■USSレキシントン隊の攻撃

さて、そんなわけでUSSレキシントン隊は雲の多い空域に入った後、
艦爆の主役VB-2の11機が迷子になってしまい、
残りのVS-2の5機(含む指揮官機)、そして11機の艦攻隊VT-2だけが
MO機動部隊への攻撃を行う事になりました。

ちなみにUSSレキシントンの報告書は自分が受けた日本側の攻撃については
詳細に記録してるんですが、なぜか攻撃隊の行動についての
報告はかなり適当で、機体の損失すらまともな記録を残してません。
ついでに写真撮影もゼロ。
この辺りも経験不測の弊害ですかね…。

よって、この記事の情報は主に後にまとめられた
珊瑚海海戦記述報告(Battle of coral sea Combat Narratives )で確認してます。

さて、迷子にならなかったVS-2とVT-2ですが、目標地点に到達しながら(ただし自己申告)
こちらもMO機動部隊を発見することができませんでした。
その後しばらく、周辺を飛行していると(flying a "box."と書かれてるが意味不明)
間もなく雲の切れ間に出て、ようやく約20海里先にMO機動部隊を発見することに。
この時、VS-2と共に居た指揮官機から
行方不明のVB-2に対して無線で呼びかけてるんですがうまく行かず、
結局、合流に失敗しています。

このUSSレキシントン隊のMO機動部隊発見時間がはっきりしないのですが、
日本側の瑞鶴の記録だと11:47分に敵飛行機5機見ゆ、とあり
第七駆逐艦隊の戦闘詳報では11:45に進行方向距離10q前後に敵機発見と
書かれてますから、11:40前には上空の攻撃隊はMO機動部隊を発見していた、
と考えていいように思います。
USSヨークタウン隊の攻撃が終わってから約20分、というところですね。

ちなみに、このUSSレキシントン隊の攻撃直前に翔鶴の護衛にまわった
駆逐艦 潮(うしお)は11:46に対空砲火を開始してますから、
ほぼ目標発見と同時に対空戦闘に入ったようです。
すなわち、日本側はまたも不意をつかれた、という事を意味します…。

ただし、この時、日本側のゼロ戦の迎撃態勢は
最初のUSSヨークタウン隊の時よりはましだったようです。

まず翔鶴のゼロ戦は今回も全機、上空で待機中でした。
USSヨークタウン隊の攻撃終了後、これは母艦の翔鶴が着艦不能になってしまったため、
着艦、給油が出来なかった、というのが大きいでしょう。

無傷だった瑞鶴は既に完全に別行動で、はるか彼方にあり
(20q以上距離があったはず)、
そっちはそっちで、自艦のゼロ戦の収容と給油で手一杯だったはずですし。
ちなみに翔鶴の第1、2小隊のゼロ戦4機は9:55前後の段階で発艦していたはずですから、
すでに2時間近く上空にあり、空中戦を一回やった後では、
燃料はかなり厳しかったと思われます。


■Image credits:
U.S. Navy Photograph, now in the collections of the National Archives.
Catalog #: 80-G-17031



前回も見た、USSヨークタウン隊による爆弾が命中した直後の翔鶴。
飛行甲板からも煙が出ており、離着艦は不可能になってる様子がうかがえます。

このため、後に帰還する攻撃隊は瑞鶴が収容するのですが、
護衛戦闘機はほぼ最後まで上空にあったようで、翔鶴隊のゼロ戦9機の内、
4機が最後は燃料切れで不時着水、パイロットは周囲の駆逐艦などに救助されてます。
(飛行機隊記録行動調書の一枚目の報告書では不時着水3機と書かれてるが、
2枚目の機体ごとの詳細を見ると実際は4機着水してる)




ちなみにこの日、翔鶴のゼロ戦隊は空戦で2機を損失しているのですが
この損失が最初のUSSヨークタウン隊によるのか、
このUSSレキシントン隊によるのかがはっきりしません。
よって、この段階で9機が全機そろっていたのかはよくわかりませぬ。
もし先に2機が撃墜されてたなら、この段階では7機のみが上空にあった事になります。

対して、瑞鶴隊のゼロ戦の状況はちょっと謎だったりします。
USSヨークタウン隊を迎撃した7機がそのまま上空に残り、
その後USSレキシントン隊を発見してから、
最後の3機小隊(例の先頭機の故障で出れなかった小隊)を発艦させた、とするものと、
攻撃の合間に上空の6機を一度着艦させた、
とする記録がそれぞれあります(実際は7機全部着艦だと思うが)。

