■空の力

さて、今回は最初に戦線が大きく動いた5月4日から、
珊瑚海海戦直前となる5月6日までの動きを追いかけます。

そしてこの日からいよいよ、空母航空戦力が戦場に投入されるのですが、
先手を打ったのはフレッチャー率いるアメリカ海軍でした。
ここから太陽系史上初の空母艦隊決戦へと発展してゆくわけですが、
まず最初に両者の航空戦力を確認して置きましょう。

まずは日本軍の手の内から。

MO作戦開始時の日本側の正規空母の艦載機数は
第五航空戦隊戦時日誌 戦闘詳報によると以下の通り。
(ただし私は現物を見てない。以下の数字は戦史叢書 49巻からの再引用)

●翔鶴

 雷撃隊(97艦攻)

 16機(+3?)

 急降下爆撃隊(99艦爆)

 21機

 戦闘機隊(ゼロ戦)

 17機

 

 計54機

*7日の午前中の戦闘で翔鶴は攻撃隊13機+索敵隊6機の計19機を運用したので、16機という数字は怪しい。
翔鶴 航空機隊の戦闘行動調書にあるように19機が正しい可能性が高い。
ここでは念のため、両者を併記しておく。


  
●瑞鶴

 雷撃隊(97艦攻)

 21機

 急降下爆撃隊(99艦爆)

 22機

 戦闘機隊(ゼロ戦)

 20機

 

 計63機


この2艦は五航戦として常にセットで運用ですから、
 
●五航戦全体

 雷撃隊(艦攻)

 37機(+3?)

 急降下爆撃隊(艦爆)

 43機

 戦闘機隊

 37機

 

 計117機

こうして見ると、3種類の艦載機が、ほぼ均等に搭載されており、
その中では、やや艦爆が多いかな、という感じでしょうか。
バランス型の配備と言えます。



瑞鶴、翔鶴にとっても、そもそも人類にとっても空母艦隊戦は初体験の戦闘でした。
よって、その搭載機種はバランスのいい、ある意味で平凡な構成となったのか、と思います。
が、この後のミッドウェイでも日本海軍は同じような機種構成で臨むので、
あるいはこれが日本の空母決戦仕様だったのかもしれませぬ。

ちなみに例のラバウルへの空輸に失敗したゼロ戦を翔鶴は3機(前回みたように1機は損失済み)、
瑞鶴は5機、持っていたはずなんですが、これを作戦で使用したのかはわかりません。
そもそも、上の数字がそれを含むのかどうかもはっきりしないのです。
例によって、このあたりもまた謎、としておきます。

次は、もう一隻の日本側の空母、空母機動部隊とは別行動になった改造空母の祥鳳を見て置きます。
こちらは祥鳳の珊瑚会海戦戦闘詳報からの引用。

●祥鳳

 雷撃隊(艦攻)

 10機

 戦闘機隊

 12機

 

 合計22機

艦載機数は翔鶴、瑞鶴の半分以下で、やはり補助空母なんだなあ、という感じですね。
しかも戦闘機12機のうち、ゼロ戦は7機のみ、後の5機は旧式の96式艦戦でした。
(一部の資料にある戦闘機13機という数字は戦闘詳報の記述で十二の後にある
カッコ“(”を漢字の一だと誤判断し十三と読み違えてるものだろう。
祥鳳の戦闘詳報は比較的読みやすい字で書かれてるが、それでも手書きなので
よほど注意深く読む必要はある)

当初は祥鳳を五航戦に組み込み、艦載機は全機戦闘機にする、という話もあったようですが、
ゼロ戦すら足りない状況では、それも困難だったような気がします。
それが可能だったら、まだ活躍の機会はあったんでしょうが…

ちなみに10機の雷撃機は攻撃部隊としてはかなり強力で、ゼロ戦7機と合わせ、
正規空母機動部隊相手に、1回の空襲はできたでしょう。
残念ながら、その機会はありませんでしたが…
さらにちなみに祥鳳の艦攻はゼロ戦にはできない長距離索敵用の
索敵機として積まれていた、という面もあります。
(一人で操縦しながらの観測では限界がある)

