■魚雷の偉さの研究

でもってせっかくなので、対艦兵器として、
魚雷がなんでそこまで怖いのか、というのを見て置きましょう。
ただし、厳密に理解するには私の苦手な流体力学、
さらには衝撃波、という面倒な問題が絡んでくるので、あくまでその初歩だけ。
ただし、衝撃波の基本知識だけはどうしても居るので、
「F22への道」の記事をまだ読んでない、という人はこちらを見て置いてください。

とりあえず、水中で爆発(急速膨張)を起こした場合、
大気に比べて極めて密度の高い(重い)水という物質を周囲に吹き飛ばすことになります。
水中は抵抗値が大きく、爆弾の破片を銃弾のように高速で飛ばし、
これによって破壊、殺傷力を得る、という大気中と同じ効果は期待できません。
その代わり、爆発を受けてその力を伝播する水が恐るべき破棄力を持つことになるのです。

この時、その破壊力を受け持つのが水中衝撃波で、
さらに条件によっては、より強力な破壊力を持つのが、
爆轟ガス球の膨張と縮小に伴う、高速バブルジェット(high-speed bubble jet)なのです。

この辺りの水中爆発の流れを簡単に見ると以下のようになります。




まず、爆発から1/1000秒単位(ミリ秒)で衝撃波が発生、高速(音速)で広がります。
水の音速は大気よりはるかに速く、秒速1500m前後と(厳密には水温によって異なる)、
実に大気中の約4倍以上になります。
衝撃波の背後には圧縮された水の壁が形成されますから、
それがこの高速で広がり、標的の艦体にぶつかるわけです。

そもそも水は大気に対して820倍を超える密度を持ち、
その高密度の媒体が秒速1500mという恐るべき高速でぶつかるのですから、
その破壊力は相当なものとなります。

物体を破壊するのは力ですが、運動の力はエネルギーを変換して得られます。
その運動エネルギーは以下の数式、

0.5×質量×速度×速度=運動エネルギー

で求められるため(質量は体積×密度)、より高い質量と、
高速な伝播速度を持つ水中衝撃波の力はすさまじいものになります。
よって同じ量の火薬の爆発による衝撃波でも、
大気中とは比べものにならない強力な破壊力を持つのです。
(その分、影響を及ぼす距離が短くなるが)

ちなみにエネルギーが生じさせる発生する力を求める式は

力=エネルギー÷距離

ですから、より短い距離でエネルギーが消費される方が強い力になります。
衝撃波を受け止める形になる、つまりこれを抑えつける形になる
重い船体は大きく移動しませんので、極めて短距離でエネルキーが力に変換されます。
すなわち凄まじい力がここに加わり、一気に破壊されてしまうのです。
当然、爆発がより近い方が衝撃の速度は速いので威力は上がります。

水中でダイナマイトを爆発させると、魚が浮かんでくるダイナマイト漁という、
日本では禁止されてる乱暴な漁法がありますが、
これは強烈な水中衝撃波で押しつぶされた魚が
気絶して浮かんでくるもので、それほど水中の衝撃波は強烈となります。
(実際は死んでしまって、沈む魚の方が多いはずだが…)

よって魚雷が直撃すると弾頭の爆発で艦底の鉄板をブチ抜くだけで無く、
それとほぼ同時に、この水中衝撃波によって
その周囲にさらに強烈な破壊をもたらします。
これによって巨大な破壊口が形成され、一気に浸水、
小型艦では致命傷となる事が多いのです。

さらに直撃でない場合でも、至近距離での爆発なら
この衝撃波だけで十分な破壊力を持ち、船体に相当な破壊を与えます。
これが水中爆発による恐怖その1、衝撃波の破壊力です。
(急降下爆撃の爆弾が水中に落下しても同じだが、こちらは高速で水中に衝突、
一気に沈降してしまうため、至近距離での爆発は難しい。
さらに対軍艦の攻撃なら甲板をぶち抜いてから爆発するよう
遅延信管を使ってる事が多く爆発深度はより深くなる。
それでも至近弾による損傷は多いから、一定の効果はあるのだろう)

