■レツゴー神聖帝国

さて。
とりあえず、ナチスと取引をするなんて!アメリカの恥!なんて会社!
みたいな印象が先に来るが、この点については、いくつかの予備知識がいる。
「完全に己の信条で突っ走った」ヘンリー フォード閣下を除くと(笑)、
彼らの活動は、「ある程度までは」という条件付きながら、決して不当なものではない。

最初に知っておきたいのは、ナチスによる民族虐殺、
ホロコーストの全貌が明らかになったのは、戦争も終了間近になってからだ、という点。
具体的にはノルマンディー上陸作戦後、ヨーロッパにあった
いくつかの強制収容所を連合軍が開放して、その凄惨さが初めて知られた時からだ。
それまではナチスドイツもヒトラーも「ファシズム」という「民主主義の敵」、
せいぜい「オヒゲの愉快なおじさんと不愉快な仲間たち」
という程度のイメージしかなかった。

現代の我々が「ナチス」と聞いて感じる「凄惨さ」「残虐さ」は少なくとも、
第二次世界大戦前には無かったイメージだし、
世界的にこのイメージが定着するのは、
ほとんど戦後になってからだ。

1933年3月、ナチス突撃隊(SA)が教会を取り囲むという、
(国会議事堂は放火で焼けた後なので国会はポツダムの教会を議場とした)
事実上のクーデターに近い状態の中で成立した全権委任法案が、
ナチス独裁のスタートを意味したのは誰にでもわかった。
(前にも書いたが、ナチスは一度たりとも選挙で過半数の議席を取ったことはない。
当然、選挙によって政権の座についた事実など、存在しない)

それでも多くのアメリカ企業がそれに協力したのは、
「イギリス、フランスに次いで有望な市場」
という、単純な考えからだけで、そこに政治的なキナ臭さはない。

ファシズムの国家、という点は問題だったろうが、
これには「共産主義よりはマシ」という、当時の一般的な考え方があった。
むしろドイツは「共産主義、ソ連に対する防波堤」と考えられていたフシがある。
それに加えて「アメリカ企業」である以上、ヨーロッパが戦争になった場合、
どの国が勝っても、商売は続けられるようにする、という程度の打算はあったろう。

「無かった事」にされがちだが、当時のナチスのシンパ、ファシズムの信奉者は、
アメリカには、驚くほど多かったし、イギリスにも居た。
特に、アメリカは世界恐慌後の不景気の上、労働組合などに理解を示して、
「社会主義的」と見られていたルーズベルトが大統領だったこともあり、
「アンチ共産主義者」まあ、いわゆる資本家、あるいは土地資産による金持ち連中にとって、
ナチスの主張は決して不快ではなかった。



ルーズベルトは大統領就任直前に一度、暗殺未遂にあっている。
さらに多分、歴史上、初めて「反資本主義」、つまり社会主義に近い、
という点でアメリカの支配階級から反感を買った大統領だった。
戦争が無ければ、アメリカに緩やかなクーデターが起きた可能性は、ある。


裕福なユダヤ人達だけが例外的にナチスを憎んだが、
戦後の彼らの力強さからすると、不思議なくらい、
この時期のユダヤ人社会は無力だ。なぜだかは、全くわからない。
あるいはこの経験を元に、戦後の凶悪なまでの
「政治力」作りが行われたのかもしれない。

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