしまい、
イチからやりなおしとなる。

そんな感じで全く新世代の射撃管制レーダー、
そして米軍初の実用ギガヘルツレーダーとして、FC Mark3の開発がスタート。
1941年の10月に艦載テストを行った(載っけた艦については諸説あり)結果、
大成功と言うレベルの成果となり、正式採用となるんだ。
初期の米海軍の主力射撃管制用レーダー、FC Mark3の誕生だね。
後に一種のフェイズドアレイであるFH Mark8、
さらにその発展型(ただしフェイズドアレイはやめた)
Mark13レーダー(9GHz!)まで進化して、第二次大戦は終了する。
ここまで来ると、方位もそこそこ信用できるデータになってたはず。
ちなみにMark13、手元の資料ではどれもFナンバーが確認できないのだが、
もうこの段階では付けるのやめたのか?

ついでに、途中で飛ばされたFD Mark4は5インチ砲用、
つまり対空高射砲用の射撃管制レーダーだったのだが、
こちらは、ちょっとその成果は微妙だったりする…
750MHz世代だしね。でもうっかり370台近く製造しちゃうんだけど…。



本文とは関係ないけど、文章ばかりだと飽きるかもしれんので(笑)。
空母ホーネット(2代目)の艦橋にあるPPIスコープ。右側のね。
これも航海用レーダーのものと思われ、左の四角いテーブル上に航海図を置いて
確認しながら進んでいたはず。


……でさ、脱線していい?

「ダメって言ってもやるだろ」

うん(笑)。
実は最初の射撃完成レーダー、FA Mark1の誕生のきっかけになったのが、
ウェスタン エレクトリック社が1937年に完成させた真空管、
空冷直熱3極管の316Aで、これは750MHzまでの発振が可能だった。
当時としてはかなりの高性能らしい。

「だから?」

これが結構面白い真空管で、実は元ネタはドイツで1935年に作られた
TS1という真空管だと言われてる。

「わけわからんな」

まあね。
なので、どうもアメリカもドイツも、初期のレーダーでは、
同じタイプの真空管で高周波の発生をやっていた可能性が高いんだ。
実はここら辺に、例のナチスドイツとの怪しい関係の企業が絡むんだが、
まあ、今回はいいよね。

で、さらにこれ、日本でも生産が行われていたりする。
日本電気(NEC)が造ってたのはほぼ確実なんだが、
どうもその用途がはっきりしない。
普通に考えると、レーダー用だと思うんだが…。

「敵味方、入り乱れてるねえ…」

入り乱れまくりだ。傑作輸送機DC-3を思い出すね。
ちなみに、フランス、イギリスでも製造記録があるらしい。

さらにオマケでもう一つ。
実は今でもこの真空管、316Aは入手できる(製造は終ってる可能性あり)。
レーダーでは結局主流になれなかったんだが、
敵味方識別装置に大量に使われたらしく、
戦後、大量に軍から払い下げられたりしてた。
これがタマネギ管とかドアノブ管と呼ばれていて、
これを使った真空管アンプは、今でも日本でも売られてるんだよ。
レーダーからオーディオアンプまで、
実に幅広い活躍の場を持つ装置だ。

はい、今回はいろいろ脱線しすぎたので、ここまで、
次回でレーダー編、最終回…にできるかなあ…。


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