ちなみに、この海戦に参加していたゼロ戦パイロット、岩本 徹三さんの手記によると、
この20〜30分の攻撃の中断中、全機が瑞鶴に着艦して給油した、とされてます。
正直、岩本さんの手記は数字的な部分など、かなり怪しいのですが、
スコールの中にあった瑞鶴に強行着艦するこの辺りの描写は
さすがに記憶違いで片づけるのはどうか、という面があります。
よって瑞鶴隊ゼロ戦の着艦給油はあった、と考えるのが正解のような気がしますね。

とはいえ、20〜30分の時間で7機のゼロ戦を着艦させ、
給油まで終わらせる事ができるのか、というと私にはわかりませぬ(無責任)。
ここでは、そういった話もあるよ、とだけしておきます。

ちなみに瑞鶴隊の護衛ゼロ戦は、この日を通じて損失ゼロなので、
今回の迎撃に向かった機数も同じく10機です。
とりあえず、USSレキシントン隊の攻撃開始時には、
これら全機が空中にあったのは確かなようです。

で、USSレキシントン隊の攻撃報告ですが、これまたUSSヨークタウン隊のように
判りやすい図解付で報告などしておらず、
とりあえず報告書から判る範囲で推測するしかありませぬ。
ここでは珊瑚海海戦記述報告(Battle of coral sea Combat Narratives )から
その攻撃の状況を再現してみましょう。

アメリカ側の記録だと、USSレキシントン隊の攻撃開始は10:57でした。
USSヨークタウン隊の攻撃からほぼ1時間後となります。
今回は日本側の迎撃も早かったようで攻撃隊がMO機動部隊を発見した後、
間もなくしてゼロ戦とMe109(笑)の攻撃を受けた、とされてます。

先に書いたように、この時のUSSレキシントン側の空戦による
損失がはっきりしないのですが、最終的には4機のSBDと、3機のF4F(2機説あり)、
そして1機のTBDが未帰還となってます。
USSヨークタウン攻撃隊に比べると、損失は多めです。

ただし、この内SBDとTBDの1機は迷子になった結果、帰り道で燃料切れで墜落したのが
確認されており、空中戦による損失ではありません。
それ以外の機体も、燃料切れによるものが多かったと見られてますが、
はっきりした事はわかりませぬ。
とりあえず空戦による日本側の戦果だと思われるのは、
最大でSBD 3機、F4F 3機まで、実際は恐らくそれより少ない、という事になります。

ちなみにこの段階で翔鶴は火災を消化していた、という話もあるのですが
USSレキシントン側の記録では、無傷の空母の艦隊(瑞鶴)と
そこから東に15海里(約27.8q)の位置に煙を吐いてる別の空母(翔鶴)の艦隊が居た、
と書かれてますので、翔鶴の消火は完全には終わってなかった可能性が高いです。

そして、この手負いの翔鶴にUSSレキシントン側の攻撃隊は
その攻撃を集中させます。
このため、またもや瑞鶴は攻撃を受けずに済んでしまうのでした…。

USSレキシントン隊の攻撃内容の詳細は不明ですが、
その記録では2発の爆弾命中と、5発の魚雷命中を報告、これを撃沈としました。

が、これもあくまで“攻撃側の主張”で、
実際の戦果は翔鶴に対して1発の爆弾命中があっただけで、
当然、沈没もしてません。
この3発目は艦橋後ろに命中したとされます。
よって翔鶴は最終的に3発の命中弾を食らったわけです。
そして今回も、アメリカ側の雷撃の戦果はゼロで終わってます。



レキシントン隊の雷撃機による攻撃記録。
命中を主張してる5発の雷撃の航跡と命中位置を示してます。
詳細は不明ながら、今回も片側からだけの雷撃になってるのが見てとれ、
当然、命中弾は無しでした。

ついでに、今回は標的を翔鶴と正確に認識してるんですが、
どうも自信がないらしく、やはり名前の後に“?”が付いてます(笑)。

といった、感じでUSSレキシントン隊の攻撃は終了します。
この終了時間もはっきりしないのですが、第七駆逐艦隊の記録だと、
12時13分には対空砲火をやめてますから、15分前後の攻撃だったと思われます。

これでアメリカ側の全攻撃は終了で、その損害は翔鶴に3発の命中弾を与え、
中破させただけで終わりました。
ただし、その人的損失は戦死109名と、艦内で大爆発を起こして沈没した
USSレキシントンの約半分近くにもなっており、意外に深刻な損傷だったようです。


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