■戦いは敵を見つけてから

さて、前回は珊瑚海海戦初日、5月7日の夜明け直後に
日米双方が索敵機を飛ばすまで、を見ました。
今回はその結果発表です。

まずは前回の最後に見た日米双方の索敵機発進時間を再度確認。

 

デボイネ 

ラバウル 

MO機動部隊 

MO主隊(衣笠、古鷹) 

TF-17  

 発進時刻

 6:30

 6:30

6:15 

6:00ごろ

6:19 


夜明け直前の6時ごろから、6時30分にかけて両軍とも偵察機を飛ばしてるのがわかります。
(日の出は6時20分)
ついでにMO主隊の数字はやけにキリが良すぎるので、実際はもうちょと遅いんじゃないか、
と個人的に疑っているのですが、確証はありませぬ(笑)。
(主計課の担当者がサボってキチンと記録を取っておらず
後から適当な数字を並べてる、と思われる戦闘詳報もあるのだ。
特に戦闘行動中は電灯をつけるなんてできないので、
夜間の戦闘記録の信憑性は、関係者皆さんの記憶力しだいとなる)

となると次の問題はそれぞれ、どの方向に機体を飛ばしたのかという点です。
前回見たように、日米入り乱れての錯綜状態にあるため、
その方向によって得られる情報は全く変わってしまいます 。
なので、その点も確認しておきましょう。

下の地図は、それぞれの場所から
どれだけの距離をどの方向に索敵機が飛んだのか、を図にしてみたのもの。
線の長さが索敵半径で、この距離を持って、それぞれの2本線の間を
複数の機体で索敵する事になってました。
参考までにMO機動部隊が12機、TF17が10機を飛ばしてます。
空母ではなく重巡から発進したMO主隊の場合は水偵4機となってます。
(祥鳳から出さなかったのは本隊から離れられない事、
さらに搭載機数が少ないので攻撃のために機体を温存したからだろう)


**注**
下の図はあくまで目安で、実際は索敵範囲は1〜5度程度のズレがあった可能性が残る。
そもそも、記録の残ってる数字が錯綜してるのだ。

例えば前日の五航戦から各部隊への通達では索敵計画は
艦隊から170度から270度(北を0度とする)の予定だったが、
翌日のMO機動部隊司令部(五戦隊)の戦闘詳報によると‘160度’より270度を索敵となっている。

ちなみに東側を索敵した翔鶴の記録では最大で180度(真南)まで、
西側を索敵した瑞鶴の戦闘詳報によると一番西の索敵線は265度まで、よってこれまた数字が違う。
以下の地図ではとりあえず、手に入った資料で最大の角度を採用してるので、
とりあえず、これ以上範囲が広がる事はない、という図だと思ってほしい。




本当はこの日はツラギからも日本側の索敵機が飛んでるのですが、
特に海戦に影響を与えてないので、これは省きました。

ついでにネオショーとシムスは、この時間だと実際はもう少し南に居るんですが、
判りやすさを優先して、ギリギリで地図の上に残してあります。

ラバウルの基地からは一式陸攻、デボイネの基地からは97式大艇、
MO主隊からは重巡の衣笠と古鷹に積まれた水上偵察機(機種不明)、
MO機動部隊からは97式艦攻(雷撃機)がそれぞれ索敵に出ています。

この内、MO主隊の索敵機は発進地点ではなく、
しばらく飛行してロッセル島に達した後、ここを基準点にして索敵を行っています。
なぜかは知りませぬ(笑) 。
対するアメリカはTF17のヨークタウンから、例のSBDによる索敵爆撃機部隊(VS)が発進してます。

このうち、ラバウルから飛び立った一式陸攻はさすがに大型の双発爆撃機だけに
航続距離も長く、はるか南の海域、700海里 (約1390q)まで進出してます。
逆に索敵の距離が短かったのがMO主隊の索敵機で、
ロッセル島から150海里(248q)までだけでした。
これは発進地点からロッセル島まですでに距離があったのと、
索敵終了後は前回説明したように
ずっと西にあるデボイネの水上機基地まで帰る必要があったからでし ょう。

でもって、それ以外の全ての索敵距離は250海里(約463q)でした。
デボイネ基地からも、MO機動部隊からも、さらにアメリカ側のTF17までも同じ距離で飛ばしてます。
なので、これが索敵の一つの基準となっていたようです。
この距離は先に見た空母艦隊決戦における標準距離240海里にも近く、
発見 後、すぐに飛び立てば追いつける必殺の間合いギリギリの距離、
という意味もあるかもしれません。

ここで再度 同じ地図を。
とりあえず、日米の両機動部隊の索敵範囲がスカっとすれ違っていて、
全く重なってないのを最初に見て置いて ください(笑)。
つまり、両者ともお互いを発見することは最初から不可能だったわけです。
これがこの日のすべての始まりと原因になります。



次に、デボイネから飛び立った索敵機はTF17に接触できない、というのもすぐ判るでしょう。

対してラバウル基地から発進した索敵機と
ロッセル島を軸に索敵したMO主隊の索敵機は、 TF17の主力をその索敵範囲内に完全に捕らえ、
さらにはそこから分離した別動隊、
ジョマード水道出口に向かっていたTG17.3までもその索敵範囲内に収めてるのが見て取れます。

逆にTF17から見ても同じことが言え、こちらもMO主隊はもちろ ん、
ポートモレスビー攻略部隊まで完全にその索敵範囲内に収めてます。
対して、MO機動部隊に対しては、まさかそんな南まで行ってるとは
思ってなかったようで、その索敵の網から完全に抜け落ちてしまってました。

そしてMO機動部隊も、前日の索敵機からの報告に気を取られ、
艦隊の西側ではなく南西側にその索敵範囲の中心を向けてしまってます。
(南洋部隊司令部からの指示でMO主隊と索敵範囲をずらした、
という可能性も あるが、確認できず)
この結果、見事にTF17を見逃してしまい、
その代わり、南に居た給油艦ネオショーの艦 隊を
バッチリと捉えてしまう状態なのがよく判ります。

するとどうなるか、というと、まあ予想通りの展開 、
両海軍の空母機動部隊はお互いを発見できず、
その代わり別の艦隊を発見することになり、
ここから海戦が始まる事になるわけです。


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