ただし、防御面の戦闘機の数は心細い限りですから、
祥鳳を正規空母の機動部隊相手に単独行動させるにはあまりにも危険でした。
これはもう、土佐犬との戦いにポメラニアンを投入するようなものです。
まあ、誰も空母艦隊戦がどんな戦いになるか知らなかった、といえばその通りですが、
祥鳳からも五航戦からも単独行動には反対があったので、
やはり当時すでに無茶な作戦、という認識はあったと考えていいでしょう。
本来なら、五航戦の翔鶴、瑞鶴と合わせて運用すべき艦だったはずです。

**以下2015.11.2追記***修正

お次は、これに対するアメリカ側の状況を確認します。
ただしこちらは搭載機数に関する明確な報告書類はUSSヨークタウンの報告書にしかなく、
よってUSSレキシントンに関しては5月7日の最初の攻撃で出撃した数を採用しており、
実際はこれより多い可能性があります。

ただ、この時期のアメリカの空母に積まれた飛行隊は基本的に18機編成で、
本来は各飛行隊18機×4飛行隊=72機が全ての空母の機体定数となりますから、
予備機があってもせいぜいあと1機か2機だと思います。…たぶん。
(ちなみに中型空母USSレンジャーとUSSワスプは定数72機ではない。
艦内が手狭なため大型で搭載する魚雷もかさばる雷撃機が少ない)

まずはUSSヨークタウンから。
予備機は通常、バラバラに分解して格納庫の天井からブラ下げてあったりするんですが、
この時の予備機がどういった形で搭載されていたかは不明です。

●USSヨークタウン

 雷撃隊(艦攻)/VT-5

12機(+予備1機)

 急降下爆撃隊(艦爆)/VB-5

15機(+予備3機)

 索敵爆撃隊(艦爆)/VS-5

15機(+予備2機)

 戦闘機隊/VF-42

17機(+予備2機)

 

 計67機

この内、5月4日のツラギ空襲で艦戦(VF)2機と雷撃機(VT)1機を損失、
そして戦闘が無かったはずの5〜6日の間に、理由不明ながら更に1機の雷撃機を損失してます。
このため7日の海戦本番スタート時点では戦闘機が予備2機を作戦可能状態にしたため予備なし、
一方、雷撃機はなぜか予備機を作戦可能状態にしなかったので、稼働機は10機に減り予備1機はそのままです。

この辺り、日本海軍とは、機種の分類が違うので、解説がいるのですが、
先にもう一隻のUSSレキシントンの数字を見てしまいます。
ただしUSSレキシントンの行動報告書は稼働機数の明確な数字がなく、
以下の数字は珊瑚海海戦初日、7日の朝にUSSレキシントンが出撃させた全機数の集計です。
なのでこれももう数機、どっかに予備で隠し持っていた可能性はあります。

●USSレキシントン

 雷撃隊(艦攻)/VT-2

12機 

 急降下爆撃隊(艦爆)/VB-2

18機

 索敵爆撃隊(艦爆)/VS-2

18機

 戦闘機隊/VF-2

17機

 

 計65機


というわけで、アメリカの両空母の合計は132機となります。
先にも書いたように、レキシントンはもう少し持ってる可能性がありますが…。

とりあえず、この数字で比較すると、
日本の五航戦は117機、祥鳳の22機と合わせると139機、
対してアメリカ側は132機、よって両者の戦力差は大筋で10%前後で収まる、と見ていいでしょう。
航空戦力に関しては、数の上ではほぼ互角なのです。

ちなみに海戦が行われた地区は、両者とも陸軍の機体だと
双発か四発エンジンの大型爆撃機でなければ進出不可能で、
戦力としてはほぼ当てにできないため、空母の航空兵力が全てです。

ここで簡単にアメリカの艦載機の種類を説明すると、
最大の特徴は日本の3機種に対して4機種ある点ですね。
が、実際は日本もアメリカも艦載機の機種については
艦上戦闘機(艦戦)、艦上急降下爆撃機(艦爆)、艦上雷撃機(艦攻/魚雷で攻撃)
の三機種しかありません。