でもって、条件が揃えばさらなる破壊力を持つのが
その後発生する高速バブルジェットです。
爆発から数十ミリ秒後に発生する爆轟ガス球の膨張、縮小、に伴って生じる現象ですね。
ここで、もう一度、同じ水中爆発の経過図を見てみましょう。



バブルジェットと言ってもプリンターでも浴槽のステキ装備でもなく、
爆発によって生じた一種の気泡に伴う水流(水圧)で、
一種の真空地帯のようになった爆轟ガスの膨張跡に、周囲から一気に水が流れ込み、
その際、水面方向に吹き上げるように生じるものです。

水中爆発では、最初の爆発の圧力で周囲の水が吹き飛ばされるため、
爆心部には極めて密度が薄い、水圧の低い部分が発生し、
その中に爆発で生じた火薬ガスが充満します。
これが爆轟ガス球などと呼ばれるものです。
十分な爆発圧力がある間は、これが維持されるのですが、
それが維持されるのは数ミリ秒の間のみで、すぐに周囲の水圧に負け、
ここに一気に水が流れ込みます。

でもって流体力学に弱い私にはなぜなのかよく判らないのですが(涙)、
一般にこの水の流れは上向きのモノとなり、水面方向に突き上げる形になるのです。
(常に水面方向に向かうので重力の関係?
静止した流体中の全方向からの圧は一定だから水圧が理由ではないだろう)

この突き上げる強烈な水圧が高速バブルジェットと呼ばれるもので、
これは意外なまでに強烈な力を持ち、
通常、最初の衝撃波に匹敵する力の大きさで、
さらに衝撃波の数倍の長さの時間、持続します。
(ただし図で見るように、全方位の衝撃波とちがって上向きの力が主となる)

このため、魚雷の爆発地点の上に船体がある場合、この強烈な突き上げの力を受け、
小型艦だと船体ごとへし折られてしまう事があります。
大型艦でも船体構造が歪んでしまい、各部の隙間から浸水して、
沈没の危険性が出て来るのです。
水中の係留機雷が船を沈めてしまうのも、同じ原理によります。

なので魚雷は直撃させてもよし、艦底に潜り込ませて、そこで爆発させてもよし、
どちらにしろ同じ火薬の量でも、大気中に比べて
はるかに強力な破壊力を発揮する事になります。

魚雷はかなり複雑で高度な装置となるので、
お値段的には極めて高価な兵器なんですが、戦艦や空母を沈めてしまえるなら、
その費用対効果は極めて高いお得な兵器となります。
日本海軍が魚雷にこだわったのも、まあ、わかる気がしますね(笑)。


■Image credits: Copyright Owner:

Naval History and Heritage Command

Catalog #:
NH 88442


第二次大戦中、水中の係留機雷によって沈没、その後で引き上げられた潜水艦の艦底部。
ご覧のように下から突き上げれるような形で艦底部が凹んで圧潰しており、
おそらく上に向けて突き上げる高速バブルジェットによるものでしょう。
実際に破壊された穴は意外に小さなもので
(高い水圧の中に居る潜水艦ではそれでも致命傷になる)
おそらく直撃したのではなく、磁気反応機雷が至近距離で爆発したのだと思われます。

■Image credits: Copyright Owner:
Naval History and Heritage Command
Catalog #: NH 73407



機雷や爆雷の爆発でよく見るこういった水柱は、爆発の衝撃波よりも
このバブルジェットによるものが大きく(数十ミリの時間差で両者が来るので識別は難しいが)、
この上に船体を載せて置いたら強烈な突き上げの力を食らう、というのは想像がつくでしょう。

ちなみに日本におけるこの辺りの衝撃波と高速バブルジェットについては、
なぜか民間の研究に優れたものが多く、興味のある人は
三井造船、水中爆発などで検索してみてください。


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