どういうこと?というと、上の分類は艦爆(急降下爆撃機)が
通常の急降下爆撃部隊と、索敵も兼任する索敵爆撃隊の
二つの部隊に分かれてるためです。

最初にちょこっとだけ書きましたが、
アメリカの艦爆の正式な分類は索敵爆撃機、でして
最初から索敵任務を兼ねてます。
でもって現場では任務ごとに明快に分類されて運用されており、
単なる急降下爆撃機隊と、索敵爆撃機隊は分けて編成されていました。

上の表でいえば急降下爆撃隊(VB)と索敵爆撃隊(VS)は同じ機種、
SBDドーントレスを使用してますが、VSの方が索敵任務も兼ねた部隊なのです。
このため両者の爆撃機を合計すると、
USSホーネットは35機、USSヨークタウンだと36機と、
搭載機全体の半分以上が急降下爆撃機となってます。
この辺りは日本の空母艦載機の構成と明確に異なる部分ですね。



連載当初にも書きましたが、アメリカの艦上爆撃機、急降下爆撃用の機体は
最初から索敵機を兼ねており、その分類は索敵爆撃機(Scout Bomber)なのです。
ちなみにSBDドーントレスのSBDはScout Bomber Douglas(ダグラス索敵爆撃機)の略。

この索敵任務の爆撃機により、索敵専門の飛行隊を造って
各艦に搭載していたのがアメリカ海軍空母の特徴の一つでした。
これは各空母に13〜18機の索敵機が必ず積まれていた、という事を意味します。

このため上でも見たように艦爆がやけに多い、という構成になるのですが、
ミッドウェイ海戦まで索敵を完全に馬鹿にしてロクに力を入れてない日本に対し、
少なくともアメリカ海軍の考え方は違っていた、というのが見て取れる部分です。

この結果、爆撃機に偏った機体構成になってしまうのですが、
アメリカの急降下爆撃機の場合、
1000ポンド(453s)の強力な爆弾が使えたため、
かさばる上に運用も大変な魚雷よりも重宝されたのかもしれません。

あるいは、これも最初に書きましたが、この時期のアメリカ海軍の雷撃機(艦攻)は
すでに生産中止となっており、残りは海軍内の在庫のみ追加はない、
というTBDでしたから、そもそも数が揃わなかった可能性もあり。

ちなみに索敵部隊とはいえ、機体の爆撃機の機能はそのままですから、
索敵によって敵が見つかった後は、
そのまま艦上爆撃機として戦力になるわけで、合理的です。
ただし、珊瑚海海戦ではアメリカ側もあまり索敵が上手くいっておらず、
この点、あまり褒められない状態になってしまうのですが…。

余談ですが、上のアメリカ側の表にあるVF-2といった表記は各部隊の名称で、
基本は搭載された空母の番号と、機種によって決まっています。
USSヨークタウンでは艦番号はCV-5ですから
VT-5(Tが雷撃機/Torpedo)、VB-5(Bが爆撃機/Bomber)
VS-5(Sが索敵機/Scout)、で最後はVF-5(Fが戦闘機/Fighter)のはずなんですが、
なぜかヨークタウンにはVF-42が配備されていました。
理由は調べるのが面…いや、不明としておきましょう。

同じように艦番号がCV-2のレキシントンは2番の飛行隊を積んでるわけです。
(CVが空母を示し、後の数字は建造順の番号。レキシントンはアメリカ空母2号なのだが、
最初のUSSラングレーはほとんど試作空母といった存在なので、事実上の最初の空母だ)

ちなみに、このルールも1942年中に多くのアメリカ空母が沈んだ結果、
それ以降は無視されるようになってしまいます。、
生き残った飛行隊が1943年末から次々に配備され始めた新型空母軍団、
エセックス シスターズに配備され始めると何がなんだかわからん、
という事になってしまったからです。

さて、といった感じで、いよいよ5月4日以降の戦いを見てゆく事にしましょうか。



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